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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第193話 妹

 パトリエが開いたスクロールから文字が消えていく。

 スクロールは使い捨ての魔導具だ。


 一度発動すれば二度と同じ効果を発揮することはない。


 役目を終えたスクロールをポーチへしまう。

 一見すると小型のポーチだが、内部には空間拡張の魔法が施されており、見た目以上の容量を誇っていた。


「やるじゃねぇか」


 立ち込める煙の中から野獣のような声が響いた。


 パトリエは剣を構えたまま様子を見る。

 特に驚いた様子はない。


 そもそも、あれで終わる相手だとは思っていなかった。


「勝つためなら小細工の一つや二つ使うのもためらわねぇか」


 煙の奥から現れたラオズが笑う。


「嫌いじゃねぇぜ。だがな――真の強者はそれごと叩き潰す」


 姿を現したラオズは、先ほどまでとはまるで別物だった。

 全身を赤黒い皮膚が覆い、筋肉はさらに膨張している。


 顔は巨大な狒々を思わせ、口元から覗く牙の隙間から熱気が漏れていた。


 周囲の空気が揺らぐ。その身体そのものが灼熱を帯びているのだ。


「驚いたか?」


 ラオズが獰猛な笑みを浮かべる。


「俺が変化できる魔獣は一匹じゃねぇ」


 その口が大きく開いた。


「こいつは炎狒(えんび)――目にするもの全てを焼き尽くす炎の魔獣だ!」


 直後――ラオズの口から業火が吐き出された。


 炎の奔流。

 それは炎というより災害だった。


 石畳を呑み込みながら突き進み、建物の壁を溶かし、街路そのものを焼き潰していく。


 炎が通り過ぎた後の地面は赤熱し、溶岩のように煮えたぎっていた。


 パトリエは即座に跳躍。

 炎を回避しながら上空から眼下を見下ろす。


 焼け爛れた地面。

 崩れ落ちる建物。


 そして立ち上る熱波。

 まともに受ければ鎧ごと焼き尽くされるだろう。


 だが――パトリエは着地と同時に方向を変えた。


 右、左、さらに前へ。

 常人には残像にしか見えない速度で駆け抜ける。


 狙いを絞らせない。

 それがパトリエの答えだった。


 走りながら数本のナイフを投擲する。


「ウザってぇ」


 ラオズは面倒くさそうに腕を振るった。

 ナイフが弾かれる。

 数本は砕かれた。

 だが一本だけが指先を浅く切り裂く。


 しかしラオズは気にも留めない。

 その程度の傷など存在しないも同然だった。


「口から吐くだけだと思ったか?」


 ラオズの掌に巨大な火球が生まれる。

 それを無造作に投げつけた。


 パトリエは剣の腹で火球を弾き飛ばす。

 その勢いを利用して身体を回転。


 雷を纏った剣をラオズへ振り下ろした。

 金属音が鳴り響く。


 だが剣は止められていた。

 ラオズの腕によって。


 その姿は再び変化していた。 

 全身を黒鉄色の鱗が覆っている。


 顔は巨大な蜥蜴。そして身体はまるで鋼鉄の城壁だった。


「アダマンリザードだ」


 ラオズが牙を剥く。


「竜種ですら牙を通せねぇ絶対防御の魔獣だよ」


 雷を纏った剣ですら鱗を貫けない。

 電撃もほとんど効果がないらしい。


 パトリエは静かに感心した。

 変化の幅が広い。


 百獣王の名は伊達ではなかった。


「ナイフを投げた時点で、その姿になっておけばよかったな」

「なに――?」


 ラオズの眉が動く。

 直後。

 膝が崩れた。


「ぐっ……!?」


 片膝を突く。

 初めて見せる明確な隙だった。

 そして表情に浮かぶ動揺。


「てめぇ……!」


 ラオズが己の手を見る。

 先ほど浅く切れた指先。


「さっきのナイフに毒を!」

「竜ですら弱らせる特別製だ」


 パトリエは淡々と答える。


「意識があるだけ自慢していい」


 雷光が奔る。

 剣に纏う雷が激しさを増した。

 雷鳴が轟く。


「無駄だ!」


 ラオズが吠える。


「てめぇの攻撃じゃこの鱗は貫けねぇ!」

「とっておきというものは最後まで見せないものだ」


 パトリエが構えを取る。

 突きの構え。


 剣を中心に雷が螺旋を描く。

 圧縮された魔力が唸りを上げる。


 それは今までとは明らかに違う。

 勝負を決める一撃だった。


「これで決める」


 パトリエが踏み込む。


「雷貫――」

「お兄ちゃん助けて!」


 聞き慣れた声だった。

 忘れるはずがない。

 幼い頃から聞いてきた妹の声。


 パトリエは反射的に振り向いた。

 そこには喉元へ刃を突きつけられたネイラの姿。


「ネイラ――!?」


 それはほんの一瞬。

 達人同士の戦いでは致命的な時間だった。


「――ッ!?」


 ラオズの尾が閃く。

 アダマンリザード最大の武器。


 竜種の鱗すら貫く鋭尾。

 それがパトリエの胴体を貫いた。


 鮮血が舞う。

 パトリエの身体が吹き飛ばされた。


「ライラか」


 ラオズが舌打ちする。


「余計な事しやがって」

「助けてあげたんだから感謝しなさい」


 倒れたパトリエの後方から女の声が響く。

 するとネイラの姿が溶けていき別人へと変化した。


 幻術。あるいは変身能力。

 どちらにせよ本物ではなかった。


 ラオズは忌々しそうに鼻を鳴らす。

 そして倒れたパトリエへ歩み寄った。


 巨大な足が頭を踏みつける。

 ギリッと音が鳴る。


 それでもパトリエは抗うように指先へ力を込めた。脳裏に妹の顔を思い浮かべながら――。

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