地獄の沙汰も策次第
時は強化月間開始から1ヶ月と数日の地点まで遡る───
「今から僕の作戦を説明します。」
そこでは、チームメンバー全員で、会議をしていた。
「まず、エリンとアジロは元々の通りネビロに請け負ってもらう。そして、ラームやその他の勢力の対応は僕がする。」
「そこまでは本来の予定通りだな。それで?」
「1つ目の作戦は、アジロ対策。エリンは恐らく、聞いている限りはすぐにネビロの所に襲いにくるはず。ならアジロを早い段階で止めるのは最優先。」
「ほう。」
私は喋る合間に深呼吸をし、頭の中を整理する。
自分の中でも急に思いついたものだから、あまり落ち着けていない。
「ここはあくまで植物の研究所。僕も調べている物の文献は普段から目にしてる。その中にこんな物を見つけた。〈根で毒を吸収し、解毒する毒消し草〉。」
「……それを使おうにも、体表面に草が生えてたら警戒されるぞ?」
ネビロは怪訝そうな顔をする。
「うん。だから、生やすのは体内だ。」
ネビロの怪訝そうな顔は加速する。
「ネビロには、その草の種を事前に飲んでおいてもらう。そして、その体内の種に、成長魔法を使う。」
「!なるほど、それなら少なくとも内蔵に侵入した毒を解毒できて、表面の組織が壊死するだけで致命的なダメージにならない!」
ネビロの表情が明るくなる。
が、まだ疑問が残っている様子だ。
「だが、それ内蔵に植物が根を張るって、相当なキツさじゃないか?」
「……そこは頑張って。」
「2つ目はラーム対策と得点対策。まず、得点対策の方から話す。」
「頼む。」
「このテストの勝利条件は「テスト終了時刻にチームの背中の籠に入っていた規定の植物の総量が他チームより多い事」だ。つまり、いくら量が少なくても他チームより多ければいい。」
1度深呼吸する。
ここからは、かなり自分でも尖った作戦だと思う。
「僕の作戦では、アガリアさんは植物集めに徹してもらう。そして、他のメンバーは戦闘に徹し、植物を持っているのはアガリアさんだけだと見せかける。」
「見せかける?」
「はい。今回の収集する植物が何になるか分かりませんが、服の下に仕込めるサイズだった場合、服の下で成長魔法を使い、最低限の量全員が服の下に隠し持っている状態にしたい。」
「足に植物を植えるってこと?」
「痛みを伴いますが、そこまででは無いはず。」
ここで、当然の疑問が飛んでくる。
「それはいいが、量はどうする?アガリアがやられた時のバックアップのためって事だろ?」
ここからは成功率の事をなにも考えないで考案した策だ。
正直、やりたい策では無い。
「その問題は作戦の最終段階で解決する。ネビロ、ネビロは最終段階に入ったら、できるだけ他勢力のメンバーの無事を確認して欲しい。」
「無事?」
「気絶させられてたら、体を回収して。起きてたら場所を教えて欲しい。」
「なんで?」
「それは、全部燃やすから。」
「……全部燃やす?」
テスト開始から52分───
「ネビロ!作戦通りに!」
「……ウィルフ君、だよね?悪いんだけど今日はネビロの日と決めてあるんだ。」
私は魔法の構えをとり、エリンに手を向ける。
「次は当てます。エリン先輩。」
「当てられると本気で思ってるのかな?不意打ちでさえ躱されたばっかりなのに。」
「それは先輩が一番分かってるんじゃないですか?」
できるだけエリンの気を逸らすように話す。
「試してみなよ」
「言われずとも……ね、火炎魔法〈網帯炎〉!!」
蜘蛛の巣状の炎が上から降ってきて、辺り一面を火の海にする。
エリンは、炎の小さい隙間を掻い潜り、躱す。
「当たってないよ……って、ネビロが居ない……」
「レティを甘く見ましたね、エリン先輩。隠密魔法を事前に練習しておいたんですよ。」
ネビロ達が逃げた方向を庇うように立つ。
「でも、別にいいでしょう?エリン先輩は新人一人倒して予定通りネビロのケツを追っかければいい。」
「……君思ったより生意気だね。てっきり真面目ちゃんかと思ってた。」
「生憎、これは性分としか言いようがないですけど、やるからには勝ちに行くんで。」
「……君、楽器やるんだってね。音楽の人ってさ、気難しい人多くって、どうにも私苦手なんだよねぇ。」
