三十歳、人生初飲み会
「全く、あんな勝ち方したの、後にも先にも君たちだけだぞ。」
ドストフは私たちに向かってそういった。
私たちはテスト終了後、応急処置を受け全快して、今はドストフの部屋に呼ばれていた。
私はまだ全身の包帯は取れていないが、元気なのである。
「まぁ君たちが勝ったのは大変喜ばしい。半分が初めてのテストで、最上級生のいないチーム。なにより、1人分の牛肉代が浮く。」
ドストフは冗談混じりにそういう。
「ウィルフはまだ包帯が取れてないんです。説教は辞めて下さいね?」
私の隣に立つネビロは、冗談を返すようにそういった。
「なんだ、部下からはもう全回復したと聞いているが?仲間の負傷を説教逃れに使っちゃあいけないよネビロ君。今回の君たちの作戦は危険すぎた。あんな風にもやしおって、森の整備にいくらかかると思っているのだ。」
「でも、ドストフさんの思う通りやりましたよ?」
「何?」
私の言葉に、ドストフは疑問を放つ。
「馬鹿は雇いたくない。だから頭を使え。あのルールは、そういう事でしょう?」
ドストフは一瞬、驚いたような顔をした。
その直後気味の悪い、にちゃりとした笑みを浮かべた。
「なんだ、気づいていたのか。そう、政府が決めたルールを表立って改変することはできんからね。戦術の幅を広げてやれば、運が良ければウィルフリード君のようにこちらの意図を汲み取れる生徒がいるかもしれないと思ってね。もっとも、今までは全員そんな事お構い無しだったが。」
「でしょうね。」
ドストフは椅子に腰かけたまま、椅子の足をコロコロならしながらこちらに近づいてくる、
「なにはともあれ、だ。よくやった諸君。さすが、2年目にしてチームリーダーを任されたネビロ君のチームなだけはあるな。」
「そりゃどうも。」
ネビロは、ある種冷たい視線を放ちながらそう言った。
「まぁ明日からは休日なのだ。ゆっくり休暇を取りたまえ。」
部屋からでると、エリンチーム全員と、ラームとフォルネがいた。
「……なんで勢揃いしてんの?」
アガリアは少し嫌そうな顔をした。
次に口を開いたのはラームだった。
「ウィルフリード……聞いたぜ。お前俺と戦ってる最初の方、成長魔法を2人分使いながら戦ってたんだってな。通りで魔法の出力が低かったワケだ。」
「……舐めプしてた訳じゃないよ?」
そんな話を横目に、エリンはアガリアに話しかけた。
「ねぇアガリア、さっきアンタらのとこのちっちゃい女の子から提案受けたんだけどさ……」
「何?」
エリンはアガリアに耳打ちする。
「ふーん、なるほどね。ウィルフ、ちょっといい?」
「なんです?」
「今から秘密の会議あるからさ、ちょっとはけててもらっていい?」
「……?なんか僕ハブられてます?」
「そういうんじゃない!断じて!」
「冗談です。いいですよ。」
私はその場を外し、トイレにでも行ってくる。
「ウィルフ、もういいよ。」
ネビロがトイレまで呼びに来た。
「何の話してたんですか?」
「ウィルフー」
あっちからアガリアの呼ぶ声がする。
「明日休みじゃん?いつものクエスト行くっしょ?」
「ええ、まぁ誘われればですけど。」
「じゃあ決まり!いつも通り10時に集合ね!」
アガリアのテンションが謎に高い。
何かお楽しみ会でもやってくれるのだろうか。
「おはよー!ウィルフ!」
「待たせやがってよ」
「待たせてないよ。まだ10分前だもん。」
「ラームは律儀に1時間前に一番に来てたもんねー。」
「……フォルネ、お前もラームと一緒のタイミングに来てたって事だろ……?」
「ええ?だって私ラームと同室だもん。」
「……あの」
「なんで全員いるんですか?」
目の前にはエリン、ラームを初めとする全メンバーが揃っていた。
「所々僕と面識ない人もいるし!」
「実は〜、エリンチームとフォルネチーム、全員集めちゃいました〜!」
すごく「なんで?」と思った。
エリン、ラーム、まぁアジロまではギリ分かる。
こんな大勢でクエスト受けたら、山の薬草を撮り尽くしてしまいそうだ。
「よーし!全員揃ったし!いっちょクエスト行きますか!」
その後は大変だった。
フォルネは行方不明になるし、アジロはその辺に生えてた毒キノコ食べ出すし、途中で現れた魔物の胞子で集団幻覚になるし。
ただ、その日は鬼のように稼げた。
「金貨20枚……日本円に直したら40万以上か……」
「ニホンエン?なにそれ?」
今日集まっているのが12人だから、一人2枚には少し足りないくらいだ。
それでも、1人あたり日当3万円と考えれば十分すぎる。
「あ、俺は金いいよ……なんもやれてないし……。」
「んー、そんな事言うなよぉアジロぉ。」
エリンが庇うが、いや、実際アジロは何もしていない。
やった事と言えば、せいぜい毒キノコを丸呑みする1発芸くらいのものだ。
アジロのスキルは『毒解析』。まぁこういう場に置いて使い道はない。
「てかてか、早く行こ!結構歩くでしょ!」
アガリアが急かす。
「あっ、じゃあ僕はこれで。また明後日。」
「まてまてウィルフくん。」
ネビロが引き止める。
「まだ何かありますか?」
「ウィルフくーん……今夜は寝かせないぞぉ?」
……まじで何?
