第10話 捜索
【前回までのあらすじ】
一悶着ありながらもメリアスの活躍により、無事学院騎士団に入団できたレイ。
入団早々に初の任務、"鎌鼬"捜索へと駆り出される。
人攫いの野盗が隠れていたアジトで、突如鋭利な大鎌で切り裂かれたというこの事件。その大鎌の主を"鎌鼬"と呼称し、その捜索がレイ達の初の任務となった。
入団した日の翌日、放課後である夕方。学院騎士団は事件の発生したというアジトまでやってきた。
その場所は王都よりも北、人類が魔物と抗う東西に広がる長大な砦、対大侵攻防衛砦・ヴァルハラの少し手前。それはかつて数百年ほど前に使われていた旧い砦の一部であり、改築と共に切り離された場所だ。
「よりにもよってこの場所を根城にするとはバチ当たりな奴め。」
レイの隣のウィスタリアがぽつりと呟く。この砦はかつて先人達が守り抜いた証そのものでもあるのだから、侮辱は騎士を目指す者にとって怒るのも当然だ。
殺されたという野盗達に対してもざまあみろ、という黒い気持ちが無いでもない。
だが。
「…………にしても、こりゃあなあ。」
バリガンは顔を引きつらせながらアジトの、旧砦の中を覗き込む。
壁から床まで、一面真っ赤だ。
勿論、これらは元々こういう内装であった訳ではない。全て野盗の血だ。
野盗の死体は既に片付けられたようであるが、このおびただしい返り血はそのままになっている。
「話で聞くだけならば放置していても構わないんじゃと少し思っていたけれど。どうやらそういう訳にも行かなさそうだ。」
野盗達に攫われており、唯一の目撃者である商人の娘の証言によると一振りで身体を両断したという。
だが見つかった死体はバラバラで、そしてただの一振りで切り裂けるとすればこれほどの血が周囲に飛び散る訳もない。
まるで、"鎌鼬"の持つ危険性を象徴しているようにも見える。
レイの後ろにはメリアスとツバキが控えている。メリアスはその強さから、ツバキは人探しであるならこれ以上なく頼りになる事から連れて来た。ロウェオンも了承している。
サリーは自身の身を護りきれるかは分からない為、今回は留守にしている。
『私も戦えます!』
『君の炎じゃ大事になっちゃうんだよ…。』
今回は山の中、森の中を捜索する。春先であるから気候的にはややマシではあるものの、もしサリーの炎が引火でもしてしまえば大惨事になるだろう。
そして十八番である炎が無ければ、もし"鎌鼬"が襲ってきた場合身を咄嗟に守れるか分からなかった。
そう思いながらこの場を眺めていると、ロウェオンとクプラ、そして王宮騎士二人が前に出て皆に呼び掛ける。
「この場所では魔力の残滓が確認されました。間違いなく"鎌鼬"は魔法を使えるのでしょう。現場の状態が芳しくない為にその内容までは分かりませんでしたが、存分に注意するようにしてください。」
「一息で骨ごと断ち切るのだ。当然と言えば当然であるがな……。」
切り裂かれた者達も、ただの人間ではない。この国までわざわざ逃げてくる程に大罪を犯した悪人であり、同時に捕まえられなかった程に屈強な男たちだ。
その彼らがろくな反撃すら出来ぬままに殺された。
「決して一人では行動しないように。必ず二人以上で行動してください。これは王宮騎士であっても絶対であるものとします。」
そう言う騎士クプラの強さは折紙付きである。その実力を学院騎士団の全員が見たばかりだ。その彼をして、鎌鼬はそれほどの危険性を伴う相手であるという。
(僕は入学前に調べた限りだと、学院騎士団には極端に危険な仕事は割り振られないと聞いていたけれど…それも全てじゃないのだろうね。)
そも、ただの人探しで王宮騎士が三人も置かれる事が異常な事態である。
現在総勢七十四人しか居ない精鋭であり、交代制で出ているのだから常に全員が出ている訳ではない。その内の三人を割くのだから、ただならぬ脅威と判断しているのが窺い知れる。
「王都やその周辺には大鎌を持った、或いはそれに近い大物を持った人物の目撃情報は上がっていない。武器屋も売った覚えはないという。
