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18/30

新生活の為の

「まぁ……そうだな。しばらく会えなくなると思うけど、ちょくちょく手紙出すから。」

シアは玄関に立ち、私に向かってそう言う。

「分かってるよ。お前も今日の夜にはここを出るんだろ?」

「どうってこたねぇ。お前のいないココに用はないさ。」

シアはそう言って笑って見せた。

私は玄関の扉から外に出る。

「あばよー!」

そういうシアに向け、後ろも見ずに手を振った。





「くっそ……分かってたけど……重いよ……」

さんさんと照りつける太陽がうっとおしい。

物心ついた時から、シアと二人で他の冒険者パーティにくっついていって稼いだ端金で買ったこの子達。

この世界は引越しの業者に頼むと高くつく。

……とはいえ、この運び方はさすがに無理があっただろうか。

訓練所の前に着く。

「ウィルフリードです。開けてください。」

ガチャ、と鍵の開く音がする。

扉を開くため、手をかざす。

が、手を伸ばした瞬間、肩からボキッと音がする。

声にならない声で叫ぶ。

なんとかとびきりを開き、訓練所の中に上がり込む。

「あれ……ウィルフ君?!何でそんな荷物もってんの?!」

上がってすぐにいたのはアルカンだった。

アルカンは慌てた様子で駆け寄る。

「ちょ、半分持つよ?」

「結構です。」

アルカンは更に解せない顔であたふたしている。

「え!なんで?」

「いや、なんでとかないっす。まじ大丈夫なんで。」

「ええ?!」

正直、アルカンの事はあまり信用していない。

渡しからの視点で見たアルカンは、頼りない大人だ。

万が一、落とされでもしたら私はアルカンを半殺しにしてしまうかもしれない。

「寮の方向ってどっちでしたっけ」

「ええ!このまま歩くの?!こっちだけど……」

「ありがとうございます。」

訓練室を通り、階段を上る。

ぶつけないように、細心の注意を払う。

膝がミシミシと音を立てて軋んでいるのを感じる。

階段を上りきった先の廊下には、ネビロがいた。

「あっ、ウィ……ウィルフ?!どうしたのその荷物!アルカンさん、どうして持ってあげないんです?」

アルカンは慌てて弁明する。

「いや持たせて貰えないんだって!」

「ネビロこれもってくんない?」

「なんで?!ネビロはいいの?!」

ネビロには楽器の手入れ用の道具を持ってもらった。

「あっ、部屋こっち。」

ネビロの部屋にあがる。

思ったより広く、これなら楽器を置くスペースも十分ありそうだ。

一旦、背負ってた子達を下ろす。

「てか、なんでギターを4本も?」

「ギターじゃない。この2本がアコギ、これがベース、これに関してはウクレレだよ?見分けつくでしょ。」

ロッカーを開き、小さい方のアコギ、フルートと畳める自作のキーボードをしまう。

「それなに?ピアノ?」

「魔法で動かす、練習用のピアノ。とでも言おうかな。」

クローゼットを開く。

軽くホコリを掃除し、上側の空きスペースにヴァイオリン、ウクレレ、ベースをしまう。

大きいギターとドラムセットは壁に立てかける。

「いや……趣味楽器とは聞いてたけど、凄いね。」

「凄いって言葉は僕の演奏聞いた後にとっといて。」

ネビロが2段ベッドの下の方のベッドに座る。

こっちの世界で2段ベッドは初めてだ。

私も座り込んで一息つく。

「と、とりあえず朝ごはん食べよう。食堂行く?」

「朝礼が30分後……行くか。」


食堂は、施設のやつよりは狭いが、まぁ十分だろう。

ネビロと一緒に席に着く。

「ウィルフ、さっきの楽器全部買ったの?」

「いや、知り合いに貰ったのとかもある。」

この世界の楽器は、前の世界より若干値段が高い。

クエストの報酬も、前の世界にすれば随分金払いが良いが、戦わない荷物持ちの仕事でここまで買い集めるのは無理がある。

「パン食べる?」

「もらう。」

ネビロは、置いてあった無料のパンを持ってくる。

私はそれに噛み付いてみるが、なかなか食いちぎれない。

「……かってぇ。」

なんとかパンを水と一緒に、胃の中に押し込む。

「そんな急がなくていいのに」

「ここに来るまでにかなり体力使ったから、栄養補給。朝礼早く行こう。」


「諸君!よい朝だ!今日もいつも通り訓練に励みたまえ!」

ドストフが、いつもの朝礼を終える。

私はネビロと一緒に訓練室に戻る。

訓練室にはいつも通り、アガリアとレティが先に戻っていた。

「あっ、ウィルフとネビロ。今日から同棲でしょ?」

「同棲言うな。」

アガリアが茶化しにくる。

レティはいつも通り、部屋の隅で既に訓練用の文献を読み漁っている。

「ほらウィルフ、こっち来て。訓練やるよ。」



お昼の時間になる。

私はアガリアと休憩しながら、水を飲む。

「ウィルフさぁ、なんか今日調子悪くない?」

「え?」

そんな事を言われるなんて、思いもよらなかった。

自分では、この程度の魔法に支障が出るほどは、体力を消耗しているとはおもっていなかったし、自覚も無かった。

