表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
2章 虚像の英雄
11/31

第4話 想定外

 1


 この国では絶えず魔物による侵攻が行われている。

 だからこそ、僅か10歳の少女が魔物を討伐したというのは大きな希望となって国中を駆け巡った。それこそフーニカールの中心である王都から田舎の辺境の地に至るまで――。

 レィナータ=フォン=カルラシード。彼女の名前を今知らぬ者は国内に居ないと言っても決して過言ではない。それほどの意味を持っていた。


 正直な所、レイ自身にとってもこれほどの盛り上がりを見せるのは予想の上だった。

 カルラシード家を牽制し、内々に支援を名目とした賠償金をぶんどってやり、そして今後の為に名前を売っておこうという目論見だった。


 大河を遡上してきたパドル船の輸出入に立ち合った際には、大の大人がからかう為でなく羨望のまなざしでレイを見て握手を求められた程だ。

 自分はただ見ているだけでしかなかったから内心苦笑いだったが、そうしてしまえば噂が歪曲してしまうだろう。にこやかに余裕があるように握手に応じた。


「ここまで加熱するのは流石に想定外かな…。」


 これほどの事態になったのは十八年前の魔物の襲来、「大侵攻」によるものがとても大きい。

 王都に未曾有の被害を出したのはまだ皆の記憶に新しく、王都が復興して魔導器ひしめく美しい都と化した今でも、拭いきれない魔物への恐怖をうっすらと抱えて暮らす平民は貴族・王族が把握しているよりもずっと多い。

 それだけでなく、この「大侵攻」は有史以来数十年に一度発生する現象である。その間に幅はあるがフーニカールで生きていれば早逝しない限り一度二度は経験するものであり、恐怖を抱くほどに次の大侵攻でどうなるかと不安を抱えていくだろう。

 故にこそ、皆が心のどこかで英雄を求めている。


 そこに現れた(よわい)十の王女は三匹もの魔物を討伐したという。

 縋るにはまさにうってつけの英雄譚だ。

 ネガティブな印象を持つ要素が一切ない話題なだけに、積極的に盛り上がれるというのも大きかった。魔物を討伐するとなれば人死にがセットであるのが常だが、此度に死人は無く怪我人だけであるという。

 レイからすれば怪我()()とは到底思えないが、情報を見るとそうなっているのだから仕方ない。それでも死ぬよりはずっと良い結果だというのは理解しているし、不治の魔物による傷痕を持つ人間はこの国に多く存在している分偏見の目もいくらかマシではある。


 自身の手すら離れた想定以上の事態に頭を抱えかけたレイだったが、逆にこれは好機と見た。

 きっと下手人が父であるのなら自分以上にどうしたことかと頭を抱えているだろう。今自分が告発してしまえば大スキャンダルは間違いないのだから。だが、そうする事が必ずしもレイにとり最良であるかは確実とは言えず、また一考を挟む必要がある。


「よしよし。まあ、それはそれ。あちらからの動きを待つのもアリだね。僕が下手に動いてしまった結果、有事に対応が間に合わないのが考えうる中で最悪の展開だ。」



 2


 そう切り替えたのも束の間。レイへと封筒が届く。


「レイ様、お手紙なのですが……。」


 執務室まで持ってきたサリーの顔が引き攣っている。

 それほど都合の悪い人物なのかと心の準備を構えたが、宛名だけでその反応はなんとも不思議だ。

 サリーからレイに手渡された封筒に宛名はない。

 ただやたらと華美で、それでいて豪華な封蝋がされていて…。


「あっ。」


 封蝋に押されているのは見覚えのある紋章。嫌という程に見覚えがある。

 ただし片方だけだ。


 フーニカールの貴族は皆、全ての貴族それぞれの家に固有の紋章を持っている。

 王宮より与えられた重要なシンボルであり、特に新たに与えられた貴族にとっては命よりも大事な名誉ある品である事も珍しくない。


 カルラシード家は王族だ。なので大袈裟ながら片翼の竜をモチーフとした紋章になっていて、反対にもうひとつの王族の家系であるアーグリード家は片翼の天馬を模している。


 であればこの二種が掛け合った紋章は何を示すのか?