即ち、この周辺にまだ潜んでいると考えられる。」
この旧砦の周りは鬱蒼とした森に囲まれており、その後ろには木々の生い茂る山々が広がっている。
この大きな山を越えると、向かい側の麓にはちょうどハーヴァマール王立学院が見えてくる。ここに来るまでにレイ達はこの山を迂回するように王都を通り抜けてきた。
周辺はこのアジトとされていた旧砦の遺構と同じ物が点在しており、身を潜めるにはうってつけだろう。とはいえ隣には真魔が蔓延る魔物生息圏であるし、その手前にも王宮騎士団が詰める砦がある。
普通ならばこんな所で身を隠す筈がないが、詳しく内情を知らず情報を集められなかった国外の犯罪者か、そもそも理外の狂人か。少なくとも王宮騎士団、及び自警団は"鎌鼬"を後者と判断した。
原則として二人以上とされているため、ウィスタリアはバリガンと共に行く事にしたようだ。
「とにかく……虱潰しに当たっていこう。レィナータ、お前は?」
「僕はメリアスとツバキが一緒だから大丈夫だよ。相手が人間ならメリアスも頼りになる。」
常に硬い装甲を纏う真魔が相手であれば強化魔法が無くてはそもそも戦いにならないため、メリアスを戦力に数える事はできない。再び無理をして怪我をさせる訳にも行かないからだ。
一方で、相手が人間だというのならいくらでもやりようがある。
「なら、俺も一緒に行っていいでしょうか?」
「貴方は……。」
そうレイに話しかけたのは、なんとマルアードだ。つい昨晩レイに決闘を挑んだ彼が、行動を共にしたいという。
彼は良くも悪くも、この国の騎士として一般的な価値観を持ち合わせている。女が前線に出るべきではないと考える一方で、その実力は素直に認めて釜の飯を共にする。だからこそ、レイを認めた今では忌避する気持ちが薄いのだろう。
メリアスのお陰であるとはいえ自らを認めてくれた事を嬉しく思う。それも、既に騎士として鍛錬を重ねており価値観も染まっている上級生がだ。
「良いんですか?僕はまだ新入生ですけど。」
「君達から学べる事は多くあると思いましてね。君が良ければ行動を共にさせてほしい。」
「勿論です。行きましょう。……ツバキの足についていくのは結構大変だと思いますが、それでもいいですか?」
「騎士を志す者、身軽な少女にも負けぬ足腰を日々鍛えていますから。」
そういうマルアードは足回りにも自信があるようで、プラプラと足を振る。
さらに装備も革鎧の上から一部金属で補強したものを装備していた。これならば歩き回るにも然程重くはないだろう。
「分かりました。行きましょう。ツバキ、先導を頼む。」
「はーい!マルアードくんもついてきてね!」
「ま、まるあーど君?」
「わたし、年上だよ?」
「何っ!?」
マルアードがツバキの言葉遣いに困惑したのは従者の身でありながら軽い口調で話した事についてだろうが、ツバキが年上という事実に驚いてそれどころではないらしい。
確かにツバキは5年前に逢った頃から姿が変わらず、今やレイよりもずっと小柄だ。マルアードが驚くのも無理はない。
「どうせ、この辺りの遺跡は全部皆が見て回るんでしょ?それならわたし達は、この山を調べようよ。」
学院騎士団の皆が平地を主に捜索するのは、砦に近い怪しい箇所を調べておく事で砦に詰める騎士達に影響が出ないようにするためだろう。
そう言って野盗の元アジトの後ろにそびえる山を指す。
(大鎌を持って山登りなんて難しいのではないんじゃないか?)
とレイが思いながら周囲を見ると、マルアードと話していた間に皆散開し、とっくにあちこちを調べ始めていた。ウィスタリアとバリガンもいつの間にやら消えている。
「……仕方ありませんね。行きましょうか。」
メリアスが溜息をつきながら、ツバキの後をついていく。平地を調べるのはもう手が十分であるのだから、どうやら空振り覚悟でこの山を調べた方がよさそうだ。
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