「あぁ、朝大量に荷物を背負って歩いたからですかね?」

「いや、そういうんじゃなくて、なんか魔法に直接関わる精神的なやつ。」

そんなに深掘りしにくるレベルで今日の私は変だっただろうか。

思い当たる節としては、普通に生活環境が変わるから。と言ったところだろうか。

「まぁ、暮らす場所が変わるって事だけでも、結構なストレスになりうるんじゃないですかね?」

「……本当にそれだけ?」

……思い当たる節はあった。

でも、これを口にするのは、少しむず痒い感じがする。

「……それだけ、と言えばそれだけなんですよ。でも、あるとしたら、しばらく親友に会えなくなっちゃった事ですかね。」

シアは、こっちの世界に生まれて、物心着く前からずっと親友で、一緒にいた。

訓練所の友人も、真に心を開ける存在ではない。

それは、ネビロでさえも。

「そうなんだ……」

アガリアは少し真剣な眼差しで言った。

「ウィルフ、ウチら以外に友達いたんだ」

「あっ引っかかるのそこですか?」

「だってウィルフ割とコミュ障みたいなところあるじゃん。」

……否定はできない。

訓練所でも、ネビロが最初に話しかけてくれなかったら、孤立していただろう。

まぁとりあえず、他人から見てもわかるくらい精神が乱れているのは確かなのだ。

落ち着かなければ。



「よーし、今日の訓練終わり!」

アガリアは元気そうにそう言った。

私は、汗だくでその場にへたっ、と倒れ込む。

訓練が始まって大体1年、ここまで疲れた日は無かった。

いや、考えて見れば、思ったよりあったかもしれない。

「ウィルフ、今日はお疲れ様。一緒に飯食いにいこうぜ?」

ネビロも元気そうだ。

「その前にシャワー浴びたいんだけど……」

「……ホントだ汗びっしょり。」

ネビロは私をお姫様抱っこでシャワールームまで連れて行ってくれた。


「思ったよりちゃんとしてるね。」

「そう?」

シャワールームには、個室シャワーが5、6個ほど並んでいて、割とひとつひとつが清潔で広かった。

個室に入り、シャワーを浴びる。

ちなみに、この世界のシャワーは魔法で稼働している。

自分の魔力を流して、ON/OFFを切り替える。

「あ゛〜きもち〜」

熱っついお湯で汗と共に疲れが流れ落ちる。

ネビロが隣の個室で頭をシャコシャコ洗っている音がする。

こっちの世界に来て毎日思っていることがある。

それは、「風呂に浸かりたい」だ。

16年経って多少慣れたが、立ちっぱなしで身体を雑に洗うだけでは、とれない心の疲れがある。

そんな事を考えながら全身を洗い、シャワールームを出ようとする。

だが、着替えを用意してない事に気がついた。

「ネビロ!着替えってどうしてる?」

ネビロがシャワーの個室からひょこっと顔を出した。

「その、左にバスローブあるでしょ?それ着ていいから。」

バスローブ……なんだかホテルみたいだ。

しばらくして、ネビロもシャワーを終える。

ネビロは身体を拭き、バスローブを着る。

「じゃ、部屋戻るか。」


「食堂行かないの?」

ネビロに聞いてみた。

「この部屋に買いだめといたパンあるから、普段はそれ食ってる。」

「えー、虫来るよ?」

「大丈夫大丈夫」

ネビロから受け取ったレーズンパンを頬張る。

そういえば、この世界は虫が少ないような気がする。

食べ終えると、私はベッドから離れ、ロッカーの中のアコギを手に取る。

もちろん手は魔法で濡らしたタオルで拭き、清潔にした。

「あれ、ギター持ってどっか行くの?」

「ちょっと、ルーティンをこなそうと思って。」

「ふーん、行ってらっしゃい」


ネビロに見送られ、廊下に出る。

廊下には、偶然レティがいた。

「あっ……ウィ、ウィルフさん……」

「お、レティ」

1年前から、レティとも少しずつ距離が縮まった気がする。

「ぎ、ギター持って……どこにいくんですか?」

「ちょっと森の方へ一人で演奏に。」

レティは、なんだか恥ずかしそうにモジモジしていた。

「どうかした?」

「あの……もし良ければ、ついて行ってもいいですか……?」

レティは1年前から随分積極的になったと感じる。

まだ難はあるが、確実な成長が感じ取れる。

「いいよ。ちょっと歩くけど、いい?」

「はっ、はい……!」


「や、やっぱり……ウィルフさんの演奏は凄いです……」

はて、前に演奏を聞かせたことがあったろうか?

そういえば、一回ハーモニカを弾いて見せた事があったような……

「ありがとう。ねぇ、この夜の演奏毎日やってるんだけど、明日も来る?」

「い、いいんですか……?それなら是非……お願いします。」

そういえば前に、レティはピアノが弾けると聞いた事があったはずだ。

これから更に関係を深めていけば、ピアノを聞かせてくれるかもしれない。


「ん、おかえりウィルフ。寮の初日はどうだった?」

「まぁ、上々。」

ベッドになだれ込む。

「はは、今日はもう寝な?」

「うん……そうだね……」


その日は泥のように眠った。

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