第5話 入学試験・騎士部門
ロウェオンとの稽古を終えると即座に湯を浴びて身を整え、その日の内に開かれる入学試験に備えるよう身支度を行う。
身体には疲労感は残っているが、それ以上に意識が高揚し、最高のコンディションで迎える事が出来ている。メイド達に着付けを手伝ってもらうと、朝一番に馬車に乗り込み、学院へと向かう。
これからレイの通うハーヴァマール王立学院は王都の郊外、南西に位置している。
王都に居を構える貴族も多く存在するが、この学院に通う生徒はそれぞれ寮生活を送る事になる。これは他者との共同生活まで含めての学院生活という意味合いも含まれており、協調性を養う目的がある。
先に入寮している者も少なく無いが、レイはウズの村の統治を行っている身としてギリギリまで部屋は取りつつも実際に赴いてはいなかった。
即ち、この入学試験の日がレイがはじめてこの学院に足を踏み入れる日でもある。
メイド達を伴い馬車から降りる。制服を改造して男女を入り混ぜたような服装に鎧を着ているのだから、とんでもなく目立つ。一応制服を着崩したり改造するのは自由ではあるのだが、ここまで好き放題している者はそう居ない。
だが、こうして目を引く事を含めてこの装いにしているのだから織り込み済みだ。
「おい、あれ…。」
「あれがレィナータ王女殿下か…。」
ひそひそとレイを噂する声が聞こえてくる。だが、これは単純に5年前の勲章によるせいだけではない。
ウズの村を開拓し、交易をするにあたって土地を弄くり回して品種改良した野菜を試作として流していた。ツバキから伝え聞いた中央部で使われている魔力で土地を開墾する製法を五年の間にサリーと共にフーニカールで使えないかと研究を重ね、その結果一昨年に起きた冷害でも輸出量が安定していた。
それもあってウズの村の名と共に、その領主であるレイもまた名が知られている。そもそも入学前に領主にまでなっているのが珍事ではあるが、その村を更に自ら発展させているともなれば見る目も変わる。
ざわつきを小耳に挟みながら悠然と受付まで向かい、届け出を行う。
「騎士部門でよろしく。」
その言葉に再びざわつきが起きる。だがレイは敢えて平然を装い、なんて事のないような振る舞いでメイド達と別れて控室へと向かう。この瞬間にたじろがない為に厳しい鍛錬を続けて来たのだ。
控室ではレイを遠巻きに見る者達が居るが、誰も彼女に話しかけようとはしない。レイを警戒する者、女であるのに出場した事に訝しむ者、冷やかしで来たのかと蔑む者。向けられる視線には様々なものが含まれている。
何とも言えない居心地の悪さを感じていると、入学試験についての解説が始まった。
まず用意されている額当てと革鎧を着用する事。そして木製の武器や盾・追加の防具から自由に選んでよい事。
二本先取の試合だが、胴や頭などの急所に加えて手や脚などの重要な部位へ有効であると判断できる攻撃が成功する、あるいは相手が武器を落とすと一本。さらに、武器を破損するか鎧が破壊され審判役の教師が戦闘続行不能と判断すればその時点で負けであると伝えられる。
それを三試合繰り返すが、二試合目以降は勝者同士・敗者同士が当たるように調整され、近い実力の者同士で組み合わせが行われる。
どうにも一大興行ともなっているようで、生徒が控室に入ってからは一般の民衆を受け入れて観客として招き、出店なんかも出て祭りの様相を見せるだとか。
学院騎士団などの上級生が見定めると同時に、民もこれから国を守る貴族達を見て安心して貰おうという魂胆なのだろう。
故にあまりに理不尽な組み合わせは意図的にその生徒の出身の家を貶める事にも繋がる為、なるべく試合として成立するようにするのが学院側にとっても理想と言える。
稽古着に着替えたレイは悩んでいた。武器の選択は相手が発表される前に決めなければいけない。
レイはメリアスという最高の技を持つ師より教練を受け、あらゆる武器を使える。いや、正確には徹底的に叩き込まれた結果使えるようになったというべきか。
騎士としても戦える程になりたいというレイの為、生半可な鍛え方をしてはレイの不利益ともなる。だから普段のメリアスの甘い態度とはまるっきり別のように厳しく仕込まれた。訓練で血反吐を吐いたのは何度かも数えていない。
「よし。」
今回強化魔法は使わない。であれば必ず身体能力で不利を背負う。何かしらの差別化をしていきたいと考えた。
レイが手に取ったのは木の槍だ。それに厚手の革の籠手を選び、手元を補強する。本当は防具は盾などを持ち込みたいが、取り回しが悪くなるとそれはそれでよくないだろう。
木の槍を左に突き、続けて空を斬るように薙ぎ払う。厚手の籠手をしていても十分な動きが出来ると分かると、この装備に決めた。
「新入生のレィナータ。君の出番はこの次だ。準備が整えば東口の待機所に移動するように。」
「わかりました。」
槍を左手に持ち、東口へと移動する。
考えてみると、同年代の相手とやり合うのは初めての事だ。一体どのような相手が出てくるのか楽しみも少し混ざっていた。
促され武舞台へと進む。
同じく西口から出て来た生徒が見える。恐らくは、今回の対戦相手だろう。
足を踏み入れると、審判を務める教師が互いの名を読み上げる。
「東口、第六王女にしてウズの村の領主!レィナータ=フォン=カルラシード!」
レイの名前が読み上げられると、どよめきと歓声が上がる。おそらく、民衆には勲章を受け取った虚弱な王女がまだ記憶に新しい者も居るのだろう。応援の声も聞こえてくる。二つ名も読み上げるのは民衆にとって、どのような人物かを周知させるためだろう。
だがレイは、それよりも目の前の相手に注目していた。
濃い紺の髪をした青年だった。装備は片手剣と丸盾を選んでいる。
引き締まったその身体に一切ブレない体幹。間違いなく騎士となるべく鍛え上げた武威を感じ取れた。
「西口、商業都市メルクリウスを治める領主の三男!ウィスタリア=フォン=ベルヴェルク!」
―――ベルヴェルクだと。つまり、ベルヴェルク伯の息子か。そういえばずっと昔、レイと同じ年齢の息子が居ると聞いた事がある。
相手はこちらを知ってか知らずが、瞳には闘志を漲らせている。
(これはいきなり楽な戦いじゃなさそうだね……!)
「試合――はじめ!」




