16歳の少年ウィルフリード
「ウィルフリード君の事だがね」
ドストフは、部屋の椅子に腰掛け、目の前のアルカンにこういった。
「君も見たろう、苗木から一瞬で樹木へと成長させた、あの魔法を。」
「彼はテスト中、ラーム君の背中に植えた苗木を、戦士志望の彼が身動きが取れなくなるほどの大きな樹木へと一瞬にして成長させた。これは三年目の生徒でも優秀でなければ出来ないレベルです。」
ドストフは、小太りの重そうな身体で立ち上がる。
「……飛び級させるか」
「伝えますか?」
「そもそも、規定のレベルを超えたら雇うということにしているのだ。向上心を保つ為にも伝えんで構わんだろう。」
ドストフは気味の悪い笑みを浮かべる。
「楽しみだ……彼は確実に利用できる……」
訓練開始から約一年───
「ハッピバースデートゥーユー♩」
「ハッピバースデートゥーユー♫」
「ハッピバースデーディアウィルフ〜♫」
「ハッピバースデートゥーユ〜♫」
訓練室で、ネビロ、アガリア、レティの3人は、この世界独特の音程で、ハッピーバースデーを歌ってくれた。
「ウィルフ、16歳の誕生日おめでとーー!」
「あはは、ありがとう。」
私の誕生日が前の世界とリンクしているなら、今日は7月9日ということになる。
三ヶ月前に、アガリアは4年目になり、二ヶ月前にはネビロとレティがそれぞれ3年目、2年目に突入した。
「まぁホントのお祝いは今度の休日だね。」
コンコン、とドアがノックされる。
キィ、と開いて出てきたのはアルカンだった。
「お誕生日会の途中悪いけど、ウィルフ君借りるよ」
アルカンと、部屋の外に出る。
「何かお話がありますか?」
アルカンに尋ねてみた。
「いやね、大した事じゃないんだが、明日からしばらく、家から通ってる子はこの訓練所お休みになるんだ。」
「……なんで?」
アルカンはポカンとした顔をした。
「……もしかしてウィルフ君、新聞とか読まないタイプ?」
「まぁ、王都の新聞は読めないんで。」
「……昨日、王都に上級の「魔族」が現れた」
魔族、知識としては知っている。
魔物は下級、中級、上級、最上級までが存在する。
その中で、上級以上の魔物が人間と同等の知性を獲得し、身体を構成する魔力が変質した特殊な魔物が魔族だ。
「魔族……知識はありますが、見た事はないですね……」
「当然だよ。魔族は50年前には人間が全滅させたはずだったからね。」
最上級の魔族は100年前、「魔王」と共に全て掃討されたのはこの国の民なら皆知っている事だ。
中級以上の魔族も、50年前に最後の一体が討伐された。
「なるほど、というか忘れてるかもしれないんですが、僕もう数日で2年目入るんで、寮に入りますよ?」
「……あれ?そういう話だっけ?」
「居住施設追い出されちゃうんで。」
まぁ忘れているだろうと思っていた。
今の居住施設で、無償で住めるのは16歳までなのだ。
明日の朝には荷造りして、出ていかないと行けない。
ちなみに、居住施設の友人は、シア以外特に仲が良い訳ではないので、お別れ会とかは無い。
「えーあー……OK。部屋用意するけど誰と同室がいいとかある?」
多分だが、ネビロ以外とは上手くやっていけないと思う。
「ネビロって今同室の人います?」
「多分いない。」
「じゃあネビロで。」
アルカンと一緒に訓練室に戻る。
「じゃ、今度はネビロ借りるよ」
ネビロはアルカンに連れられ部屋を出る。
「何の話してたの?」
アガリアが尋ねてきた。
「僕、明日から寮に入るんですよ。だからその話です。」
「おー。やっぱネビロと同室?」
「まぁ、ネビロからOKが出れば。」
今この訓練所の生徒は、エリンやオセさんなんかの前まで4年目だった人たちが抜け、大体20人を下回るくらいになっている。
まぁこっちの世界に生まれてこの方、ずっと寮生活みたいなものだから、集団生活についてそう困ることはないと思っている。
「そういえば、ここって食堂ありましたよね?」
「あるよ。まぁみんな割と自分の金結構持ってるし外で食べる事多いからあんま人いないけど。」
今までの施設では、割と私以外のみんなはワイワイ食べてたから、早い時間から静かな食堂を占領できるのは良い。
「あっ、そうだ、倉庫あります?」
「ああー、あるけどちっちゃいよ?」
不安なのは、私の楽器達が入るかどうかだ。
ロッカーが広かったから、ギター1本と小さめの子達は入るとして……と、そんな事を考えていると、ネビロが戻ってきた。
「あっ、ネビロ」
ネビロはこっちを見ると、満足気な顔で、手でGoodのハンドサインをした。
内心、ホッとした。
─── 王宮 ───
壁一面に映像魔法によって遠隔で投影された映像が写っている。
画面の中には、森の中の死体が映し出されている。
王座に座る、髭をたくわえた、勇ましい顔立ちの男は、前に立つ男に尋ねた。
「派遣した複数のA級パーティはどうなった?」
男は答える。
「1人を除き全滅...でごさいます。」
王座に座る男は、再び尋ねる。
「ヤツの動向は?」
「森の奥に入っていった後、出てくる様子は見えません。」
2人の間に暫し沈黙が流れる。
静寂を破ったのは、前に立つ男だった。
「……最上級に格上げなさいますか?」
「ギルドの上層部はその判断を下していない以上、私にその権限はない。」
王座に座る男は顔をしかめ、少しの間、悩むような素振りをみせる。
ようやく考えがまとまったのか、口を開いた。
「我々がやる事はひとつ。」
「S級パーティを呼べ」




