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魔王軍への入団試験  作者: 星狼


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6/7

命令への服従

魔王は卓の上で指を組み直し、紫の瞳を五人に向けたまま、静かに口を開いた。


「我が魔王軍の命令が、人間界の道徳に反する場合もあるかもしれん。その時はどうする?」


左端の横綱の豊ノ海が、背筋を伸ばしたまま声を張り上げた。


「はっ!自分がいた相撲界というのも、少しばかり一般社会からかけ離れた所がありました。恐らく一番かけ離れているのが、尻拭きでしょう。力士の肉体では、糞をした後に自分の尻を拭く事が行えません。位の高い力士の尻を拭くのは、位の低い人力士の役目です。」


魔王は僅かに頷き、視線を固定したまま待った。


横綱の豊ノ海は息を整え、続けた。


「自分も多くの力士達に尻を拭かせました。しかし、それと同時に多く力士達の尻を拭いてきました。これは『郷に入れば郷に従え』という精神から来ております。私が魔王軍という新たな郷に入らせて頂くなら、同じ精神で魔王軍の郷へと従わせて頂きます。」


魔王は卓の上で指を軽く組み、静かに呟いた。


「ふむ、なるほど。そういった精神がもう養われているのだな。他の者も同じか? 左の者は?」


隣の大関の春乃山が、即座に応じた。


「はっ!私も同じ考えです。私が印象に残っているのは、稽古中の『可愛がり』です。ヘバって倒れた力士に水を掛け、無理矢理起こして稽古を再開させるという行いがありました。当時は理不尽だと感じました。恨みもしました。」


魔王は視線を移さず、僅かに頷いた。


大関の春乃山は、言葉を続けた。


「しかし、今の私があるのは、そのおかげであるとは今では感謝しております。理不尽に見えたり、道徳に反する事でも、その奥の本質を掴む事が重要と考えております。」


魔王は再び視線を移した。


「なるほど。次の者。」


関脇の玉ノ浦が、声を揃えて続けた。


「はっ!私も全く同じです。私が一番印象に残っているのは、負けた時の罰稽古です。相撲で負けたら即座に鉄砲……柱押しを100回以上やらされます。負けて心が折れた中、鉄砲を繰り返すのは辛い物がありました。」


魔王は僅かに首を傾げ、視線を固定したまま待った。


関脇の玉ノ浦は、姿勢を崩さず続けた。


「しかし、あの100回を繰り返すたびに体が強くなり、心は折れぬようになりました。魔王軍で道徳に反する命令が出たとしても、それは『鉄砲100回』のようなもの。耐えてこなせば必ず強くなれると信じて、迷わず従います。」


魔王は視線を小結の鏡ノ里に移した。


「ふむ。次の者。」


小結の鏡ノ里が、姿勢を崩さず答えた。


「はっ!私も同じ精神です。私が忘れられないのは、洗濯担当の厳しさです。上位力士のまわしや稽古着を、下位が手洗いして干して畳むのが日課でした。冬の冷たい水で指が切れても、シワ一つ残したら怒られる。そんな行為です。」


魔王は視線を固定し、僅かに頷いた。


小結の鏡ノ里は、言葉を続けた。


「しかし、あの細かい作業を何度も繰り返したおかげで、細かい集中力と忍耐力が身につきました。それは私の力として、生かされています。魔王軍の命令が人間界の常識から外れていたとしても、同じようにきっと何かを得られるはずです。全力で従います。」


魔王は視線を右端に移した。


「なるほど。では最後の者。」


前頭一枚目の東ノ富士が、膝の上の手を握りしめ、声を張り上げた。


「はっ!私の印象に残っているのは来客対応です。来客者が来た時には下位力士が接待全般、茶汲みからお辞儀まで完璧に行わなくてはなりません。当時の私は『こんな物は強さに繋がらない』と何処かで思っておりました。」


魔王は視線を固定したまま、僅かに頷いた。


前頭一枚目の東ノ富士は、続けた。


「しかし、相撲界というのは世間からかけ離れた世界です。そういった時に対応を学んでおかなければ、世間から孤立してしまったでしょう。あの教えがあったからこそ、私は今、この面接でこういった応対が出来ていると考えます。『全ては何かに繋がっている』。私はそういった信念で行わせて頂きます。」


魔王は卓の上で指を軽く叩き、静かに呟いた。


「なるほど。では次が最後の質問だ。」


部屋に、重い沈黙が落ちた。

燭台の炎が揺らめき、五人の影を壁に長く引き伸ばす。

魔王は視線を五人全体にゆっくりと戻した。

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