対ラーム作戦
時は少し巻き戻りテスト開始から約10分、ネビロと他チームメンバーが別れたタイミング
「アガリアさんは薬草集めに集中してください。」
アガリアはそう言われてすぐにここから離れ、自身の仕事に集中した。
左後ろから現れたラームは、余裕綽々という態度で話す。
「ウィルフリードォ……お前一人で俺を食い止められると思ってんのか?」
ラームは真正面からじわじわとこっちに近づいて来る。
改めて見てみると、ラームはかなりガタイがいいことに気がつく。
「聞いたよラーム先輩、戦士志望だったんだって?」
「そう言うお前は魔法が得意らしいな。あの時草の魔物にやったやつ、もう一回やってみろよ。」
魔法の構えをとる。
だが、相手が人間である以上、魔物に対してやるような魔法はできない。
いかんせん魔法の制御は得意ではないが。
「アンタにはこれくらいで十分かな〈火炎球〉!」
バスケットボール程度の火球が3つほど召喚される。
「……ぬりぃな、お前舐めんじゃねぇぞ?」
ラームも魔法の構えをとった。
〈火炎球〉!
ラームは、私のより一回り大きい火球を複数召喚する。
「そっか戦士志望だけど魔法も使えるんだ。立派だね。」
「おちょくってんのか?いいか、お前のぬるい魔法なんざ俺ですら軽く超えられるつってんだよ!」
互いの火球が発射される。
ドンッ!
空中でぶつかりあい、炎は打ち消しあった。
「はははっ、おいおい魔法は本職だろ?こんなもんかよ?」
ラームは更に魔法を発動する。
「今度は俺が攻める番だぜ。〈火炎球〉!」
無数に火球が召喚された。数は20を優にを超える。
「レティ、僕の後ろに。」
全く鎧を着てきてよかった。
レティは基礎の魔法をいくつか使える。
「レティできるだけあの火球撃ち落とせるか?」
「えぇっ 、えっと……やれるだけ……やってみますけど……」
〈火炎球〉!
もう一度魔法を準備する。
火球が火山弾のように地面に降り注ぐ。
ドバッ!と火球同士がぶつかり合い、大きな爆発を起こす。
ここが薬草の群生地である事も相まって、少し幻想的な光景だった。
「レティ!」
「はっ、はい……!〈水流球〉!」
私達の周囲に着弾した火球を消火する。
「薬草燃えんだろ!死なば諸共かよ!」
私はラームに向かって叫んだ。
「……本当にそうかな?そんなに必死に消火する理由は。」
「どういう事だ?」
ラームは更にじわじわ近寄りながら話す。
「お前、さっきから足元、随分庇ってるよな?もっと言えば、後ろの女も同じような仕草がある。不自然だったんだよな、その無駄にゴツい鎧も。」
両者に緊張が走る。
まず私が危惧したのは、作戦がバレる可能性だった。
「……レティ、これ以上はまずい。ラーム対策の作戦を始める。」
ラームの後ろから黒髪の、ピアスだらけのいかにも柄の悪そうな女性がひょっこり顔を出した。
「おいラーム、手伝ってやろうか?」
「問題ねぇよ。コイツは俺一人でやる。」
恐らくこの女がラームの在籍するチームのリーダーであるフォルネだろう。
一目で、似たもの同士が集まったチームなんだろうと分かる。
フォルネと思わしき人物はこう続ける。
「さっき別働隊だった2人がぶっ倒れてるのを見た。多分エリンの仕業だろう。」
「だったらお前は早くエリンを探しやがれ。」
口が悪い。
「ならそっちも早く終わらせてアタシに協力してよね。もう開始から30分も経っちゃったよ。」
その言葉にハッとする。
このテストは2時間という、かなり長い時間で行われる。
正直、この作戦ではとりあえず1時間はラームとの戦闘に割ける。
しかし、エリンがいつ湧いて出るか分からない以上、ラームとの戦闘は早めに切り上げたい。
レティと一緒に森の方に歩き出す。
ラームを森の中へ誘い込むのが狙いだ。