こういう場で「勝ちたい」が先行するのは前の世界でもそうだった。
だからこそ私は今、一貫性をもって死力を尽くせる。
「そんな君にいいことを教えてあげよう。魔法というのは、昔は発動に長い詠唱を要したんだ。」
「……?」
「そして長い年月をかけ今の「名前を叫んで発動する」形になった。これを専門用語で無詠唱魔術という。」
「それがどうかしました?」
「でもこれは名前を叫ぶプロセスがあるから、完全な無詠唱ではない。なら、なぜ詠唱が必要なのか。それはイメージの為だ。魔法を発動するには、発動後のイメージが必要なんだ。」
エリンはよく分からない話を続ける。
「でも、詠唱には欠点がある。対人戦において、早い段階で繰り出す技がバレる事だ。私みたいに対人戦が大好きなヤツにとっては、ホントは名前を叫ぶプロセスも省きたい。ならどうするか、必要なのはイメージ。私はこの修行に2年かけた。」
突如、風が起こり薬草がざわめき出す。
エリンの周りに薄く、鋭い葉っぱが召喚される。
「これが、真の無詠唱魔術だ。」
火炎魔法を構える。
「さぁ、始めようか」
「〈火炎球〉!!」
「ぬるいぬるい。」
エリンに向けて放った火球は、呆気なく軌道を逸らされ、後ろの森に着弾する。
「〈火炎球〉!!〈火炎球〉!!」
「まさか、それしか出来ないとは言うまいね?」
全ての軌道が逸れ、エリンの背後の森はまさに文字通り火の海になる。
「さ、もっともっと楽しもう。色んな技を見せてくれ。」
「……まぁ、よくやった方だと思うよ。」
エリンとの戦闘が始まって10分は経っただろうか、魔力量はまだギリ余裕があるが、息が切れてきた。
「次は私の番だ……」
「待ちな、僕の最後の攻撃が終わってないぜ。」
「遂に敬語まで忘れたか。」
「僕がエリン先輩をどこに誘導したか分かってますか?」
「誘導?私はさっきから一歩も動いてないよ。」
そう、一歩も。
それが良い。
「なら言おうか?動いてみろよ」
「何っ?!足になんか絡まって……」
成長魔法を使っておいた薬草の束が、エリンの足に絡みつく。
その隙を見逃さず、エリンに飛びつく、
「おまっ、何するんだ!」
エリンの召喚した刃物のような葉っぱが腹に深く突き刺さる。
「痛ってぇ!けど!引くわけねぇだろ!」
ゴン!
強烈な頭突きを食らわせる。
エリンは鼻血がダラダラと流れ出る。
「テメェ!やりや……」
ゴン!ゴン!ゴン!
更に頭突きを続ける。
バタッとエリンがぶっ倒れる。気絶はしていない。
「……クソッ!!」
「そうだ、これ言っとかないと。」
私は思い出した事を告げる。
「アジロさん。森に火が周り切るまえに回収してくださいね。死んじゃいますから。」
私は、まさに地獄となったこの森の北側へと歩き始める。
(エリン対策の話を会議のシーンに差し込めなかったので補完です。本編を読んでいて違和感のあった人だけ呼んでください。)
ネ「てか、いちばん大きな問題はエリンとアジロを同時に相手しなきゃ行けないことだぞ?」
ウィ「……僕の読みだと、エリンかアジロ、どっちかはこっちに出てこない可能性が高い。」
ネ「何故?」
ウィ「まず、話題に出てない他の勢力は前回のテストから学んで、戦闘は極力避けるはず。でも、エリンチームは僕達と積極的に戦いに来る。」
ネ「そうだね。」
ウィ「僕達は戦うのに、他勢力にまっとうに植物集めをされたら、テストとしての勝ち目は無い。だから、誰か一人、他チームを制圧する役を出してくるはずでは?」
ネ「まぁ……そう言われたらそうかも。」
ウィ「でも、この役は恐らくアジロだ。エリンはネビロと戦いたがっていたし。」
ア「で、結局どうすんのよ?」
ウィ「端的に言えば、エリンが一人で出てきたら、勝てたら勝って、負けかけたらヒットアンドアウェイに徹して下さい。もし、アジロも一緒に出てきたら、逃げることも厭わないで。あと、前者の場合、アジロの処理は僕がする。」
ネ「……分かった。それでいこう。」
ア「アイツにそこまで考える頭があるかね……?」
ウィ「……ないんですか?ほか2人の概要を知りませんけど。」
ア「あー、あるわ。しいちゃんいるもん。頭いいやついる。」
ウィ「なら良かった。なら、これを前提に考えて行きましょう。」




