初対面みたいなテンション感
「諸君!外は昨夜の雨で湿っているが、良い朝だ!テスト明けということもあってまぁ気が抜けていると思うが……まぁ今日はほどほどに頑張りたまえ!」
この前……昨日の飲み会は楽しかった。
あれから丸1日経ち、訓練所の朝礼をしていた。
「……なんでドストフさんほどほどになんて言ったんだろ」
隣に立つネビロが答えた。
「あの人偏頭痛持ちで、雨降った前後は調子悪いんだよね」
「ふーん」
朝礼が終わると、自分達の訓練室に各々戻っていく。
歩いている途中、ネビロが何かを思い出したような素振りを見せた。
「あっ!そうだ言い忘れてた」
「何?」
「この前の飲み会!実は提案したのレティなんだよね」
おぉ、凄く意外だ。
そういうのとは正反対の性格に思える。
「へぇ」
「へぇ、じゃないよ!レティさ、お前の為にあの会提案したんだぜ?」
何故?と思った。
レティと僕はあまり深い関係ではない。
普段陰気なレティが自分の殻を破り、私の為になにかするほどの事は起こっていない。
「あの子、お前の為に牛肉食える店下調べして、エリン達とテスト中喧嘩っぽくなったからって仲直りの為に他チームのメンバーも呼んで来て、凄かったんだぞ」
「……でも、何でそんなことを?」
「いいから、後でお礼言いなよ?」
……本当に謎だ。
訓練室には、先に戻っていたアガリアとレティがいた。
「ほら、ウィルフ。」
ネビロが私に耳打ちしてくる。
「あっ、ああ、れ、レティ?」
「はっ……はい……なんでしょう……」
最初から呼び捨てはマズかったか?
というかなんなら二ヶ月近く一緒に居て、たった今初めて名前呼んだのか?
いや、確かレティは私とここに来たタイミングがほとんど一緒だったはず……タメ口で問題ない。
「あの、この前の飲み会の事だけど……」
「は、はい……」
「……僕の為にレティが企画してくれたって本当?」
凄くやりづらい。
ここ1、2ヶ月で少しは同年代との会話に慣れたと思ったが、これは別枠だ。
「はっ、はい……そうです……けど……」
「そ、そうだったんだ。いや、凄く楽しかったからさ、感謝したくて。本当にありがとう。」
「あっ、あっ……こ、こちらこそ……」
よ、よし、とりあえず感謝は伝えた。
「じ、じゃあまた……」
その時、背中をトン、と押される。
背後には、生暖かい目をしたネビロとアガリアがいた。
「いってこい……。」
ネビロは私に向かってとびきりのウインクをする。
アガリアは右手でGoodのハンドサインをしている。
……何が言いたいのかまるで分からない。
こっちは陰気ガールとのコミュニケーションに四苦八苦していると言うのに、無神経に意味不明な要素を突っ込んでくるヤツらにすこしイラつく。
「あーっ、そうだな、レティ、外で少し話したり……する?」
レティは静かにこくりと頷く。
「今日は湿ってるね。」
訓練所の外に出てみた。
外出許可をとる時、アルカンさんがニヤついていた。
「そ、そうですね……」
「……天気が安定してないから、さっきドストフさんが辛そうだったよ。」
「……」
会話が続かない。私に非はない。
やはりここは飲み会の話だろう。
「……そういえば、レティは飲み会の時、エリンチームの人達といたよね?どうだった?」
「あぁ……メジーネさんとナシメさん……悪い人ではなかったです……でも……テンション高くて……」
「あはは、それは確かに大変だったろうね。」
こういう相手の時、恐らくだが質問責めは良くない。
こういうテンションの時は、人の話を聞いていた方が安心出来たりするものだ。
「僕は、フォルネチームの初対面の人達と話してたよ。見た目は怖かったけど、いい人たちだった。」
「そ、そうですか……」
ここまでコミュニケーションに困るのには、もう1つ理由がある。
それは、目線だ。
レティの目は、片方は髪の毛で完全にかくれているし、もう片方も髪がかかって目線から感情を読み取りづらい。
何故前髪だけ長いのだろうか。
「……」
「……」
冷たい沈黙が流れる。
いっその事、ずっと静かな方がレティにとって良いのではないだろうか。
「……ごめんなさい」
レティが話し出した。
「わ、私……あんまり話すの得意じゃなくて……相手を困らせてしまって……」
「……全然大丈夫ですよ。気にしないで。」
本音を言うと、少し気にすべきだと思う。
「……ウィルフさん……楽器、弾くんですよね?何の楽器を弾くんですか?」
「大抵のものは弾けますよ。」
「……例えば?」
私は、ポケットに常にハーモニカを忍ばせている。
楽器を弾いて、こまめにストレス発散するためだ。
「このハーモニカ、常に持ってるんだ。」
「……弾けるんですか?」
「もちろん。ここだと近隣住民の迷惑になるから、少し移動しようか?」
「じゃあ、いきます。」
私は、前の世界の曲の中から、ハーモニカで思いついた中で1番有名な曲を弾いてみせた。
演奏が終わる。
レティが控えめな拍手をする。
「す、凄いです……そんな綺麗な音がなるなんて。」
「あはは、ありがとう。」
レティはさっきとは打って変わって明るい表情だ。
「あ、あの、他には何が弾けるんですか?」
「うーん、ギター、ドラム、フルートにシンセサイザー……はこっちには無いか。」
「あ、あの……じゃあ、ピアノは弾けますか?」
ピアノ。
ちゃんとしたものを弾いたことは数えるほどの回数しかないが、シンセサイザー、キーボードで練習してあるから、全く出来ない事はないだろう。
「多分……いける。」
「本当ですか!あっ……急に大声出しちゃってすみません……」
凄い興奮しようだ。
「実は私……ピアノやってて……」
「へぇ、それは凄い。」
「音楽用語とかわかる人いなくて……」
ピアノに関しては、本格的な訓練をした事がない。
コミュニケーション能力さえ改善されれば、是非ご教授願いたいものだ。
「今度二人でそれについても話そうか。」
「はい……是非。」
「そろそろ戻らないと、アルカンさんに怒られるかな」
「今日も訓練お疲れ様〜」
「シアも。疲れてるだろ?」
シアは、夕飯と一緒に出てきた甘い豆乳のような飲み物で一人で乾杯しながらそう言った。
「……なぁ、一個聞いていい?」
「何さ」
「……訓練所にいい子いないの?」
今日はなんだかそういう話が多い気がする。
気のせいならいいのだが。
「うーん、美人は多いけど、付き合いたい相手とかはいないな。」
「えー……てかイマイチお前のタイプの人がわかんないんだけど。」
「タイプ……ね」
「僕に勝てる人かな」