「何?ゲイ?」
「断じて違うわい。まぁ着いて来なさい。」
20分くらい歩いたか、明るい所に出た。
「皆ー、ついたよー。」
「この店か。」
着いたのは、なんだか異世界にありがちな酒場とも違う、居酒屋のような店だった。
「ここは?」
「酒屋「からすみ」。床みたいな、東の方の文化から持ってきた「座敷」ってのに座って呑める酒屋なの。」
酒屋……なるほど展開が読めた。
「今から……朝までここで飲み明かします!!」
「いえーい!!」
一同、大騒ぎ。
「おお!こういうの初めてです……!」
「レティちゃん大丈夫?こういうの苦手じゃない?」
「あ……だ、大丈夫です……」
飲み会……前の世界で、経験出来なかった事の一つだ。
しかも座敷。まんま日本だ。
「じゃ、店の外で騒ぐのもあれなんで、早速入店〜」
「何名様ですか?」
「12人、団体です〜」
「12名様御案内!こちらへどうぞ〜」
案内された席へ行く。
まず最初に思ったのは、
「まじで座敷じゃん!」
「そう!この酒屋、本場の東の店から派生してできたお店なんだよね〜」
「あ、俺奥座ります……」
アジロが一番奥に座って、その隣りにエリンがくっついて座った。
「オセさん幹事ね」
「毎回なんだからいちいち言わないでよ……」
オセさん……知らない人だ。
メガネで黒髪、どことなくきっちりした服で、一番マトモそうだ。
「ネビロ、私の隣きて」
「いやです」
「いいじゃーん、イケメン二人に囲まれたいの」
「ったく……しょうがない、ウィルフ行ってあげて」
「いやです。生贄じゃんか。」
「ウィルフくん好みじゃなーい」
「……」
「いや顔はアジロと同系統でしょ」
「確かに、アジロから毒っけ抜いたらそんな感じかも。」
オセが立ちっぱなしの私達を座るよう促す。
「ほら、席なら後で変えられるから。皆さん早く座って。」
結局ネビロはエリンとアガリアに挟まれて座った。
私はアガリアとオセに挟まれ、向かいにはラームが座っている。
「そっか、この場でお酒飲めるの私とオセさんだけか。」
「ほら、エリンメニュー回して。早く皆飲み物頼んじゃいましょう。」
私はレモンの炭酸飲料を頼んだ。
そう言えば、ネビロチームでレティだけどこかへ行ってしまった。
周りを見渡すと、レティは恐らくエリンチームの、知らない人達に絡まれていた。
「レティちゃん何頼む?」
「え……えっとぉ……じゃあリンゴソーダで……。」
「はーい!アガリア、店員さん呼んでぇー」
「えぇ、幹事なんだからオセさんにやってもらって。」
レティがいつにも増して生きづらそうな顔をしている。
店員さんが来た。いかにも慣れっこという表情だ。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「ビール2つとリンゴソーダ3つ、レモンソーダ2つにジンジャーエール5つで。あとおつまみは……」
「チキン2つと串焼き3皿、エスカルゴも3皿もらおっかな」
「かしこまりましたー。」
エスカルゴとかあるんだ……と思った。
「皆さんドリンク来ましたねー。」
「じゃあ……テストの無事な終了を祝って!」
「乾杯!!」




