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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
2章 虚像の英雄
16/31

第9話 虚像の英雄

 1


 受勲式から1ヶ月が経過した頃、レイは雑務に追われていた。

 自身が手に入れた利権の類をすべて土地を改めて確認して書類をまとめ直し、人の出入りがなく情報の少ない場所には護衛のメリアスと地図も描けるツバキを伴って実地に赴く。

 それに加えて流通網の再確認。ぼんやりと把握していたものを輸出入品からそれを担当している村人とその相手、金銭のやり取りまで全てを把握し、紙にまとめる。

 これからウズの村を5年の間に発展させるためには地味かつ面倒であるが必要な仕事でもあった。


 ウズの村から北西に進んだ場所に存在する霊峰カトラと言われる山の権利もまるごと貰ったはいいが、資源として見ると何もない死火山であった。

 強いて言うなら複数の滝が点在しており、頂上には火山湖(カルデラ湖)であるヨクトル湖がそびえる。これがフーニカールにかかる重要地でもあるミルダルス大河のはじまりともなっている。

 どうにか何かないかと調べてはみたものの、人の手が介入しやすそうな場所には特に何もない。


 そんな霊峰カトラを数日かけて調査していたレイ達は、馬から降りて休憩がてら調査結果をまとめていた。


「うーん。どこかに委託して調査隊を組んでもらおうか。そこそこ標高のある山だし、本格的な登山をするには僕じゃ厳しい。」


「なんでこの山にそんな注目してるの?確かにおっきいけどさ。」


 この国について詳しく知らないツバキはレイが霊峰カトラにこれほど注目しているのが不思議であるようだった。

 それについて隣にいたメリアスが答える。


「霊峰カトラに赴いた事のある者は少ないが、この山を知らぬ者の方が少ない。

 建国神オディルス様の最期の地としても語り継がれる場所だからだ。」


 双子の建国神、賢者オディルスと騎士レムラス。

 オディルスは砦を建て、魔物が襲い来る大侵攻を防ぎ切り、人間に見舞う厄災を食い止めた世界で初の人物であった。

 だがその大侵攻において妻であるフリッグ、そして弟であるレムラスを亡くす事になる。

 オディルスは砦と共に出来ていた小さな市場から十数年の年月をかけて都、そして国を作ると、残された子や友人に国を託して旅に出た。

 当時まだ未開拓であったフーニカールの国内をくまなく巡り、ある時は暴れのたうつ氷河を渡る術を編み、ある時は難産に悩む母親を助け、ある時は仕事の出来ぬ鉱夫の為に跋扈する魔物を狩り尽くした。

 そうして辿り着いたのがこのカトラ山。当時は活火山だったこの山に入ったオディルスはひとつの小さなため池にて首を吊った。すると氷河は溶け落ち、火山は死火山となったのだ。

 それにより氷河は大河となりミルダルス大河としてフーニカールを支えたのだった。


「……というものだ。」


「なが。」


「ちなみにオディルス様の冒険譚は全てで四十五節ある。」


「ながっ!!」


 メリアスとツバキのやり取りを見ながら水を飲んでいたレイが声をかける。


「まあ、そういう事もあって何かないかと調べているんだけど空振りだったね。そもそもどこまでが本当かも分からないし…。」


「え、フーニカールの人がみんな知ってるんでしょ。みんな信じてるんじゃないの?」


「いやいや、伝説やおとぎ話にも近いからね。もう1800年も前の事だし。

 権威付けの為だとかでもおかしくないし、どこかで作り出された文学作品と混ざったのかもしれない。

 とはいえ建国神話に組み込まれているのも事実だし、カトラ山が霊峰だなんてよばれる理由だよ。」


「1800年…まー、そっか。」


 ツバキは水筒のふたをくるくる回しながらカトラ山の山肌を眺めていた。


「じゃあ、これ以上は調査隊を外部に委託して、そこにツバキを入れて貰おう。

 とりあえず最低限、村人や外の人間が遭難した時に向けておおまかな地図だけでも作っておきたい。それだけでも初動の対応がまるで変わってくるからね。」


「りょーかいしました。お宝みつけてくるからね!」


「お宝は…あるかなあ?」


 こうして後日、ツバキを中心とした調査隊が編成されカトラ山の調査を開始。

 残念ながらツバキの言うお宝こそ無かったものの、カトラ山の地図が完成した事で周辺の地図、及び必要書類の類が完成し、ウズの村発展への本格的な足掛かりが完成する事となる。



