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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
4章 鎌鼬
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第2話 特待生の少女

 レイは軽々と突破したが、やはりこのような形式には慣れていないものが殆どであったらしい。炎をとんでもない方向に飛ばす者や勢い余って土塊を床をめり込ませる者など、力加減を意識するあまりマトに当てる事すら難しいようで、様々な失敗の様相を見せている。


 そんな中、ラミュマはレイと同じく指で容易にマトに土魔法を命中させてみせる。


「うんっ、当たりましたわ!」


「流石だね。」


 マトが壊れても居ないし、威力の調整も完璧だ。彼女もまた魔法の扱いという面においては卓越したものを見せている。


「あら、あちらも中々のものですわよ?」


「あちら?」


 ラミュマにそう促され、言われた方を向いている。

 その先に居たのは先程シーニャと呼ばれていた少女だ。


「やっ!」


 彼女はレイやラミュマと違い、指差してはいない。手を下にしたまま胸の前で圧縮した空気を生成し、そのまま飛ばす。マトに見事に当てると圧縮された空気はマトを揺らして霧散した。


「あれは凄いな。指を使って指向性を与えていない。」


 指を添えるのは補助の役割がある。魔力に長距離を飛ぶように命令する中で自らの身体を用いて狙いを定めることでより当てやすくする。

 例えるならばクロスボウを発射する時、理論上は片手でも打てるといえば打てる。だが片手を添える方が狙いも定めやすいし反動も抑えやすい。あの少女がやっているのはそれだ。


「どこの家の出だろう。戦貴族では難しいんじゃないか?魔法を重視する家もあるにはあるが。」


 戦貴族は騎士として大侵攻で活躍する事を誉れとするため、男子は余程の事がなくては騎士となる。一方で女子はというと、魔法の指南役をわざわざ呼びつけるのは難しい為に礼儀作法や算術などを学び、嫁ぎ先でも不自由しないようにしたり家の家計を手伝うように言われる家も多い。

 そのため女も存外影響力を持っており、戦貴族の家同士で結婚した場合『かかあ天下』になる事もしばしばあるのだとか。


「いえそれが、シーニャは特待生制度で招かれたのです。」


「特待生。それじゃあ平民の出か!それであの魔法は凄いな。」


「入学試験でも私に次ぐ成績でしたわ。」


 この学院には特待生制度がある。それぞれの領主が戸籍を管理するついでに村へ子供達の適正を計りに向かい、特別才能の見込みがある者を見つけると学院に通う事が出来るのだ。強制ではないが、本人は勿論のこと領主にとっても村の者にとっても誉れである為に喜んで向かう事が多い。国の為になる人材である為に入学費用なども全て国が負担する。

 もし学院を卒業すれば、平民からすると騎士見習いか魔法関係の職に就ける事はほぼ確定しており、その中で才を見せたり縁が出来れば貴族へ婿入り嫁入りといった話も多い、まさしく栄転だ。


 レイの言った平民なのに凄い、とは決して偏見によるものではなかった。

 魔法を学ぶのはタダではない。指南役を必要とするためにいちいち魔法使いを呼びつけるなら莫大な費用がかかり、到底平民に払う事など出来る金額ではない。一度二度ならまだしも継続して払うのは戦貴族ですら難しい。金を持っている王侯貴族の実質的な特権だ。

 かといって書物による事前の勉学には限界がある。指から火の粉や飲み水を出す程度の小規模魔法ならばいいが、ある程度の規模を超えると魔法が制御できなければ暴走し、危険になるのは術者自身や周囲であり、易々と練習する事も難しい。この辺りは剣技や強化魔法の方がまだ練習しやすいと言える。

 なので魔法使い志望の特待生は強大な魔力や特殊な属性を秘めている場合はあれど、入学してから安全かつ確実に魔法を学んでいくというのが定石なのだ。


「やっ!」


 シーニャは次は距離を離して12オーミ(約9.6m)の位置に立つ。しかし指を使うことなく、簡単に当てられた。


「こちらは指を使うんだし、負けてはいられないね。」


「同感ですわね。」


 二人はシーニャと同じ距離に立ち、指で補正した氷と土の弾を撃ち出す。

 レイは右手の人差し指と中指をマトに狙いを定め、親指を立てて残りの指を握り込む。左手は腰に当て、動作を安定させる姿勢だ。

 ラミュマは左手の人差し指を僅かに逸らせるようにしてピンと伸ばすと、左手を支える様にして右手で掴み、腕の動作を安定させる。

 それぞれレイは鍛えている為に安定した体幹から遠くを狙撃するのに適した姿勢を作り出し、ラミュマは決して鍛えられていないその細腕で最大限に狙いやすいような姿勢を模索した結果だろう。


 二人が打ち出した氷と土の弾がマトにぶつかると、マトを破壊する事はなくその場で落ちる。それを見て、シーニャと呼ばれた少女がレイとラミュマに気付いたようでこちらへと寄ってくる。


「お二人とも、凄い実力ですね。」


 不思議な少女だった。声に一切の怯えがない。

 相手をしているのはこの国の王女二人なのだからまともに話せなくたっておかしくはないのに、そこに怯えが一切混じっていない。

 だが、侮りもない。決めつけから王女を守られているだけの存在と下に見ているような人間でもない。その嫋やかな声色と穏やかな口調からは、それぞれに確かに敬意が込められているのが感じられる。

 服に着られているかのような痩身に白い肌。瞳は薄い栗色と、ヘアオイルにより艶めくその髪はストレートにまとめられている。けして華美ではなく、そして高貴さを感じる佇まいではない。だが、その清廉な雰囲気はまるで彼女の周囲だけが空気が違う様にすら感じられる。


「君こそ。僕はレィナータ=フォン=カルラシード。ラミュマから話は聞いたよ。」


「まあ、光栄です。では私も改めて。シーニャ=クルスと申します。」


 平民に名字はない。だが学院に入学する際に手続きとして名字は必要となる。その為、村の名前を名字として名乗るのだ。これにより村の名前が売れる為、特待生が排出されると大手を振って送り出す事にも繋がる。


「よろしく、シーニャ。

 手を使わずにあそこまで届かせるなんて、凄い技術だ。」


「いえいえ。お二人と違い、風を飛ばすだけですからね。」


「それでもアナタ程の魔法は見事ですわ。」


 それぞれの魔法ごとに向き不向きがあるのは事実だ。氷や土をわざわざ作り出すという手間は確かにある。

 だが、風魔法ならば同じ事が出来るかと言うとそうではないだろう。であるならば、今苦戦している生徒達の中に風の魔法使いが混じる訳もない。


「せっかくだ。三人でどこまでやれるか競ってみないかい?」


「良いですわよ。負けませんわ!」


「まあ……。お手柔らかに、お願いしますね?」


 張り切るレイとラミュマに対し、シーニャはどこか気の抜けた返事をする。

 だがまるで戦意が無い訳でもなく、レイとラミュマが距離を伸ばす中シーニャは悠々と食らいつく。

 結果、ラミュマは30m。レイは33m、シーニャは35mと段々になるようにして決着がつき、シーニャが勝ってしまった。

 ラミュマは魔法に自信があったからか悔しがる一方で、シーニャは魔法を皆と使えるのが楽しいようだった。


(こういう子が居るのだから見事な制度だよ、まったく。)


 王女であるレイとラミュマにすら勝ちうる才能の持ち主である彼女が、特待生制度が無ければ掘り出される事もなく眠っていたのだと思うとぞっとする。

 レイは特待生制度を作り出した、先人達に感謝するばかりであった。

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