第192話 百獣王
「雷王を知ってるか?」
「――雷を操るA級魔獣だったな。討伐難度も高い危険種だ」
「ガハハ。流石にそれぐらいの知識はあるか」
ラオズが笑った直後、その全身から青白い電撃が迸った。
筋肉が膨張する。
獅子の鬣を思わせる髪が逆立ち、瞳が黄金色へと変化する。
バチバチと激しい音を立てながら雷がその肉体を駆け巡った。
「俺のスキルは百獣王。獣を従えるスキルだ」
ラオズが獰猛な笑みを浮かべる。
「だがスキル昇華した俺は違う。獣になり、その力を自由に使える」
「わざわざ自分から教えるとは、おしゃべりな奴だ」
「それが俺のスタイルだからな」
ラオズは口元を大きく吊り上げた。
「敢えて能力を教えた上で徹底的に叩き潰す! その方が最高に気持ちいいんだよ!」
次の瞬間――ラオズが地面を蹴った。
轟音――まるで雷鳴そのものが駆けたかのような速度でパトリエとの距離を詰める。
振り上げた右腕に雷光が収束した。
鋭い爪が電撃を纏いながら振り下ろされる。
パトリエは即座に回避した。
だが完全には避け切れない。
爪が鎧を掠めた。
それだけで金属が焼け焦げ、裂け、溶解していく。
「それなりに値の張る代物だったんだがな」
「安心しろ。不良品じゃねぇ」
ラオズが牙を見せて笑う。
「俺の力がそれだけ凄ぇってことだ」
そこまで言うとラオズは大きく息を吸い込んだ。
――嫌な予感。
パトリエが即座に距離を取る。
直後――。
『ガァアアアアアアアアアアアッ!!』
咆哮――獣の咆哮に雷撃が混じり、周囲へ放射状に拡散する。
建物の壁が砕ける。
地面が抉れる。
稲妻が暴れ回り、空気そのものを震わせた。
パトリエの身体が吹き飛ばされる。
何度も地面を跳ねながら転がり、ようやく勢いを殺した。
「チッ、衝撃を殺しやがったか」
ラオズが目を細める。
ただ吹き飛ばされたとは考えない。
それを技量と見抜く。
大胆なようでいて、戦局を見極める冷静さも兼ね備えている――それがラオズという男だった。
ラオズの読み通り、パトリエに大したダメージはない。
転がる勢いを利用して跳躍。
壁を蹴り、一気にラオズへ接近する。
その剣には雷が宿っていた。
「俺に雷で挑むとはいい度胸だ」
ラオズが両腕を広げる。
受けて立つと言わんばかりの態度だった。
だが――。
パトリエは腰のポーチへ手を伸ばした。
取り出したのは水筒と小さな鉄球。
「なんだ?」
怪訝そうな声を上げるラオズ。
次の瞬間、鉄球がラオズの頭上で炸裂した。
爆発に巻き込まれた水筒が砕け散る。
中に入っていた水が雨のように降り注ぎ、ラオズの全身を濡らした。
「テメェ何しやがった!」
「ただの水だ」
パトリエは静かに答える。
そして剣を振り抜いた。
雷鳴の轟き――雷光が奔る。
普段以上に強烈な電流が水を伝い、一気にラオズの全身へ流れ込んだ。
「グォオオオオオオオッ!!」
ラオズの悲鳴が響く。
パトリエとの戦いの中で初めて見せる苦悶の声だった。
全身から煙が上がる。
筋肉が痙攣する。
「小賢しい真似を――!」
怒声を上げるラオズ。
その隙をパトリエは見逃さなかった。
再びポーチへ手を伸ばす。
「それはスクロール!」
ラオズの顔色が変わる。
「終わりだ」
パトリエが巻物を広げた。
直後、ラオズの足元に巨大な魔法陣が展開される。
赤く輝く紋様。
膨れ上がる魔力。
そして――轟音。
爆炎が天へ向かって吹き上がった。
周囲の建物ごと巻き込みながら巨大な爆発が発生する。
衝撃波が街を揺らし、瓦礫が宙を舞った。
ラオズの姿は爆煙の中へ飲み込まれていく。
それでもパトリエは油断しなかった。
剣を構えたまま、立ち上る黒煙を静かに見据えていた――。




