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プルフラス・ファンファーレ

コンクリートのような石の床の上にどす黒い血液がぽたぽたと滴り落ちる。

耳、鼻、目からの出血。

左の目玉から割れたモノクルの破片が飛び出す。

大鎌にもたれかかる。

「左の目が潰れました」

フォルクスはアインにそう伝える。

「見ればわかる」

アインは冷たくそう言う。

フォルクスの変身は左目の周辺がガラスがバリバリに割れたかのように解けている。

アインの鼻からも血が流れている。

その血を拭う。

「下がっていいぞ。その代わり、給料の分は働け。」

「意地が悪い人。変身の為だけに私をここに配分したんでしょう?」

フォルクスは後ろに下がり、気配を消す。

アインは戦闘の姿勢を正す。

「厄介だな、あの()()()

プルフラスは右手に持つ、生成したラッパを構える。

アインは、あのラッパは魔法で音を出す機構が中にあるんだろうと思考する。

ラッパ、その名を〈大魔(ブファス)の金樂(・ファンファーレ)

プルフラスの固有魔術である。

「音圧、振動による内部破壊……フォルクス程の魔術の使い手でも目玉が破裂するレベル、生半可なガードは逆効果だろうな。」

アインは剣を握り直す。

プルフラスが、大魔(ブファス)の金樂(・ファンファーレ)を振りかぶり、魔法を発動する。

咄嗟に耳を塞ぎ、目と鼻、そして脳を魔力でガードする。

だが、それが振り抜かれることはなく、別の魔法が発動される。

獄焔槍(ルタロスランツェ)

太い黒い炎の槍がアインに向かって突っ込んでいく。

アインはそれを剣で弾くが、辺りが炎に包まれる。

突如、轟音が鳴り響く。

「ベタだな」

次と瞬間には、アインはプルフラスの背後にいた。

紫の血液が空中に撒き散らされる。

一瞬でアインはプルフラスを袈裟斬りにした。

両者が振り返る。

空中に火花が散る。

両者の魔法が激突していた。

この次の瞬間、1秒に満たない時間の中で幾つもの剣によるやり取りをしていた。

決定打となったのは、プルフラスの一撃。

アインの左頬にめり込み、赤い血液が飛び散る。

ふらついた所を胸ぐらを掴み、熊の下半身で疾走し引きずり回す。

壁に向け投げられたアインはそのまま壁を貫通し、岩肌に激突する。

「チッ、大魔族ってだけはあるな」

と、口から出る血を吐き捨てながら言った。

先程のやり取りのなかで、何度かプルフラスは大魔(ブファス)の金樂(・ファンファーレ)を能力を発動していた。

常にそれを警戒しなければいけない、それだけで大きく不利になる。

短いやり取りの中でアインが捉えられたのも、それが大きな理由だ。

アインは立ち上がり、次の衝撃に備える。

だが、煙の向こうから現れたのはプルフラスではなく、大きな黒い火球だった。

アインは右手に持つ剣で迎え撃つ。

斬撃が飛び、火球とその奥の建物を大きく切り裂く。

アインが周囲を見渡す。

貼られていた筈のオレンジ色の結界は見当たらない。

両断された火球が霧散した奥からプルフラスはじわじわと近づいてくる。

「あの変身の男を守りながら戦っていたつもりか?だとしても、その程度では私には遠く及ばない。」

プルフラスの傷は既に癒えているように見える。

だが、それが見た目だけのことである事をアインは見抜いていた。

アインの見立てでは、プルフラスの力量を10とした時、フォルクスは8、今のアインは大体9か10だろう。

だが、フォルクスを戦力に数える事はできない。

こうなった以上アインは切り札を使う事も視野に入れなくてはならない。

勝率は4割程度。

両者が向かい合う。

数秒の沈黙の後、剣の閃光と共にアインが奔る。

剣がガードしたプルフラスの腕を貫く。

だが、突如黒い炎が燃え上がり、2人を包む。

「テメェ、死なば諸共か?」

そう放ったアインの全身の肉は焼け爛れ、口から煙も上がっているが、剣に込める力は強くなる一方。

プルフラスの首まで、あと数cm。

「知らぬのか?獄炎魔法の炎が我々を焼く事はない。」

「バカな、魔物には効く。魔族にも、効く筈だ。」

突き刺す攻撃はアインの得意ではない。

レイピア、もとい杖を振りかぶりプルフラスの腕を切りつける。

すると、プルフラスの腕からは血液が勢いよく炎の中に流れ出る。

「……どういう能力なのだ?」

「剣聖と一口に言っても、俺のスキルと他の剣聖のスキルでは違う。」

アインは剣をプルフラスの腕から勢いよく引き抜き、炎を振り払う。

「俺の剣聖スキルは、斬撃の強化に偏ってる。」

アインは少し距離をとり、続ける。

「刺突攻撃には俺のスキルは乗りづらい。」

「ほう」

「それと、さっきからお前が俺の攻撃を防げていたのは理由がある。」

アインは冷静に続ける。

「今日は朝早い。眠いのだ。」

プルフラスは一瞬苛ついたような顔を見せた。

「……自分の弱さの言い訳としても三流、興醒めも良いところだ」

そう言った途端、プルフラスは何も入っていない目を大きく開き、胸を叩く。

「やってみせよ」

アインはゆっくり剣を持ち上げ、大きく、そしてラフに振りかぶる。

瞬間、その場の空気がズシッと重くなる。

これはまずい!プルフラスは飛び退き大きく後退する。

振り下ろしたアインの剣は空を切った。

アインが呟く、

風一太刀(シルフブレイド)


紫の血が床に滴り落ちる。

その血の池は瞬く間に大きくなり、岩肌の地面に深く染み込んでいく。

馬鹿な、奴の間合いからは完全に逃れた。なのに何故?

魔族の体内に内蔵があるかは定かではないが、その刃は確実に致命的な部分に達した。

「……話したであろう?」

アインの口調が、普段の冷静さを取り戻す。

「私のスキルは剣聖。とはいえ、現代のスキルとはあくまでも成長の傾向であり、私はそれが斬撃の強化に傾いている。」

「それは魔法も例外ではない」

プルフラスは瞬時に理解する。

アインはいつだってこんな風に自身に致命傷を与えることが出来た。

もっとも、スロースターターのアインにはここまでのプロセスは必要不可欠な物であったが、プルフラスは知る由もない。

「ククク……良い、その力込で私と同等(トントン)だろう?面白いではないか」

プルフラスが自身の大魔(ブファス)の金樂(・ファンファーレ)を振りかぶる。

だが、それが振り下ろされる事はなかった。



プルフラスの腹部に、黒い()が引かれる。

死の化身(サンタ・ムエルテ)

プルフラスに引かれたその線から上が、ずり落ちる。

「急所を掠めました。これで給料分は働きましたかね?」

半分変身の解けたフォルクスが、ずり落ちたプルフラスの上半身の後ろから現れた。

黒いベールの大鎌を肩にかける。

「……団長、しかし団員2人がかりでこんなかかるなんて、東の軍国と戦争した時以来じゃないですか?」

「もうひと仕事やってもらうぞフォルクス」

プルフラスがどうにか腕で起き上がる。

憎い声で言う。

「……殺せ」

アインはプルフラスの髪の毛を掴み、持ち上げる。

「殺すものか、話してもらうぞ」



「歴史から抹消された英雄の話を」

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