 答えは国旗に記されている。

 国そのもの、即ち王宮の紋章だ。それが封蝋として印字されている。


「うわー…。これは……なあ。」


「どう…します?」


「まあ、中身を見ない訳にはいかないね。

 サリー、メリアスとツバキを此処へ。」


「承知致しました。」


 二人を探しに出たサリーを待つ間、封筒を開封する前ににらめっこしてみる。使者を遣わしてはいないという事は、交通網を使いここまで届けられたのだろう。

 万が一にも封蝋が折れては問題だ。勿論不慮の事故はあるのだから割ってしまっても大きく罪に問われる訳ではないが、きっとここまで運んだ配達の担当者は生きた気持ちがしなかったろうな。


 顔を見てもいない配達員を気の毒に思っていると、メリアスとツバキがやってきた。

 メリアスは動揺しすぎて縦に震えている。人間とは極度の緊張を超えるとこうなるのか。反対にツバキは面白い物が届いたと喜んでいるようだ。


「く、く、国からの書状ですか!?」


「おもしろ。みんな揃ったし開けちゃお?」


「ツバキこらっ!!」


 メリアスに頬を引っ張られすぎて顔の形が変わりそうなツバキの為にも封蝋を割り、中を声に出して読む。


『レィナータ=フォン=カルラシード殿

 貴殿の健闘を称え、レムラス第五勲等を授与するものとする。

 よって受勲式を行う為、9月21日に王都へ到着するように。』


 レムラス勲章。

 第一~第六まで存在する、魔物に関する事象で国に貢献した人物に贈られるもの。第六勲等は偶然魔物へ防戦した者へも生死問わず贈られるが、第五勲等は政治的意味合いを持ち、それが民衆へ与えた影響も考慮の上で贈られる。

 辺境の地であるウズの村ですら自分の噂が折り返って来て聞くほどだ。きっと、王都では更なる大熱狂を見せているのだろう。


「はあ……。」


 ここまでの事態に発展してしまうとは。完全にレイの手を離れてしまっている。

 見てもいない王都の熱を思うと素直に喜びきれない。


「レ、レムラス、勲章ですか!?」


 驚いたのはメリアスだ。国を挙げて祝う功労者を労うものに、今のメリアスが関わったというのが信じられないらしい。


「メリアス、君は確か第三勲等貰ってたでしょ?」


「え?そうなんだ。すごい。」


 かつてメリアスは大侵攻でもないのに突如押し寄せた魔物を、見張りの際に一人で全て撃退してしまった事があった。勿論成体ばかりで先日の壁猪など比べ物にならない脅威そのもの。騎士は魔物を倒す為に配属されているとはいえ、過去に遡ろうともそうはない偉業と言える。

 その健闘を称える為に第三勲等を授与されたのだ。

 ……思えば一人で撃退する程ならば、第二勲等を渡してもいい程の功ではある。もしかすると、その頃から冷遇は始まっていたのかもしれないな。


「そ、それとこれとは話が別です!あとその辺の勲章は全て没収されました!」


 没収された事に関しては気の毒という言葉以上のものをかけられないから置いておくとして、話が別というのも間違ってはいない。

 単にカルラシード家に嫌われている僕や風説により嫌われたサリーやツバキと違い、国家反逆罪に処されたメリアスは関係者として置くだけでも本来避けたい筈だ。

 三人のメイドも併せて噂を流す様に根回しをした。王宮からしても軽く調査をすれば、なんなら父の口からメリアスが居るのは分かる筈だ。


 ちらりと再び書状に目を通す。

 書かれているのは第五勲等。見間違いではない。

 となると、最低限の第六勲等では問題があると判断したのだろう。

 第六勲等であれば受勲式を開く必要はなく、一方で第四勲等を超えると平民でも「戦貴族」として貴族の仲間入りをする。紋章が与えられる新しい貴族とはこれの事だ。

 王宮からしても操作不能な程の熱気であると示しているとも言える。


「さて、早速僕の戦いだね。」


 この熱は下手に扱うと火傷してしまう。燃え上がった熱量は瞬時に反転し、こちら側へ不利益を与えるだろう。民衆の熱とはそれほどに制御不能であるのが常と聞く。

 だがどうだろう。カルラシード家からのアクション次第だった状況は一変した。単に静観を決め込むのは悪手とすら言える。

 この火を怯えて避けるのではなく、いっそ逆に自分で上手く使うように立ち回るのはどうだ?それさえ間違えなければ、或いは一杯食わせてやれるかもしれない。ただ燃え盛る炎に怯えるよりは、その炎でステーキ肉でも焼いてやろうじゃないか。


 そんな事を思案していると僕の顔をサリーが覗き込んできた。

 顔に出ていただろうか。


「……ほんとに10歳なんですか?」


 どうやら、愛しのサリーすら僕の年齢を疑い始めたらしい。泣いちゃうぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