 2


 受勲式から2ヶ月。

 情報をようやくまとめ終えたある日、正午を超えた頃屋敷に大荷物が届いた。


「これは…カルラシード家からかしら?」


 サリーが屋敷内に運んでいると、ちょうど目に付いたレイがエントランスまで降りて来た。


「とうとう来たね。皆の義手と義足、聴力増幅器だよ。」

 

 包みを開ける前に屋敷の掃除をしていたメリアスとウズの村を哨戒していたツバキを呼び戻す。


「おおー。とうとう来たね。」


「しかし随分と時間がかかったな。身体に合わせて作るだけだと思っていたが。」


「魔導器は全て特注品よ。それぞれの用途に合わせて設計して魔導核を加工するの。」


 これらは全てオーダーメイドだ。父と取引したあの日にカルラシード家を出る際に三人分測量し、それから2ヶ月をかけて製作したらしい。

 どうやらメリアスはそちらには明るくないようで、レイに尋ねられる。


「しかしメリアス、君が騎士として働いていた時には怪我について学ぶ機会もあったんじゃないのかい。

 義手義足なんかについてもある程度の知識がありそうなものだけれど。」


「いえ。私はこれまで魔物にも人間にもまともな傷を受けた事が無く……。この足が初ですね。」


「それはそれで凄くないかな。」


 さらりととんでもない事を言ってのける。レイやメリアスの父を話す時のような自慢するような口ぶりでもない分、どうやらただの事実でしかないようだ。

 人類最強騎士という大袈裟な二つ名も決して過剰ではなかったらしい。


(しかしこんなに強いならいくら邪魔でもメリアスを排除する方が損なような…。)


「ねえレイ様。さっそく付けてみていい?」


「ん?ああツバキ。勿論だよ。サリー、使い方を見てやってくれるかい。」


「了解です!」


 いずれも白銀を基調としたベースに金と青の装飾が備え付けられており、まるで本当に手足が戻ったかのように自在に操れる。ツバキの聴力増幅機能に関しては元の耳よりも聞こえるかもとはしゃいでいる。なんでも変形して集音させる事までできるだとか。

 サリーが二人に魔導器の扱いをレクチャーしている間、レイは何かを考え込むようにしながらそれを眺めていた。


「皆、聞いてくれ。」


 それぞれの装着が完了した頃、レイが声を掛ける。


「君たちの身体機能も補えるようになったし、書類の整理も終了した。準備は整ったと思う。」


「じゅんび?」


「ああ。レムラス第五勲等を受章した、虚像の英雄に追い付く準備さ。民衆の想像する僕は、今の僕よりも遥かに上だ。」


 メイド達はレイの言葉にじっと耳を傾けている。普段は奔放なツバキもレイの話の前では真剣だ。


「学院に入学する15歳まであと5年。それまでに僕は虚像に追い付く程の人間にならなければならない。僕だけでは難しい。皆、力を貸して欲しい。」


 それに対するメイド達の言葉は決まっている。


「勿論です。私はレイ様と共にありますので。」


「ご主人様にして婚約者様ですもの。当然お支え致します。」


「えへへー。仕方ないなレイ様ってばー。」


 馴れ馴れしいツバキにメリアスが拳骨をしっかりとお見舞いする。サリーがそれをまあまあと宥めている。

 レイは気を張るつもりだったのに、その姿を見てくすりと笑ってしまった。


(そうだ。この光景を守りたいから、僕は頑張れるんだ。)


 何気ない彼女達との日常のひとつひとつが、これまでずっと一人だったレイにとっては何物にも代えがたい宝物のようなもの。

 だからこそこれが奪われないように前を向いて進み続けると決めたのだ。


 それから。

 メリアスからは剣術の鞭撻を受け、その窮極たる剣を少しでも身に付けるよう励んだ。

 サリーからは魔導器研究を教わりながら、共に魔法を学んでいく。

 ツバキからは様々な体術やサバイバル技術、大陸中央部の知識を得ながら共に農耕の開拓を進めた。


 そうして短くも長い5年の月日はあっという間に過ぎ去っていく。

 五年を経ても尚、レイの王になるという決意はなんら変わる事はなく、寧ろさらに強くなっていった。



【2章 虚像の英雄・完】



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