品定め
朝起き、着替え、廊下に出る。
いつものように、アガリアとレティがお出迎えしてくれはしない。
2人の治療には、あと1ヶ月はかかるとの事だった。
階段を降り、訓練室につく。
訓練室のドアが開きっぱなしだ。
ネビロが攫われてから2日経った。
昨日の事はあまり覚えていないが、唯一覚えているのは、あの王国最強の剣聖、フォッカー・アインデッカーがこの研究所に来ていたという噂話だ。
真偽は分からないが、あのアルカンがアインデッカーと対等に話していたという話も聞いたから、多分嘘だろう。
と、そんな噂をすればアルカンがやってきた。
「あ、アルカンさん」
「ウィルフ、起きてたか。外でアインが待ってるぞ。」
……アイン?
私は耳を疑った。
大体、アインデッカーは王国最強の剣聖なのだから、敬称をつけるだろう。
多分、アから始まる誰かと聞き間違えたのだろう。
アジロ、そう、多分アジロ先輩だ。
「ああ、アジロ先輩ですか?」
「???」
アルカンは困惑した顔をしている。
全く、困惑したのはこっちの方だ。
「何故アジロ君が出てくる?アインだよアイン。南の剣聖、フォッカー・アインデッカーだよ。」
「?????」
「君がウィルフ君だね?」
目の前には、王国最強。
王国最強が、私を訪ねてきた。
……何故?
考えられるのは、マモンと戦った時の出来事。
だが、話せる情報は全て話した。
理由が分からない。私は「俺、またなんかやっちゃいました?」とか言っちゃう鈍感系主人公になったつもりは無いのだが。
「君、あの魔族相手に食い下がったんだろう?」
「食い下がったというか、肩を抉ってやりましたよ。」
だが、魔族というのは基本的に1日経てば軽傷なら治癒するし、致命的なダメージも数週間もすれば完治するし、見た目だけならその日の内に治る。
それに、マモンは耐久性ではなく、スピードで攻撃を躱すタイプの戦闘スタイル。
アレの肩を抉った所で、強さの証明にはならない。
……という事を、全部話しておいたつもりなのだが。
「でも、それは僕が強いからって事じゃない。」
「……何を勘違いしている?私が君に与えるのはチャンスだけだ。討伐隊に組み込んでもらうチャンス。親友が連れ攫われたのだろう?有望なお子様を見込んでチャンスを与えると言っている。」
……なんか思っていたのと違うぞ?
剣聖といえば、荒くれ者のパーティメンバーをまとめあげる、聡明で冷静な男、というのは共通認識ではなかろうか。
だが、目の前にいるのは、面ばっかり良くて子供相手に若干イキってる20代後半の金髪ロン毛。
いや、まだここまでの言動が冗談混じりの、私が空気を読めていないだけという可能性もある。
ここはひとつ……
「本当ですか!?僕……あれからずっと眠れてなくて……是非、お願いします!」
「あー、うん。おk。じゃあついてきて。」
……なんか冷めてる。
どういう事だ?さっきから言動のテンション感が掴めないぞ?
「いやさ、君のこと推してきたのがね、私のパーティメンバーの一人なんだけど、正直足でまといがいるとね。やりづらいんだよね。」
この人思ってたより変な人だな。
それとも、まだ早朝だから、朝弱い人って可能性もある。
くっついてきたアルカンが話し出す。
「アイン、朝で機嫌悪いからってウィルフ君に当たらないで。」
あれっ、ホントに朝弱いだけの人なのかな。
「ほら、ウィルフ君、そこに立って。」
アインデッカーに促され、朝礼で集まる、体育館みたいな広間の端っこに立つ。
すると、私の15メートルほど離れた左前に立つ。
「ほら、ボケっとしてないで。」
「えっと、何をすれば?」
私はその場で棒立ちになる。
アインデッカーは、呆れたような顔でこちらを見る。
「ほら、今から君の力量を試すんだからさ、分かるでしょ?魔法の構えして。」
そんなの言われなきゃわかんないだろ!という言葉は胸の奥にしまっておいた。
いつも通り、魔法の構えをとる。
「ほら、撃ってきて。」
「じゃ、じゃあ……」
手始めに一発、風刃魔法をお見舞いしてやる。
〈風一太刀〉!
