〈死の化身〉
広々とした空間に、大きな魔族がいる。
猛々しいその魔族と相対するは、王国最強のS級パーティである「鬼殲騎士団」のメンバー二人。
団長であるアインが口を開く。
「貴様は知らないかも知れないが、現代では誰しもスキルという物を持っている。」
ゆっくりと、大魔族プルフラスの正面まで歩く。
アインは重々しい口調で話す。
「だが、現代のそれをスキルと呼ぶのは少し適切じゃない。あれは、成長の傾向と呼ぶのが適切だろう。なら、何故スキルなどと呼ばれているか。それは、昔はそれで正しかったからだ。」
プルフラスは、実の所あまり理解していないが、興味深げに顎を撫でた。
フォルクスは後ろで手を組み淑やかな笑顔で静かに聞く。
アインが続ける。
「昔のスキルとは、鍛錬の末に会得する、一人一人に発現する固有の魔術術式だった。簡単に言えば、個人に特別な魔法が1人ひとつ与えられた言うことだ。」
「それは知っている。貴様は話が下手だな、手短に喋れ。」
プルフラスはアインが一人でベラベラと喋っていることに不快感を覚えた。
人間の長話を聞くのが好きな魔族がいるであろうか。
それでもアインは続ける。
「まぁ待て。現代にも、数は少ないが「スキル魔術」や「固有魔術」と呼ばれていた時代のスキルを使う者はいる。アジロの毒鎌鼬、異国にも何人か。そしてだ、そこのフォルクスも、その1人だ。」
「なんだ、団長何をペラペラ喋っているのかと思ったら、私の解説をして下さってたんですね?」
フォルクスは飄々と話す。
フォルクスは大きな欠伸をし、伸びをする。
プルフラスは目玉の入っていない目をフォルクスの方に向ける。
「……それがなんだというのだ。私にしてみれば、100年前のスタイル、私の得意で競ってくれるのだから、これ以上の事は無い。」
それを聞き、アインは嘲笑する。
「得意だと?馬鹿だな。それを言うなら、フォルクスはその真逆だぞ。」
フォルクスは手をプルフラスに向けて翳す。
瞬間、フォルクスが黒い瘴気を放つ。
〈死の化身〉
フォルクスの手に、漆黒のベールによって作られた大鎌が現れる。
だが、フォルクスの魔法はここからだった。
フォルクスの銀色の髪の毛がみるみる茶髪になっていく。
左目にかけたモノクルはコンタクトレンズのように目玉に同化するように消えていき、フォルクスの目、鼻、輪郭間でもが、別人に変化していく。
変わるのは肉体だけじゃない、服装もだ。
比較的軽いが、煌びやかな銀色に黒いラインの塗装と、いかにも上等な鎧が、庶民的なくすんだ鉄色の質素な鎧に変化する。
「……なるほど。貴様の魔法は多方、対象の最も恐れる姿に変身する。といったところか。」
正確には違うが、フォルクスが変身した相手は100年前にプルフラスを討伐した「歴史から抹消された英雄」で間違いはない。
アインが最初に感じたのは、若い。ということだった。
大体、二十代前半にみえる青年が、あの大魔族を討伐したというのか。
しかも、記録によればたった一人で。
アインにとって、この戦いは相手を殺す戦いではない。
「歴史から抹消された英雄」に関する情報を得るために、プルフラスの事は捕らえたいと考えていた。
アインの興味は依然としてそこに向いていた。
「フォルクス、奴の弱点はどこだ?」
フォルクスは左目を細め、注視する。
「熊の下半身と人間……ではないけど上半身との境目、大体丹田と呼ばれる位置ですね。」
プルフラスは目を細め、やるではないかとでも言う風にフォルクスを見た。
アインが剣と杖を構える。
「……始めるか。」
アインが右手に持った剣が、一瞬キラリと木漏れ日の光を写す。
それを合図にアインが一瞬にして姿を消す。
次の瞬間、アインはプルフラスの目の前に現れ、剣を首元に突き立てる。
だが、剣はガンッと大岩にでもぶつかったかのように弾かれた。
プルフラスが丸太のように太い腕を振りかぶるが、アインは身を翻す。
「フォルクス、今のはなんで弾かれた?」
フォルクスは後ろで目を凝らす。
「見切られてましたね。身体の魔力を首元に集中させてました。」
魔族は身体の全てが魔力によって構成されている。
保有する魔力も人間とは桁違いな為、多少リスキーではあるがノールックで防御する事ができる。
「チッ、体内の魔力移動だけで俺の剣を防ぐだと……こんな事初めてだぞ」
プルフラスはニヤリと笑い、後ろへと飛び退く。
そのまま腕を振り上げ、魔法を構える。
〈棘炎弾〉
空中に無数の炎の針が現れる。
「低級の一般魔法……舐めてるな」
「冗談を言え、先に手加減を始めたのは貴様であろう?」
炎の針が発射され、アインとフォルクス目掛け飛ぶ。
アインは直ぐに左に避け、避けきれなかった一本を剣で弾く。
フォルクスは大鎌を振り回し全ての針を破壊する。
そして大鎌を振りかぶり、プルフラスに向け空を切る。
大鎌からは先程の黒い瘴気がプルフラスに向かって飛んでいく。
プルフラスはそれを手で振り払うが、少し吸い込む。
「……毒か」
「different〜♪」
と、指を振りながら目を瞑ったニヤけ顔で言う。
次の瞬間、プルフラスが口から大量の紫色の血液を吹き出す。
フォルクスはあざけるように言う。
「おやおや、貴方大量に人を殺したんですねぇ」
「……なるほど、死霊系魔法のひとつか。趣味の悪い事だ。」
プルフラスは鼻と口から絶え間なく流れ出る血液を手でぬぐう。
アインはレイピア、もとい杖をプルフラスに向ける。
杖が熱を帯びる。
〈聖炎火〉
白い炎が杖の先端に現れる。
杖を振り抜き、プルフラスに炎を直撃させる。
プルフラスは腕で炎を振り払おうとするが、腕に炎が燃え移り、肉が焦げる。
「聖なる力を持った炎だ。貴様にはよく聞くだろう?」
「くはは、なんのこれしきよ」
腕の炎がみるみる内に黒く変色していく。
聖なる炎は次の瞬間には地獄の火炎へと姿を変えてしまった。
「これこそが、癒しの炎であろう。」
黒い炎はプルフラスの上半身全体へと広がって行き、羽衣のような姿になる。
黒い炎に包まれた左腕を振りかぶり、ピタリと止まる。
「来い」
挑発を受けたアインは、未だ冷めない熱気を纏い、剣を握りしめ直す。
直後、アインは超速で前進する。
両者の攻撃が振り抜かれ、眼前で激突する。
両者は互角に見える。
だが、アインの気が、炎が自身の鎧に引火して一瞬逸れたのをプルフラスが見逃すはずもなかった。
分厚い手でアインの剣の刃を掴み、へし折ろうとする。
だが、アインがそんなことを許すはずが無い。
剣を振り抜きプルフラスの親指を切り落とし、厚い胸板から血液が吹き出る。
「……これは手加減などしていられんな」
「使えよ、お前の」
「スキル魔術を」
作者、一味唐辛子です。
気づいた方もいるかと思うんですが、ハズビンホテル見ながら書いたせいでフォルクスがモノクルといい喋り方といいかなりアラスターに寄ってますね。




