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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
3章 烈氷の剣姫
23/32

第7話 第二試合

 1


「痛っ……。」


 ウィスタリアとの試合を終えたレイが革の籠手を外すと、左手が腫れ上がっていた。


「無茶しすぎだ。試験が終わるまでは治せないぞ?」


 そう声を掛けるのは先程の対戦相手であるウィスタリアだ。

 勝った方のレイは負傷しているのにウィスタリアは傷ひとつないという不思議な状態になっている。

 この騎士部門では三試合が終わるまで治療を施されない。全ての試合終了後、もしくはリタイアすればすぐにでも学校側から回復魔法で治してくれる。

 これは試合の中での負傷もまた試験のひとつであり、今回のレイのように無茶をして次の試合に引き継ぐのは自己責任だからだ。


「うーん。じゃあちょっとだけ。」


 右手の掌から魔法陣が浮かび上がる。すると、小さな氷塊が現れる。


「これで次の試合まで冷やしておこうかな。痛みも多少はマシになる。」


「やはり魔法を使えない訳ではないんだな。」


 強化魔法を使わなかった事を訝しむウィスタリア。とはいえ、レイの二色の髪から使える事自体は理解していたようだ。


「兄上との約束でね。僕に試合中魔法を一切使わずに勝てって。」


「兄というと…ロウェオン様か。それは…なんというか気の毒だったな。」


 ロウェオンの事はどうやら一部では有名であるようだ。それでおおよその事情を察したのか、ウィスタリアは怒る所かレイの方に同情している。


「いや、でも僕自身の為でもあるんだ。女で騎士になるんだからこのぐらいの実力を示した方が良い。」


「へえ、なるほどな。そう言えばお前の槍術なんだが…」


 ウィスタリアがレイに尋ねようとした次の瞬間。凄まじい音が鳴り響き、その後に先程のレイとウィスタリアの試合以上の歓声が聞こえて来た。


「……なんだろう?」


「行ってみるか。他の奴の試合を見るのはルールの範疇だ。」


 二人が舞台を覗くと、およそ2mを超すほどの巨漢がその歓声を一身に浴びていた。


「いえーい!はっはっはっはー!」


 声まで大きい。ここまで喜ぶ声が聞こえてくる。だが、レイとウィスタリアが驚いたのはその足元だ。

 なんと石畳が粉々に砕けている。対戦相手はその後ろで腰を抜かしているところを見るに、その破壊力を見て降参したのだろう。

 凄まじいパワーだ。だが砕くだけなら強化魔法を使ったレイとウィスタリアにも出来る。

 本当に凄まじいのはその精密性だ。なんと、彼が用いたと思われる木の両手剣は傷ひとつない。木の耐久力では本来一緒に砕けてしまうだろうし、そうなると失格になるのは彼の方だ。これは単純な力任せではなく、彼が緻密な力の制御を行っている証明でもある。


 そんな彼を見てウィスタリアが零すように言った。


「……とんでもない奴も他にもいるものだな。内心、俺がこの学年ではトップだと思っていた。」


「無理もないよ。君の剣技は凄かった。」


「折角俺に勝ったんだ。次か、その次でもしアイツとぶつかっても勝てよ?」


 強化魔法を使えないというのにアレと対戦して勝てるのか。

 速さで翻弄するウィスタリアとはまったく違うパワーファイター。攻撃が通らなければどうしようもない気すらする。



 2


 レイは次の試合の準備に取り掛かっていた。

 とにかく、この左手が怪我をして弱っている以上、両手を使う武器はまずいだろう。

 なので片手でも取り回しの良い木剣と、細かく手を動かさなくてもいい小盾で立ち回る事とした。これなら左手の負傷を無視して戦える筈だ。


 次は入場口は西口の方だった。まだ入場前であるが、もう相手が誰かが見えている。あの巨漢だ。あまりの大きさからここからでもその姿が見えてしまっている。


 足を踏み入れると、その姿が露わになる。赤茶けた短い短髪に、筋骨隆々なる肉体。レイはよくもまあ彼に合う稽古着があったものだと感心してしまう程だ。

 異様なのはその武器だ。なんと馬上から扱う設計である大槍を持ってきている。強化魔法を使っている様子もなく、自前の筋力でそれを易々と扱うのだから驚きだ。

 そしてその馬上槍をなんと両手に持っている。何故だ。何故なのか。ともあれ、それを持てているというのは凄まじい筋力と言う他にない。素の筋力だけならばレイはおろかロウェオンを超えている。