「ラーム!こっち来いよ!ビビってんのか?」
「……クソ野郎おちょくりやがって」
「あはは!ほらラームちゃん!クソ野郎からのお誘いだよ!行ってあげなきゃ」
「……敵しかいねぇ」
「おいもういいだろウィルフリード、時間稼ぎか?」
私はラームの真正面に立ち、こう告げる。
「あぁ、もういいよ。」
「お?降参か?てかさっきの陰気そうな女がいねぇな?」
私は手を広げ、挑発するようにこう言う。
「降参してやるからよ!仕留めてみろよ、この親不孝の不良野郎!」
「……あ゛?」
ラームは今日一番ブチ切れた表情だった。
……ここまで怒るとは流石に予想してなかった。
ラームは落ちていた太い木の枝を拾ってこう言った。
「……今日言われっぱなしだな俺ァ……だが今回のはマジで」
「ぶっ殺す!!」
バキッ!と枝を二つに折る。
そして、槍のように鋭くなった先端を私に向け投げてきた。
「うぉっ!」
間一髪、枝は私の頬を掠めた。
ラームは畳み掛けるように魔法を発動する。
「風魔法!〈風剣戟〉ィ!」
まさに剃刀の様な風の刃が私の顔面を切り裂く。
だが、そんな事で怯む訳には行かない。
「レティ!!今だ!!」
ラームの背後からレティが飛び出す。
「はっ、はい!」
ラームの背中、籠の上にレティが何かを押し付ける。
「なんだァ!クソ女ァ!!」
ラームはレティの服を掴み、投げ飛ばす。
「う、うわぁ!ウィ、ウィルフさん……お願いします……!」
「てめぇ何背中にくっつけやがった!!取れねぇ!!」
私は魔法の構えをとった。
「ラーム先輩、アンタの背中にくっついてんのは苗木さ。何が狙いかはクレバーなアンタにはもう分かっただろ?」
「ま、まさか!」
出力最大───〈成長魔法〉!!
ラームの体を覆い尽くすように、木は根を張り、天を穿つように幹はミシミシと音を立てながら伸びていく。
樹木となった木の重さにたえかねたラームはその場に勢いよくぶっ倒れる。
「てめぇ!どんな魔力出力してんだ!」
「さっきまでの魔法の威力を鵜呑みにしてくれるとは最初から思ってなかったけど……まぁレティが居なかったら勝率は五分五分だったかな。」
レティがいなければ、この場で最も成長速度の早い木の苗木を選ぶことが出来なかった。
そして、ラームの背中に苗木を植える事も。
「まぁ、そこでちょっと寝ててよ。ラーム先輩。」
「……お前このテスト終わったらマジで殺すからな」
テスト開始から50分───
「ネビロとウィルフ達は大丈夫かな……」
アガリアは、戦闘を避け薬草集めに没頭していた。
物音がし、森の中から異様な気配を感じ取る。
「やぁアガリアちゃん。ネビロ達どこか知ってる?」
「……エリン」
目の前に現れたエリンはゆっくりとこちらに近づいて来る。
「アンタは最初からネビロ狙いだと思ってたけど、何してたのさ?」
「あくまで私達の目的は勝つことだから。いくら戦闘力で勝ってようと、他のチームを野放しにして薬草集めに集中されたら元も子も無いからさ。」
アガリアは、臨戦態勢に入る。
何としても背中の籠を死守しなければならない。
「まぁ、ネビロと戦いたいのはホント。だからさ、」
「ちょっと寝ててね。」
「精霊よ!彼女を守れ!!」
植物のツタが、束となりエリンの前に立ちはだかる。
「来たな!!ネビロ!!」
「精霊よ!私の命に従え!」
地面に生えていた薬草が集まり、ひとつのムチのようになる。
「あれだけ挑発的な態度をとったんだ。責任、とってくれよ!」
ネビロは、アガリアを庇うように立つ。
「……残念だけど今回は、責任転嫁させてもらうよ。」
風刃魔法〈風一太刀〉!!
エリンは飛んでくる風の刃から、くるりと身を翻す。
「なるほど。」
「ネビロ!!作戦通りにいくぞ!!」
「君が相手をしてくれるんだね?」
作戦は最終段階に入った。




