100年前の大魔族プルフラス
ネビロ達がマモンから襲撃をうけるのと同時刻───
「ぬるいな」
アインの目の前には、下半身が熊になったケンタウロスのような魔族がいた。
その魔族の筋骨隆々の上半身には無数の傷跡があり、顔面の目には、眼球がなかった。
「お前、何番目に強い?」
「さあ?ただ1つ言えるのは、俺は俺の人生において他人に負けたことがない。」
アインは、『剣聖』のスキルを持つ、王国において最強の存在だった。
こんな問答をしているが、アインは自身の絶対の攻勢を保っていた。
しかし、さっきからずっと攻撃しているのに、一向に相手の体力が削れている感じがしないのもまた事実。
「貴様、名をなんと言う」
「アイン。フォッカー・アインデッカーだ。」
しばし、魔族は顎に手を当て、考えこむような素振りを見せるが、すぐにこちらに向き直る。
「なるほど、我々の探す者では無さそうだ。」
魔族の狙いが分からない以上、奴の情報を集めるのも重要である。
「お前こそ、なんという名だ?」
「プルフラス」
討伐された上級以上の魔族の名前は、全て王宮に記録されている。
プルフラスという名はその名簿には載っていない。
しかし、アインはその名を知っていた。
王宮の最初の記録よりも更に前の記録は、知るものはほとんどいない。
だが、アインはその他の100年前の魔王軍との戦いに関する文献を、誰よりも多く読み漁っていた。
「プルフラス……「歴史から抹消された英雄」に討伐された 100年以上前の大魔族……」
「歴史から抹消、というのは良く分からないが、100年以上前の大魔族というのは正解だ。だが、私は討伐される前に蘇る手段を用意していた。それが今になって発動したという事だ。」
何故ここに居るのかは分からない。
ただ、確かなのは目の前にいるのは、単独でA級パーティ3つを同時に壊滅に追い込んだ化け物ということだ。
だが、これはアインにとって越えられない壁ではない。
「プルフラスよ、このアインを舐めるなよ。私は王国最強、南の剣聖だぞ。」
「かつての王国最強は、貴様ほど脆弱ではなかった。私を殺したあの男は。」
アインはこの言葉に動揺し、心を揺さぶられた。
現在では、歴史から抹消された英雄の事で、残っている記録は全くと言っていいほど無い。
だが、眼前に迫った脅威は、それを知っている。
アインがずっと追い求めた英雄を知っている。
「……その男というのは、どんな者だった?」
「あの男は白雷の衣を纏い、その王の名を冠する魔法は、まさに晴天の霹靂のように一瞬の衝撃で、気づいた時には私の首は切り落とされていた。」
アインは、どうする事も出来なかった。
ある種、感動をしていたからかもしれない。
「……舐めるなよ、俺が剣聖と呼ばれる所以を少しだけ教えてやる。」
アインは左手に握った剣をプルフラスに向けた。
「先程の剣とは違うな?先程の剣ならばまだしも、剣聖の剣がそんな細く脆い剣では、格好もつかん。」
アインは全く動じない。
むしろ、嘲笑のような笑みを零す。
「は、貴様にはこれがレイピアにでも見えたというのか?」
「それ以外に見える者がいるのなら、それは恐らく盲だ。」
アインはその、レイピアに魔力を込める。
すると、レイピアは熱線のように熱く光り出す。
「勘違いするなよ。これはただの杖だ。」
「杖?」
突如、赤い閃光がプルフラスの身体を貫く。
〈赫雷〉
プルフラスの胸を抉りとる。
「ほう、この術は私に効くようだ。」
「剣聖は剣の腕以外も一級品であると、貴様の頭でも少しは理解できたか?」
プルフラスは、少しは興味が湧いたような眼差しでアインを見た。
赤い閃光がまだ消えぬ間に、アインは次の技を構える。
「次は殺す気で行くぞ」
「ほう……今までは手を抜いていたと。」
アインの姿が一瞬にして消える。
「ほう」
プルフラスの背後に、無数の電気の束が連なる。
「電雷魔法が弱点らしいな」
背後に現れたアインは、その輝く杖を振り翳す。
〈雷獣閃〉
電気の束が集まり、雷獣のように形を成す。
「貴様が私を穿つ方法を知っているように、私もそれを防ぐ方法を知っているのだ!」
プルフラスは防御魔法を展開する。
だが、そこまでアインの想定内だ。
「やっと魔法を使ったなプルフラス」
直後、プルフラスの腕が切り落とされる。
「っ!貴様……」
プルフラスの紫色の血液が飛び散る。
「なんだプルフラスよ。俺は元より剣聖だぞ。貴様が対魔法用の行動をすれば、私は当然剣で攻める。」
アインは興が乗ってきたところだが、思考を一新する。
「……だが、ここはひとつ」
相手は100年前の情報を握っているということを忘れてはいけない。
「撤退だ。」
「なんだ、腕1本とってすぐ逃げるのか?つくづく面白くない男よ。」
アイン一人だけでは、それすら出来るか分からないが、少なくとも相手を殺すことしかできない。
プルフラスは、情報源として、殺すのは惜しい。
ならば、十分な戦力を整え、確保に走るべきだ。
アインは森の奥へと歩きだした。
それから1日───
「あっ、アイン様。お久しぶりです。」
「オセくん。様は付けなくていい。」
ここはウィルフ達の植物研究所。
アインはここに、色んな用がある。
「オセくん、頼んでいたの用はどうなっている?」
アインは神妙な面持ちで、オセに聞いた。
「ええ。ちょうど今、攫われたネビロくんから精霊越しに受け取った暗号と思われるメッセージの解読が終わりました。」
「内容は?」
「座標……ですね。恐らく、魔族共の根城の位置かと。」
アインはオセから手渡された紙に書かれたメッセージの内容に目を通す。
数値から見るに、恐らく王都の北。
「……なるほど。ありがとう。」
すると、後ろからアルカンが近づいてきた。
「おぉ、アインじゃないか。何の用?」
「アルカン。いや、オセ君にした頼み事の結果を聞いていた。彼、優秀だな。」
オセは困惑していた。
まさか、あのドジなアルカンが、王国で最も強いあのアインと対等に話している。
「アルカンさん、アイン様と面識が?」
「まあ、古い友人ってとこかな。」
アインにとって、アルカンと話すのもここに来た理由の1つである。
「いやしかし、アルカン。オセくんがいないとこの作戦は詰んでいた。まさか、遠距離からネビロ少年と精霊越しに言伝の内容を受け取る事ができるとは。」
「お褒めに預かり光栄です。では、ここに他の用がありましたら、すぐにご案内します。」
アインはドストフとも話して起きたかったが、また明日来るからいいか。と考えた。
「いや、また明日くるんでね。他の用は明日済ませるよ。」
そう言ってアインはここを去ろうとした。
だが、1つ、アインは大切なことを思い出した。
「そうだ、明日魔族の根城に攻め込む討伐隊を結成しようとおもうんだが、」
「ここの訓練所に、一人気になる生徒がいてね」




