表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
2章 虚像の英雄
12/36

第5話 会談

 レイ達は来た時と同じ路…ではなく。一度船で大河を下って商業都市メルクリウスまで行き、そこから馬車に乗り換える事で王都に向かっていた。

 来るまで七日かかった道のりも、こうする事で三日で済む。

 何故追放の際にこの道を辿らなかったのかというと、国内外問わず出入れの多いこの街に寄った事でわざわざ辺境に追放を広めるような事をしたくなかったのと、この街を治める貴族の手の届く範囲に近寄りたくなかったのだろう。


 その貴族とはベルヴェルク伯。

 商人の街を治める為か土地を持つ王侯貴族でありながらも商人寄りの気質であり、時流を逃さぬ鋭い目を持つ男だ。

 そんなベルヴェルク伯であるが、レイが商業都市メルクリウスに立ち寄り次の日の出発に向けて手筈を整えていると宿まで使者を遣わせ、自らの屋敷に招待した。

 馬車で出るにも一晩をメルクリウスで明かす予定であった以上逃れる事も出来ない。何より有力貴族を相手に無碍にするのも如何なものか。


「私の息子も三男がちょうどレィナータ様と同い年でして。

 貴女の英雄譚に憧れて負けられないと鍛錬に励んでおりましたよ。ハッハッハ!」


 招かれた夕食の席では、席に着いているのはレイとベルヴェルク伯のみだ。

 彼の息子だという三男は並んでいないし、その他の人間も同席していないのを見るに顔合わせというよりはレイを測る為に設けた席に違いない。


「ええ、それは何よりですね。

 いずれ同い年ともなれば頼もしい仲間にもなりましょう。」


「ほう?同じ貴族を仲間とは中々面白い表現を致しますな。」


(間違えたか?いや…こちらの出方を見ているのか。)


 王都に次ぐ巨大な商業都市を治める伯爵だけあり、流石に懐が大きく、そしてレイの存在価値を計っているように見えた。彫りの深い顔にかけられた、丸眼鏡の奥の瞳は確実にこちらを見据えている。

 ウズの村からは大河を利用すれば1日の距離なだけに、この会談の是非は今後を左右するだろう。ここまでのやり取り、そして彼の持つ周到さに合わせてこちらを気に入るように慎重かつ気後れしないよう大胆に言葉を選ぶ。


「ええ、仲間です。魔物と戦うには一人では到底敵うものではない。それも群れならば。しかしこちらも群れとなり知恵を回せば打ち克つ事もまた不可能ではないでしょう。

 人とはそれが可能な生き物です。」


「……。」


 この対応が正しいかは分からないが、もうここまで言い切ってしまったのならあとは修正など効くはずもない。出来るのはただ躊躇いなく突っ走る他にない。


「一介の貴族として、王族として、フーニカールの一住民として。

 手を繋ぐ事こそ最大の対策と私は考えております。」


「フッ、ハハハ!!!いや見事な御仁だ。とても10歳とは思えない!」


(そう思うならこんな圧を掛けないでほしい。)


 正直まだ大物と会うつもりは無かったために上手く対応できていたかレイは内心ヒヤヒヤしていたが、あちらが上機嫌なのもありつつがなく終える事が出来た。


 それどころかそのままベルヴェルク邸に宿泊するように招待され豪華なベッドで一夜を過ごし、翌日にはベルヴェルグ伯が手ずから馬車の手配をしてくれたようだ。

 上質な建材と特殊な魔導器からその馬車は揺れが少なく、その為に二回りほど巨大な馬とそれを制する凄腕の御者を必要とする特別な一台という。

 本来馬車で通れないような悪路も強引に突っ走る事が出来るようで、僅か1日で王都に到着した。


「…………もうついちゃった。あんな道通って、揺れないのが逆に怖いね。」


 ツバキの無神経気味な感想にもレイを含め全員が内心同意してしまう程の悪路だった。ふと小窓から外を見ると本当に道なのかすら分からない場所を走っていたのだから。

 この御者はベルヴェルク家お抱えの人員である為、下手な言動をすれば先程の会談が水泡に帰してしまうのだ。それを理解しているため、ツバキ以外の皆は堪えている。


「ぶわっはっは!おっちゃんの運転はすげえだろ!」


「うんうん。」


 素直なツバキに気をよくしたのか気性よく答えている。

 まあ御者の彼は実の所気難しくも職人肌な男であり、いちいちベルヴェルク伯に報告などしないガサツでさっぱりとした性格なので取り越し苦労ではあったのだが、それをレイ達が知る筈もない。



