マモン強襲
「今日は良質な薬草が沢山生えてるね」
「魔族騒ぎで他のパーティがクエスト受けてなくて、競合してないんじゃない?」
私達はいつものアルダ山脈で薬草集めに励んでいた。
最近王都では、50年ぶりに上級魔族が現れて、国のトップが動くほどの大騒ぎになっていた。
「まぁ、この山脈は王都で魔族が現れた場所からかなり離れてるし、大丈夫でしょ。」
私達にとって、これはラッキーでもある。
他者がクエストを自粛している今こそ、稼ぎ時である。
「しっかし、鬼殲騎士団ね……会ってみたいもんだよ。」
ネビロは独り言を呟く。
だが、私にはそんなことより気になる事があった。
「しかし、なんか妙じゃない?空気中の魔力量が多い気がする……」
先程から、少し妙な空気を感じる。
それに、魔法を使った時、何か違和感を感じる。
「そんなの分かるの?」
「なんとなくだけど……」
別で動いていたアガリアとレティを探す。
2人とも、特に何か特別な事は無さそうに見える。
ふと、背後の木が揺れる。
「……ネビロ、帰還魔法の準備を。」
「……?なんで?」
嫌な予感が加速する。
咄嗟にアガリアとレティを呼ぶ。
「アガリア!レティ!何かまずいことが起こった!」
「えーなに?」
私はネビロの服を掴み、2人の方へと引きずって歩く。
ネビロは困惑した顔でこちらを向く。
「えっ、ウィルフまじでどうした?」
「いいから」
魔法の用意をする。
「良く気づいたね」
突如、ボロきれのような布を全身に纏った、何かが目の前に現れた。
顔は布の影で見えない。
「誰だ!」
魔法の構えをとる。
だが、相手は明確に私より格上だと分かる。
「まさか、噂の魔族か?」
「いかにも。私は上級魔族のマモン。会えて光栄だナベリウス。」
ナベリウス?私の知らない名だ。
マモンはゆっくりと腕を広げ、こちらに近づいてくる。
「私の要求はただひとつ。その少年を引き渡していただきたい。」
そう言ってマモンはネビロを指さす。
「はは、それは生憎。」
〈火炎球〉!!
魔法を発動し、マモンにぶつける。
その隙に裏に走り、アガリアとレティに駆け寄る。
「アガリアさん!帰還魔法を!」
「出来るならもうやってる!」
自分でも帰還魔法を発動させる。
だが、何も起こらない。
「まさか、何も対策をしていないとでも?」
やはり、さっきからの空気中の魔力量か。
空間に干渉する魔法は、こっちに来るには大掛かりな装置が必要だが、帰りは来る時の魔力経路を辿れば装置無しでも移動魔法を発動できる。
だが、高濃度の魔力空間では、上手く経路を辿れない。
「ほら早く、引き渡してください。」
私はネビロを庇うように立つ。
「アガリアさん、レティとネビロを連れて帰還魔法が使える場所まで移動してください。ここは僕が時間を稼ぎます。」
「……わかった。」
アガリア達はネビロを連れて走り出す。
「うーん、それは困る。」
突如、マモンが目の前から消える。
「消えっ!」
後ろを振り返る。
〈火焔鋲〉
現れた炎の槍が、アガリアとレティの身体に突き刺さる。
2人はその場に倒れ込む。
「アガリア!レティ!」
ネビロの悲痛な叫びが聞こえる。
「今の魔法は……獄炎魔法!」
「なんだ、知っているんですか?」
ネビロを捕まえたマモンはそう言った。
獄炎魔法とは魔族にしか使えない一般の魔法よりも高位の魔法。
だが、何か違和感がある。
出力が低い。
今の魔法が上級魔族のものなら、まず即死だっただろう。
ネビロが被弾しないように出力を制限したか?可能性はある。
だが、
「お前、上級魔族じゃないだろ」
「?!ほう、私の力量を測れるほどの目があるとは思え無かったですが。」
鎌をかける価値はあった。
最初に対処に当たったA級パーティが、上級未満の魔族に全滅するとは思えない。
となると、同時に発生した別個体か。
いや、問題は何故ネビロを標的にしたかだ。
少なくとも、ネビロを殺すつもりでは無いらしい。
私はもう一度、魔法を発動する。
〈風一太刀〉
風の斬撃が、マモンの布を切り裂き、赤い素肌から血が吹き出る。
「……貴方さっきの魔法でも思いましたが中々戦えるタチですね」
今の対応を見る限り、恐らく中級魔族の上澄みと言ったところだろう。
だが、私一人では勝算はない。
頭をフル回転させ、策を練る。
「ところで、気になったんだけど、マモン。アンタは噂の上級魔族と何か関係があるの?」
「答えて何かメリットがありますか?」
とにかく、今は少しでも掛け合いで時間を稼ぐ。
「いや、答えなくてもいい。まさか何の関係も持ってないとは僕も思ってない。」
「じゃあ何故?」
「つまりは「今の問答は無意味」って意味だ」
マモンの足に薬草が絡みつく。
私の常套手段だが、マモンという格上にも通じた。
「おっ、」
一瞬、マモンの動きを止める。
その一瞬を見逃すはずもない。
〈穿爆砲〉!!
「おいマジか!」
マモンに引っ捕えられたネビロが叫ぶ。
だが、巻き添えになる所まで計算していない訳がない。
あれから、何度かのテストを経て対人戦における魔法、特に爆破魔法の調整を終えている。
鋭い閃光が走る。
魔法がマモンの肩を抉る。
「ッ!貫通力に特化した魔法……本来の魔法効果の範疇を超えた変化が生じてますね。早いところ引き返すとしましょう。」
「仕留め損なった!」
マモンに向けて走る。
こうなったら力づくで取り戻すしかない。
すると、突如マモンの背中からコウモリのような、大きな翼が現れた。
「ここはお暇させていただきます」
マモンが空高く飛び上がる。
風圧で私の体が浮き上がる。
「クソッ!!」
咄嗟に魔法の構えをとる。
だが、すでにマモンはゴマ粒のように遠くに行っていた。
「ちょっと、そこの子!」
背後で声がする。
「誰?!」
「アタシのこと知らないの?」
そこに居たのは、純白の鎧を身にまとい、両手にリボルバーを持った長い銀髪の女の人だった。
「チッ、アイツ速いな……一瞬でアタシの射程距離外に逃げやがった」
「ちょ、ネビロが!」
私が使える中で最速の魔法を発動しようとする。
「やめろ!アタシでも無理なんだからガキンチョじゃ無理だっつーの。」
「でもネビロが!」
「誰だソイツ。まずそこでぶっ倒れてる2人を拾え。」
2人が担架のようなもので運ばれていく。
それを横目に王宮勤めらしい、よく分からない大人に促され部屋に入っていく。
「いくつか聞きたい事があるんだけど」
「分かってます。」
質素な椅子に座る。
この部屋は、まるで尋問部屋だ。
「アイツは、マモンと名乗りました。例の上級魔族とは別個体です。」
それから、マモンに対して知っている事、あそこで起こった事を全て話した。
マモンはボロきれのような布で全身を隠して現れた事、素肌は赤く恐らく人型である事、私の魔法が通用した事。
「なるほどね。分かった、鬼殲騎士団に伝えておくよ。」
─── 王宮 ───
「……それで?」
王座にランスロット王が座し、前にはアインが跪く。
「王都の例の植物研究所の研究員、「オセ・カリムジェンス」氏の協力により、魔族共の根城の特定が完了しました。」
「それで……次の行動は? 」
「明日、討伐隊を結成します。」