「東口、戦貴族の嫡男、バリガン=シグジル!」


「うおおおーーーっ!!」


 名前を呼ばれると大声で返事をする。そういうシステムではないはずなのだが、先の剛腕を見た観客からはウケが良いらしい。


「西口、ウズの村の領主、レィナータ=フォン=カルラシード!」


 レイはバリガンを見た後、自分の武器を改めて確認した。

 木剣と小盾。明らかに通る姿が見えない。

 だが勝ちの目はある。これはあくまでも仕合である以上、審判が一本と判断すればそれでいいのだ。


「試合――はじめ!」


 開幕の合図と共にバリガンの出方を見る。相手から仕掛けて来た場合、あの圧倒的な破壊力を考えると対応者にならざるを得ない。でなくでは武器を壊されて一発退場だ。

 だがバリガンは戦う素振りをまだ見せておらず、そのままレイに話しかけて来た。


「アンタがウズの村の領主様かぁ。」


「うん?ああ。そうだよ。」


 出方を伺っているところに急に呼びかけられて驚いたが、それに返答する。


「アンタの村の農作物のお陰で、一昨年に俺達家族が自警団をやってる村も飢え死にせずに済んだんだ。アリガトなあ。」


「はは、どういたしまして。」


 とんでもないパワーの持ち主だが、さっぱりとした気骨や真っ先に感謝を述べる素直な性格から、彼が如何にいいやつかが分かるようでもある。

 権謀渦巻く貴族社会において、このような清々しい人間は希少だろう。


「いやああの芋美味いよなあ!農作物が安定してからも時々買いつけては皆の大好物になってて――」


「あの…始まってるんですけど…」


「なぬっ!」


 審判を務める教師が、話し込もうとするバリガンを見て流石に一言注意を入れる。

 バリガンはそれに驚いたようですっとんきょうな声をあげた。


「だがこれとそれは別だな!俺が勝たせて貰うぞお!」


「僕も負けるつもりはないよ。」


 そう言いながらも、バリガンの両手の馬上槍には大きく警戒する。あの一撃が叩きつけられれば戦略も何もあったものではない。


 最初に動いたのはレイの方だ。ウィスタリアのように強化魔法を高速発動できる者はそう居ない。バリガンもそうならばそもそも勝ち目はないと言っていいので、無いものと割り切って対処する。

 ここで攻撃を加え、強化魔法を使う隙を与えない事が最善の対策であると考えたのだ。

 飛び掛かるレイに向けて二本の馬上槍を振り回すように薙ぐが、レイはそれを床へ滑り込んで躱す。僅か拳一つ分ほどの頭上を馬上槍が掠める。


「うっ……。」


 当たれば大怪我は免れないだろう。一本がどうとかでなく、単純に負傷で戦闘続行は厳しくなる。

 だがそれを承知で飛び込まなくてはこの男を相手には勝ち目がない。両手の馬上槍を振り抜いて生まれた隙に、床を蹴って飛び上がる。狙うは一本、その額だ。


「来たなあ!」


 そう言うと振り抜いたバリガンの両手が赤く光っている。筋力強化だ。


(その格好から発動できるのか!?)


 強化魔法は力を溜める姿勢から発動するものが殆どだ。ウィスタリアはそれを高速発動、及び発動部位を移動させる技術で補っていた。

 しかしバリガンはまた違った発展を遂げており、どのような姿勢からでも強化魔法が発動できてしまう。


(っ!!)


 隙だらけなのが自分の方だと悟ったレイは咄嗟に小盾を構えて攻撃に備える。最早どうしようもないと分かりながらも、せめて負傷だけは避けなくてはならない。


「ぜぇりゃあっ!!」


 馬上槍を薙ぎ払う。それは勿論レイを狙ったものであるが、その剛腕から風を切る音すら轟音と化し、まるで空間そのものを殴りつけているようだ。

 レイはガードして尚受けきれず、床どころか舞台の壁にまで吹き飛ばされる。


「くっ、あっ……!!」


 くそ、いきなり喰らってしまったと壁に叩きつけられ、地面に落ちるまでに顔を持ち上げる。


(このままでは不利だな…。)


 次の一本に向けてどう反撃していくべきか。

 そのように考えるレイがバリガンの方を見ると、なんと一本の馬上槍がこちらに向けて飛んできている!


「なっ!?」


 バリガンは一本を取るつもりで殴りつけたのではない。その狙いは、


(武器……!!)


 武器を破壊されれば戦闘続行が不可能と判断され、それだけで決着となる。これだけはまずい、躱さねばならない。だが筋力強化による投擲はレイが反応するよりもずっと早い――!!

 馬上槍はレイに接触し、壁へ叩きつけられたレイと共に土埃を大きく巻き上げた。


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