 想像以上に早い帰郷だ。

 御者と別れ、本来の予定よりも1日早く到着したその足で向かったのはカルラシード家ではなく。サリーの生家であるアトリーズ家だった。


「サリー!」


 出迎えたサリーの父・アトリーズ伯は飛びつくように迎え、サリーを抱きしめた。


「おお…。よくぞ無事でいてくれた。よくやった。お前は私の誇りだ。」


 白髪の老紳士でありながら偉丈夫といった出で立ちの彼が人目を憚らずに目を腫らして泣きながら娘との再会を喜んでいる。

 ともすれば貴族としては失格かもしれないが、人間としては素晴らしいと云う他無い。


「うん……。お父さん……。」


 サリーは父と出会った安心感からか涙声になってしまっている。

 サリーらしくない雰囲気だが、あれが父との距離感なのだろう。親子関係が最悪を通り越して暗殺にまで発展したレイには残念ながらピンと来ない。


「レィナータ様。娘をありがとうございます。」


 彼にはレイは全てを包み隠さず報告している。サリーに庇って貰った結果腕を失くした事も知っているのに、アトリーズ伯が真っ先に口に出したのは礼であった。


「いえ、その、私は……。」


 ベルヴェルク伯にも堂々と立ち回ったレイであったが、サリーの父ともなると話は別であるようで、しどろもどろにしか対応できない。貴族として対応するのと、大切な人の父として対応するのはまるで訳が違う。

 そこにメリアスが割って入る。


「はい。その通りです。レイ様が居らねば私は彼女らと協力できなかった。

 即ち全員死んでいた。

 となると、私達が生き延びた事も全てレイ様のお陰であり、勲章を戴くのもまた当然であると言えます。」


 メリアスがそんな事を真っ直ぐに答える。

 レイは明らかに話している内容がおかしいだろうと突っ込みたかったが、アトリーズ伯の対応はまるで違った。


「君が……メリアス君がそう言ってくれるのか。」


 その反応でレイはハッと気付く。

 アトリーズ家は武勲を挙げて戦貴族となった家系で、故に同じくして彼もまた騎士だ。何も枷を持たない頃の、煌めく星にすら喩えられるメリアスの剣技を見た人間の一人でもあった。


「君が、全てを投げ打っても構わないと思える程の主君を見つけられたのか。」


「はい。」


 メリアスの不当な冤罪は、彼女を知っている者からすれば違う反応を見せるだろう。そして魔物の恐怖を知っている者からすれば、その愚かさをよくよく理解している。


 戦貴族は土地を持たない。魔物に勝っても防衛戦である以上土地は増えないからだ。

 するとどうなるかというと、やはり王侯貴族には権力で負け、必然として発言権で劣る。戦貴族のようにメリアスを深く理解している者ほど彼女を庇ってもさらに上の権力で圧し潰される。

 自分を庇ってくれた人間がそうして負ける様を見せつけられたのが彼女の立場であり、メリアスが怒り、そしてそのやり場がない以上はただ抱えるしかなく、荒んでいくのもまた当然と言える。初めてレイと会った時、辺境に送られた時に刺々しい物言いだったのはそれが原因なのだろう。単純な冤罪だけで済まされない過程がそこにはあった。


 にも関わらず、今メリアスは前を向いてレイの為に隣に立っている。それがどれほど困難であるか。


「レィナータ様。やはり貴女は素晴らしいお方だ。貴女にならば、娘を誰よりも信頼して託せる。」


「そ、それは……。」


「えっへん!」


 何故かツバキが前に出て胸を張る。

 こちらは明らかにおかしいが、レイの代わりに褒められた感じを出したのだろう。色々と間違っているような気もする。


 レイはアトリーズ伯より信頼を得たが、同じかそれ以上にレイも彼の事を信頼していた。

 やはり書面のやりとりだけでは見えないものがたくさんある。彼から受けた恩に報いる為にも、是非話しておきたいと考えた。


「ですが……そうですね。アトリーズ伯にならお話していいかもしれない。

 この受勲式をひとつの鍵にしたいと私は考えています。」


「鍵?」


 明るく感情を和らげるのは苦手だ。だが、損得を考え理論的に詰め、策を練り、罠を張る。どうやらこれはレイにとても向いているらしい。


「はい。メリアス達への、この所以なき悪評を取り除くきっかけにするのです。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