討伐隊作戦始動
訓練所から竜車で大体1時間、山の中の小さな小屋に入っていく。
古びた木製のドアがキィと小さな音を立てて開く。
開いたドアの先には、大人が4人と子供が2人いた。
「遅いぞ」
その大人の内の1人、王国最強の剣聖であるフォッカー・アインデッカーが私に話しかける。
朝早いからか、随分と不機嫌そうな顔をしている。
「えー、ちゃんと指定された竜車に乗りましたよ」
今は大体朝の8時といった所だろう。
朝早くから不機嫌な大人のご機嫌取りなんて言うのはゴメンである。
私は今日行う作戦に参加する討伐隊のメンバーに目をやった。
「……いや、アジロ先輩は知ってたけど、なんでラーム先輩がいるんですか」
そこに居たのは、戦士志望だったけど戦闘能力は中途半端で有名なラームだった。
「なんだよ、不満かよ」
うーむ、不機嫌なのが増えたな。
と言っても、今回救出するネビロとも、ラームはあまり関係ないような感じがする。
勘だが、ラームが自分から志願した感じでも無いと思われる。
なら、なぜ?
アインデッカーが口を開く。
「彼は、他国にいる私の友人が、最も信頼出来る人間として紹介してくれた。戦闘も君とアジロだけでは、近接戦闘に不安があると思い呼ばせて貰った。」
信頼できる人間?こんなガラ悪いのが?
その言葉を聞いたラームが悪態をつく。
「ケッ、アイツは俺を死地にやりたいだけだろうけどな」
なんだかよく分からない所で話が進んでいたらしい。
あと他のメンバーは……マモンに襲われた時に駆けつけた白い人と、知らない人が二人。
片方は装備的に鬼殲騎士団のメンバーと思われるが、もう一人の方はどこかで見た事があるような。
アインデッカーはあくびをした後、話をする。
「作戦は事前に説明したと思うが、私とフォルクスでプルフラスを抑える。ハーレーは奴らの根城に張ってある結界の解析、残りのメンバーはマモンとの戦闘は極力避けネビロの救出。いいな?質問があるやつはいるか?」
フォルクスという名を聞いて、初めてアインの横にいる銀髪モノクルの男が、かの「サンタ・ムエルテ・フォルクス」である事に気がついた。
私の頭には質問が幾つか思いついた。
「えっと、そもそもなんですけど、なぜこんなに研究所の人間が討伐隊に選ばれてるんです?先鋒が全滅したとはいえ、まだ動かせるA級パーティいますよね?」
今する質問か?とも思ったが、知っておきたい。
「……何となく察しているんだろ。」
多方、戦闘能力ではA級に劣るものの、これ以上A級を動かして下手に殺せば国の信頼に関わるし、B級では頼りない。だから国としての重要度が高く、(私なんかは特に)ひとつの分野ではA級に匹敵する能力を持つ、最悪殺してもいい駒を使う。と言った所か。
……いや、ひねくれすぎだろうか。
はっきり理由を言わないあたり、何か黒い事があるのかと予想してみたが。
それより、まだ気になることがある。
「えっと、多分ですけどネビロが閉じ込められてる所には結界が張られてますよね?誰が解析、破壊するんですか?」
アインデッカーは、それはくだらん質問だなと言わんばかりの顔で答えた。
「それはオセくんがやってくれる。」
オセ!そこの人はオセか!
格好が変わりすぎて気が付かなかった。
いや、そもそも初めてのテストの打ち上げで1回会ったきり、それから一度も会っていないのだから、覚えていないのは当然と言えば当然なのだが。
アインデッカーがもう一度口を開く。
「もう質問はないな?」
私は最後にひとつ質問する。
「……こんな朝早くに出撃しますけど、魔族って寝るんですかね?」
「知るか」
古びた石製の建物につく。
その建物はかなり古くボロボロで、全体的に苔むしておりその大きさのせいか手入れは長らくされていないように思えた。
その建物の周りには、ドームのようにオレンジ色のベールが纏われている。
「これが例の結界ね」
白髪の、全体的に白い女の人がそういう。
この人が恐らく「白撃のハーレー」だろう。
アインが尋ねる。
「何の効果を持ってるか分かるか?」
「効果は侵入者を拒むのと、多分一般魔法の弱体化も入ってると思う。」
現代の人間が使える殆どの魔法は一般魔法だ。
私の知る限り、一般魔法以外の魔法を使えるのはアジロ先輩だけだ。
「……アタシが結界に穴を開ける。すぐ閉じちゃうから早いところ全員内側に侵入して。」
そういうとハーレーは、腰からリボルバーを取り出し、結界の方に構える。
「解析には10分くらいかかる。終わり次第すぐ行くから。」
ハーレーはリボルバーの引き金を引き、大きな音を立てて銃弾が発射される。
その弾は結界に着弾し、人が通るには十分なサイズの大穴を空ける。
アインデッカーに先導され、私達は結界内に侵入する。
アインデッカーがオセに尋ねる。
「オセくん、ネビロ少年はどこに?」
オセは険しい顔をして答える。
「位置は分かっています。しかし、地下ですね……それもかなり深い。」
「なら、大体の経路は分かるね。じゃあほかの人はオセくんについて行って。」
アインデッカーとフォルクスは私達と別れ左の方に走っていく。
私達はオセについて走り、どんどんと暗く細い通路を進んでいく。
1分ほど走った所に、地下に通じるであろう入口があった。
その奥は更に暗く、まさに一寸先は闇という感じだ。
ラームが魔法で灯りを作る。
オセは入口の先が、それなりに幅のある通路であることを確認すると、話し始める。
「皆さん、この先には恐らくマモンがいる。出くわしたらアジロ君とウィルフ君で出来るだけ持ちこたえてくれると助かります。ラームは念の為僕と一緒に来てください。」
私達はラームの手に灯った灯りだけを頼りに暗闇の中を進んでいく。
アインがドアを蹴破る。
勢いよく吹っ飛んだ石製のドアと共にアインが突っ込む。
その先は、全体的に苔むした、だが天井に所々空いた穴から木漏れ日のように日光が差し込む、どこか荘厳な雰囲気を纏った広々とした空間だった。
「来たなアインデッカー」
筋骨隆々の肉体を持つ、ガタイのいい魔族は、荒々しい熊の下半身を揺らしそう言った。
プルフラスは空間の奥に座し、目玉の入っていない目の目線をアイン達に向ける。
プルフラスは、アインの後ろからやってくるフォルクスを確認し、嘲笑する。
「なんだ、逃げたと思えば増援を連れてきたのか。全く情けのない男よ。」
アインは返答する。
「勘違いするな、貴様を殺す事など私1人でいつでもできる。だが、問題はそこじゃない。貴様を引っ捕えたあとでたっぷり聞かせてもらうさ」
「かの英雄の話を。」




