第199話 俺は一人でいい
ガラルドの町に戻った後は、その足でギルドに向かった。
その間、俺とマリスが言葉を交わすことは一度もなかった。
「依頼達成か――正直、今回の依頼は割に合ってなかったな」
「事情は知ってるようだな」
「かなりの大事になったからな。今回の件で住人にも冒険者にも大勢の犠牲者が出た。近々トルネイルには王国軍も乗り込むだろうさ」
王国軍――俺を召喚した連中の軍隊か。
しかし、あれだけ派手にやった割には軍もちゃんと機能してるんだな。
「軍まで動かすんだな」
「うん? あぁ、そうだな。確かに王や王女の事故死でごたついていたようだが、今は立て直して上手くやってるようだ」
事故死――そういうことになっていたんだな。
流石に殺されたことには出来なかったんだろう。
「そんなわけで、こっちも仕事でな。この依頼に関わった全員に聞いていることだが、何があったか詳しく教えてもらえるか?」
「わかった」
「話すよ――全部」
ここに来てようやくマリスが口を開いた。
そして布に包んでいた例の腕をカウンターの上に乗せる。
マスターが一瞬だけ怪訝な顔を見せたが、すぐに表情を戻し、マリスから話を聞き始めた。
その後で俺も要点だけを伝えた。
「魔獣の群れに、オークション会場でのマタンゴ化。そしてネイラの不可解な行動か……」
そこまで言って、マスターの視線が俺に向いた。
「この腕を切ったのは本当か?」
「あぁ。俺を殺すつもりで来ていたからな。こっちも殺すつもりでやった」
「ったく、あっさり言いやがるな」
「問題あったか?」
「いや、ないさ。相手が殺意を持っていたのは、マリスの話からもわかる」
「それでも、もう少し話を聞いてもよかったと思う」
「――それでリョウガが死んでいたとしても、同じことが言えるのか、お前は?」
「――ッ」
マリスが目を見開き、黙り込んだ。
正直、それで死んだとしても俺は自己責任だと思っているが、マリスには刺さるものがあったようだ。
「事情を確認する必要はある。だがな、それは生き残ってからの話だ」
マスターが諭すように続けた。
「冒険者やってりゃ、何が起きるかわからねぇ。殺意を向けてくる相手にまで悠長に事情を聞いてたら、それで命を落とすことだってある。だからって何でもかんでも殺せって話じゃねぇが、自分の命を守るために戦った奴を責めるつもりもねぇよ」
「……」
「まぁいい。一応、その場にいた他の連中にも話を聞くことにはなると思うが、それは各ギルドがやることだ。どちらにしても、今聞いた事情だけならリョウガが咎められることはねぇよ」
「そうか」
冒険者の規則からしてもそうだろうとは思っていたがな。
もっとも、それで罪に問われるとなったら町を出て拠点を変えるだけだが。
「とにかく話はわかった。報酬は受付嬢に用意させよう。他に何かあるか?」
マスターが話を締めつつ、俺たちに問いかけてきた。
丁度いいかもな。
「マスター。俺は今後一人でやっていく」
俺の言葉にマリスの肩がビクッと震えた。
「――そうか。まぁ、もうマリスも一人で大丈夫だろうしな。それもいいだろう」
「嫌だ!」
声を上げたのはマリスだった。
睨むような目で俺を見てくる。
「私は納得してない!」
「納得するも何もないだろうが。リョウガがお前とのパーティーを解消したいと言ってんだ」
声を上げたのはマスターだった。
意外だな。
最初は俺にマリスの面倒を押し付けてきたというのに。
「マスター! リョウガは危険なんだ! 一人だと何をするか――私が見てないと」
「……それを聞いて、ますます確信した。お前らは一旦離れた方がいい」
「どうして!」
「お前がリョウガに依存してるからだ」
マスターが冷たく言い放った。
「私が……依存?」
「そうだ。正直言って、今のお前らはまともなパーティーとは言えねぇ。パーティーってのは本来、互いに協力して支え合うために組むもんだ。だがお前らはどうだ?」
マリスは何も答えない。
「リョウガはお前がいなくても十分やっていける。それはお前だってわかってるだろう?」
「――それは……でも、リョウガは一人じゃ……」
「それが余計なお節介だって言ってんだ。お互いガキじゃねぇんだ。そんな理由でついてこられても、リョウガだって迷惑だろう」
「そうだな」
それについてはマスターの言うとおりだ。
正直俺とマリスは成り行きでパーティーを組んでいたに過ぎない。
だが、今のマリスなら一人でも冒険者としてやっていけるだろう。
なら、俺が一緒にいる理由もない。
「マリス。俺とお前は価値観からして違いすぎる。お前がどう思おうが、俺の考えは変わらない」
「そういうことだ。今のままじゃお前らが一緒にいてもいいことはないからな」
そこまでマスターが告げると、マリスは俯き、拳を強く握り締めた。
しばらく沈黙が続いた後――
「……わかった」
小さな声でそう答えた。
これでマリスと組む理由もなくなった。
俺はまた一人に戻る。
それだけの話だ――。




