表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
4章 鎌鼬
32/36

第4話 ある日の昼下がり

  一週間が経ち、学院生活にも慣れて来た昼下がり。

 サリーが朝からあまりにも忙しそうだったので自ら学食で食べると申し出たレイは、はじめて食堂にやってきていた。


「おお、こんなに人が居るのか。」


 全学年の生徒がこの時間には我先にと美味いメシを食う為に購買のサンドイッチやら食堂の席を取り合っている。皆貴族の子息ばかりではあるが、それと同時に育ちざかりの少年少女。それに勉強も実技もかなりハードなものばかり。入学試験もかくやと色めきだって奪い合うのも無理もない。

 レイが見ていると、紙に包まれたサンドイッチが宙を舞っていた。周囲のガタイの良い生徒達がそれを奪い合っている。恐らくは最も人気のある品なのだろう。


「…………なんか、この光景を見ているだけでおなかいっぱいになりそうだな。」


「あら?レィナータではありませんの。」


「こんにちは。今からお昼ですか?」


 レイに声を掛けて来たのはラミュマとシーニャだ。

 どうやらこれから食事らしい。


「今日は食堂で食べてみようと思ってね。君達もかい?」


「ええ。宜しければ御一緒しませんこと?」


「ああ、喜んで。」


 レイはこの食堂の利用がはじめてだったし、彼女達に倣う事にした。

 目の前で繰り広げられているアレについても聞いてみる。


「ねえラミュマ。あんなのが毎日起きてるのかい?」


 レイの言うのは勿論、購買争奪戦だ。

 ちょうどその時何人かの生徒が見事狙いの品を勝ち取ったようで、敗北した者が床に倒れ伏していた。


「ええ、まあ…。この学院の名物であるそうですよ。」


「そんなに長いのかい。」


 もしかするとサリーが学院に通っている頃から、いやもっと前からそれはあったのかもしれない。とりあえず聞かなかった事にして、その横を素通りして三人でカウンターまで歩いて行った。

 ラインナップは中々のもので、街のレストランに負けないほどの品物が揃っている。レイは自身の好物でもあるトマトと生ハムの冷製パスタを注文した。


「先に席に着いていましょうか。でないと取られてしまいますわ。」


「君、王女なのに場慣れしすぎじゃないか。」


「まあ。アナタも王女ではないですか。」


「あの席空いていますね。座りましょうか。」


 シーニャが指さした、食堂の隅の席に三人で着席する。机や椅子も高価なものではないが丈夫で、何より手入れが行き届いている。レイにとってはそこが気に入った点だった。

 三人で他愛のない話をしていると、声を掛けられる。


「お、レィナータ。」


「珍しいなあ、食堂には来ないイメージだったぞ。」


 ウィスタリアとバリガンだ。入学試験以来ウマが合ったようで、彼らは二人で共に行動している事も多いらしい。

 そんな彼らにシーニャが声をかける。


「宜しければお二人も一緒にどうですか?ね、ラミュマさん。」


「そうですわね。どうぞ腰掛けて下さいな。」


「おっそうかあ?悪いなあ!」


 そう言って座った二人の手にはサンドイッチやクロワッサンがたっぷりと抱えられており、座ると同時に机にどさりと置いた。この男たちはあの争奪戦を勝ち抜いたのだろうか。レイは思わず感心と呆れを織り交ぜた視線で彼らを見てしまった。

 もぐもぐとパンを頬張るバリガンを見て、シーニャが話を切り出した。


「お二人とレィナータさんは騎士部門の試合で相手したんですよね。」


「お…おお!めちゃくちゃ強かったぞ!」


「彼女は魔法の一切をロウェオン様により使うなと命じられていたようでな。俺達二人とも強化魔法を使わないまま負けてしまった。」


「えっ!?ほ、本当ですか!?」


「ギリギリの試合だったよ。怪我だらけだったしね。」


 驚くシーニャに謙遜混じりにレイが答えた。

 実際、試合に勝ったが勝負には負けていたような連戦でしかないと思っていたからだ。勝った側が次の試合に響く程の負傷を負う奇妙な状況であった。

 そんなレイにラミュマが言う。


「それでも十分ですわ。ウィスタリアさんも、バリガンさんもこの私達の学年では突出しているとして噂になっておりますのよ。

 傷だらけになりながらでも勝利できる者がどれほど居るでしょうか。」


「そういう訳だ。たまには素直に喜べ。」


「はは…。じゃあ、そういう事で。」


 レイとしてはバリガンに勝利を譲って貰ったようなものだし、ウィスタリアにも意識の裏を掻いただけで両者共に騎士として勝利したかと言えば微妙な所だった。なんとも言い難いむずがゆさを感じながら、誤魔化すように話題を変える。


「そうだ。ラミュマだって凄いじゃないか。王女なのに魔法が鍛え上げられている。」


「それはレィナータも同じでしょう?」


「いや…僕の場合、色々あって強くならなくちゃいけない事情があってね。」


「なるほど。しかし事情というならば私も同じ事。

 高貴なる者は民衆の支持を受ける代わりに民を守る為に力を付ける必要がありますもの。それでこそ王女たる者の責務でしょう。」


 彼女の一見して高飛車な態度もその精神に基づくものなのだろう。

 皆を守る為には力が要る。だからこそ王女に不釣り合いなほどの努力を重ねて来たとすれば、実に素晴らしい行いだ。


「そして何より。もうひとつ理由がありますの。」


「理由?」


 先程の高貴なる者といった口ぶりは身を潜め、いつの間にやら年相応の少女らしい言動へと変わる。


「そう!勿論私自身、将来は政略結婚をするという事は理解していますわ。それが家の為、ひいては国の為になるという事も承知の上。

 ですが幼き頃、童話で見た白馬の王子様!彼のような素敵な方にお会いできるよう、そして出会った時には私を素敵な王女であると思っていただくために努力を惜しみません!」


「それは……なんとも……。」


 先程までのラミュマは完全に自らを律し、国と民の為に心血を注ぐ高潔たる王女であった。だがその一方で、その心根には幼き頃の情景を胸に秘めたまま成長している。十五歳にもなって夢見がちすぎるようにも思えてしまう。


「あら?おかしいですか?」


 だがその一方で、それはレイも同じ事だ。

 領民の為に更なる発展を望んでいたのは本心からの行いで決して嘘ではない。しかしレイはメイド達3人と結婚するという野望をきっかけに立ち上がったのを忘れた事は片時とてない。今も滾る恋と愛によって突き動かされ、彼女達を誰よりも幸福にしてみせる誓いがあるからこそどんな厳しい鍛錬でも、細い綱渡りのような交渉であっても平然として見える。或いは、その見かけだけでも。

 ラミュマも同じなのだろう。その情念を抱くからこそ想いを種火とし、自らの根底へと繋がる業火へと燃え拡げる事ができるのだ。


「笑わないよ。僕も同じようなものだからね。夢なんて、どこまでも幼稚だっていいじゃないか。」


「ふふっ。気が合いそうですわね。」


 バリガンはぽかんとしており、ウィスタリアは驚いた顔をするが特に何かを言う訳ではない。シーニャは事前に聞いていたのか、ニコニコとしたままレイとラミュマを眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