表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
2章 虚像の英雄
13/31

第6話 反撃開始

 1


 受勲式。


 王が直々に勲章を叙勲するにも関わらず叙勲式でないのはきちんと理由があり、こと魔物戦においては守り切った兵士や人民が主賓であるからだ。

 場合によっては貴族の仲間入りをする程の功績をあげたのだから、この場においては王よりも崇められるべきと言える。

 打算的な理由を挙げるとすればそうする事で少しでも国内の活力を湧き立てるという狙いもあるか。

 人死にがあまりにも多すぎた大侵攻の際には王すら不在で代理、受勲者も代理で折角の勲章は墓前へ…等という事態も過去にはあったという。その時の空気は想像したくもない。


 だが、今日はそのような惨劇とはまるで違う様相を呈している。


(おお、中々凄まじいね。これは。)


 レイが一歩踏み込んだ途端、民衆の歓声が湧き上がる。見渡す限りに人・人・人。

 多くの貴族が揃っているというのに講堂に所狭しと詰められた一般の民衆によって目立たない程だ。


 本来これほどカジュアルな場ではないし、民がこれほど集まる事もない。

 下々の人間にとっては、誰が貴族であるかは然程重要ではない。

 王都において生活する上で税や社会基盤に関わる事は重要だが、それを誰が指示しているかなどまで意識を向けるのはごく少数だろう。上の人間が誰であれ、貴族の○○バンザイ!だなんて言いながら暮らす者が居る訳もない。

 「大侵攻」の後は英雄を見ようと人が詰め寄せる事もあるが、それと同時に国内が惨事になっている場合も少なくなく、受勲式を見る時間と心の余裕が無い。


 だが今回は国内中で話題になっていた10歳の王女様、つまりレイを一目見ようと大量に人が詰め寄せている。


(本当に凄い人気になってるのね…。)


(うおー。人いっぱいだ。)


 ちらりと周囲を気にする様子からしてサリーとツバキも人混みに圧倒されているのが伺える。メリアスは慣れているのか…と思いきや、口を真っ直ぐ結んでじっと耐えている様子からは緊張しているのがレイにまで伝わってくる。

 勲章を受け取るのはレイであるが、メイド達三人も同席するよう事前に連絡を入れておいたのだ。

 勿論良い顔はされないだろうが、彼女達あってこその成果なのは噂で十分に知っている。メリアスが追放した者達からすれば歓迎すべき事ではないが、戦貴族と違い直接の武勇を挙げない王侯貴族は常に民の支持を欲しがっているのもまた事実。

 やりようによってはごり押しで拒否してしまうのも可能ではあったろう。だが、それに対するレイ側のアプローチ次第で自分達が不利益を被ってしまうかもしれない。先日のベルヴェルグ伯のように、また彼らもレイを計りかねている。

 結果、素直に受け入れるのが最も利があると判断したのだろう。レイに対する返事は了承を示すものであった。



 レイはこれまで少食気味だった事もあり、同年代の少女よりもさらに小柄だ。

 故に、今回の式典においてはやや中性的な装いに加え、ペリース…右肩から腰に届かない程度のマントを着用する事で少しでもシルエットを大きく見せるように意識した。

 ナイフで自ら乱雑に切り落とした髪はその後ツバキによって整えられ、サリーが今日のために軽く髪型を弄り、ボリュームを出すように後ろ髪の先を少しだけ上向かせた。「これだけで印象が大きく変わる」らしいが、レイはそちらに関しては疎いので彼女らに任せきりにする事にした。


 跪いたレイは、王より第五勲等を授与される。それに伴うは三人の従者。

 立ち振る舞いは一切の無駄のないよう頭に入れている。

 小柄な体格に見合わない美しい所作は民衆によるレイへの英雄然とした意識を高め、また貴族にとっては年齢に関わらず油断ならない存在と見せつける。


 また、従者である三人のメイドの目も少しは変わるだろう。

 特に国家反逆罪を下されたメリアスがこの場に立っているのは只事ではない。


 当然、この式典にはカルラシード伯……すなわち、レイの実父も参列している。

 王族であり受勲者の父であるのだから、望まずとも顔を出しておかないと無礼者として見られるのは父の方だ。

 さらに言えば、内情を知らぬ者でもレィナータへの冷遇と繋げられる事すら有りうる。邪推ではなく事実が故に簡単だ。


 帰り際、カルラシード家に立ち寄る手筈になっている。

 今後の事を話さなくてはいけないのだから。



 2


 カルラシード家の屋敷に足を踏み入れたレイ達に、従者らから向けられた目は様々なものだった。

 見直したというような表情を見せている者も居れば、虚弱だったレイを知っている為に疑念を抱く者も。


 暗殺を仕掛けて来た家であるのだから、レイ達にとっては危険極まりないのもまた事実だ。だがこの場で何かを仕掛けてくるような無能など居る筈がない。

 その理由はメリアスだ。

 今も軽い威圧を放ちながら歩いている。本人にとっては軽くピリピリしている程度でしかないが、かつてはこの国の頂点に立つ武人。魔法を使えずとも並の人間では太刀打ちできる筈もない。

 もしも武装した私兵を投入したとして、魔法と片足を失っている今ですら、下手すれば強化魔法の隙を突いて返り討ちにしてしまう事もあり得ない話ではない。

 もし上手く行った所で屋敷から逃さず4人全員を殺してしまうのは難しいだろう。その上もしも王都に1人でも逃がしてしまえば全ての悪事が明るみになる。

 カルラシード伯はそのような賭けを嫌い、確実な行動を好む。巨大な権力を持ちながらも才覚と手腕で劣る彼がこれまでやれてきたのは怯えと慎重さの積み重ねだろう。レイの暗殺計画もこれでもかと回りくどいものだった。


 全てを理解の上でレイは気負わないよう堂々と振る舞っていた。ここで怯えた態度を見せない事そのものが最大の威嚇となる。 


「お入りください。」


 執事長に案内され、執務室へ。

 中に入ると豪奢な赤い木材から作られた椅子にカルラシード伯が座っている。

 このような木材はフーニカール国内で採れるものではない。彼が権力を誇示する為にわざわざ遠くの国から取り寄せたものだ。それだけで彼の内面が多少なり窺い知れる。


「レィナータ。此度の活躍は見事であったな。」


 心にもない言葉を口にする。メリアスとサリーは堪えているが、ツバキがぴくりと顔を引きつらせた。

 彼女達にはレイより、可能な限り何も口を出さないようにと釘を刺している。


「お褒め頂き恐縮です、父上。」


 レイもまた心にもない言葉で応じる。それに僅かに動揺したのか、ほんの少しだけ口元を歪ませるのが伺えた。

 この返答一つで、レイがこの屋敷に居た頃とはまるで別人であるのを理解したのだろう。


「では父上。まずはウズの村、及びその周辺に対する警備について話しましょうか。」


「何?」


「当然ではないですか。我がカルラシードの領地に魔物が現れたのです。このまま同じ体制で居る訳にもいかないでしょう。」


 この魔物はカルラシード伯が直接齎したもの、そしてレイもそれは承知の上。

 だが敢えてそれを無視して警備という尤もらしい理由を付けて別の切り口から話題に入る。


「……ふん。では、貴様はどうするのが最善であると考える?」


 相手に一度主導権を渡すのはカルラシード伯の常套手段だ。

 相手の意見をまず聞いたように見せ、その後王族という立場から捩じ伏せ、それを上手く自分に理があるようにすり替えていく。最終的にはまったくの別物になっているそう。

 これは昨日、アトリーズ伯より聞いていた為にあらかじめ想定する事が出来ていた。


「ふむ。ではそうですね。

 まず守衛を初めとした警備を最低限確保するのは最低条件でしょう。

 魔物を狩るとまで言わずとも、装備と数人の訓練した兵を置いておけば魔物が出没しても民を誘導する事が出来ます。

 その援助をお願いしたい。」


 カルラシード伯にとっても、この程度であればまだ許容の範疇だ。

 暗殺が失敗した時点で魔物が現れた以上は何かしらの防衛手段を用意しなくてはカルラシード家の名に傷がつくというもの。

 フーニカールにはフーニカール以北の真魔を恐れて魔物が現れる事がないが、百年に一度程度には迷い込んだ魔物の出没が確認されている。

 となると真魔が防衛線を超えてフーニカール領内に出没する事も、これから絶対にないとは言えない。

 ならば再発防止策を用意すればさして怪しまれる事もない。


「さらに加えて。領民は此度の襲撃にて非常に心を病んでおります。」


 これは半分は本当、もう半分は嘘だ。

 伝聞でしか知らない魔物が現れた事実には恐怖しながらも、彼らにとっては獣と何が違うのかピンと来ていない。

 だからこそ、それを討伐せしめたレイとメイド達に大盛り上がりしていた。レイに頼まれてメイド達を村に運ぶ手伝いをした村人も居り、彼らはあの惨状を目にした。魔物には恐怖していても身近に戦い、勝利した者がいるというのは安心感を与えている。


 だが魔物が身近な王都で暮らすカルラシード伯がそのような思考へ至る筈もない。レイの言葉に嘘が含まれているなど思いもよらないだろう。

 ただでさえ暗殺に失敗している為、斥候を放って捕まってしまえば最早わざわざ証拠を提供するようなものである。情報収集すらもままならず、精々メルクリウスを調査するのがやっとだった。


 その隙を突き、レイは大きく踏み入る事とした。


「よって、あの地には直接統治する領主が必要かと。」


 さあ、反撃開始の時間だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