細やかな風が、やがて束になり、大きな鎌となる。
アインデッカーに向かって発射された風の刃は、当たる寸前で弾けて消えた。
「……」
アインの無言が続く。
「……失望した。」
アインは睨みつけるような眼差しでこちらを見る、
「まさか、今のが本気か?」
「あっ、ええ、まぁ普通に本気じゃないです。」
本気で死ぬとは思っていないが、傷くらいはつくだろうから、普通に手加減して撃った。
当然、初っ端からこの訓練所ごと燃やし尽くすような魔法は撃つはず無いだろう。
「……本気も出せないのか。」
「出して見せましょうか?」
「……」
しばし沈黙が流れる。
ここで、私は「テンション感で喋りすぎたか?」という懸念に気がつく。
「あっ、すみません、とんだ御無礼を……なにせ、私も朝は得意ではないもので……」
「私も?」
……やはり気まずい空気が流れる。
うーん、この人とはなんか上手くやっていけなさそうと思う反面、シンパシーも感じる。
「……違うんですか?」
「言っておくが私は朝弱くない。」
「うっわ自分から言い訳潰してんの分かってないのかねぇ」
アルカンが口を出す。
アインがキッとアルカンの方を睨む。
そして、すぐにこちらに向き直る。
「……もう一度撃ってみろ。それで最後だ。ただし、次は本気で、だ。まぁ、せいぜいB級レベルだろうが。」
……舐められている。
舐められるのは、やはり性にあわないのだ、と思った。
グンッ!と、空気が重くのしかかってくるのを、アインは感じた。
「……空気が変わったな」
「……アルカンさん、少し、離れた方がいいです。」
私が最大出力で魔法を使うのは、テストで早く山に火を回したい時だけだ。
間違っても人に向けていい物じゃない。
だが、王国最強が「本気で」と言ったんだ。
ここはひとつ、相手の顔を立ててやるとしよう。
「……行きます」
〈穿爆砲〉!!
一瞬の閃光のあと、轟音と共に炎が訓練所内を埋めつくした。
だが、次の瞬間、炎はアインの元に収束し、1片も残らずに消えてしまった。
「おお、流石王国最強。」
私は撃った反動で、少し高揚して、そんなことを口走った。
アインは、目をぱちくりさせ、すっかり眠気が覚めたようだ。
「それで、どうでしたか?僕の魔法。今のは正真正銘本気ですよ。」
アインは、よく見ると頭に血管が浮き出ていた。
「全くもって最悪と言わざるおえない。」
「これからこんな生意気なのとやってかなきゃなんて」
─── 気になってる生徒ってそういう…… ───
アジロ「えっと……」
アイン「……んっんん゛!ええ、アジロ……久しぶり」
ウィ「面識あったんですか?」
アルカン「えっとね、確かアインはアジロが使う魔法を痛く気に入ったみたいでね?それで何度か話をしてたんだと。」
ウィ「へぇ」
アイン「うぉっほん!あ、アジロ?最近はどうだ?調子というか、その……」
アジロ「まぁ、それなりに。」
アイン「そ、そうか……なら良かった。友達とは、仲良くやれているか?」
アジロ「それは、問題ないと思う。そこのウィルフとも、仲良くやれてるし。」
アイン「それは……素晴らしい事だね。そ、そうだ、聞いたよ。エリン君が正式に研究所勤めになって、アジロがチームリーダーに昇格したんだろう?」
アジロ「ああ、うん。あんま嬉しくないけど。」
アイン「えっ……あっ、そっか……」
暫し、沈黙。
アイン「そ、そうだ!本題に入りたい。明日の魔族討伐の話しだ。」
アジロ「?」
アイン「えっと、その……率直に言う!討伐隊に入ってくれないか?!」
アジロ「えっと……」
アイン「アジロを危険に晒すのは大変不本意ではある!だが、君はパーティメンバー以外では最も信頼している人間の1人だ!」
アジロ「分かりました」
アイン「あっ、今のはアジロよりパーティメンバーを信頼してるとか言うことではなく……え?」
アジロ「ウィルフも来るんでしょ?なら俺がいけない理由は無いでしょう。」
アイン「ほ、本当か?」
アジロ「なにその甘えた目」
アイン「いっ、いや、ありがとう。安心した。」
ウィ「……なんか」
アルカン「……うん」
ウィ「孫に好かれたいおじいちゃんみたい」
アルカン「アインの片思いみたい」
ウィ「……え?」
アルカン「あっやべ」
ウィ「……アインさんってそういう……うわなんかキモ……」
アルカン「いや違う!実際そうとかいう訳ではなくて!」
ウィ「なんか見る目変わりました……」
アルカン「いやっ!ちょっ!アインに申し訳が立たないから!勘弁してくれ!」
アイン「……すごく失礼な会話をされてる気がする。」
アジロ「?」




