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【連載版】お尻にスライムが突き刺さったまま、魔王討伐へ向かうことになった件  作者: 友理 潤
第一章 スライムがお尻に突き刺さったまま冒険に出るための準備
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探せ! スライムがお尻に突き刺さった勇者に相応しい装備を!

◇◇


 翌朝――

 

 勇者タイシは再び宿屋の部屋で待機を命じられていた。

 言うまでもなく、お尻にスライムが突き刺さったままで、外に出ることはかなわないからだ。

 それから、この日は彼の監視役として、リリアンも部屋に残ったのだった。

 

「わあ! このお水! すっごく甘くて美味しいです!」


 アカネの明るい声が響き渡った。

 それを聞いて、リリアンが大きな笑顔を作る。

 

「よかったあ! 電撃の魔力をベースにして、隠し味に風の魔力を加えてみたの! 初めてだったけど、褒めてもらえて嬉しい!」


「はい! 昨日の苦みしか感じないお水とは段違いです!」


「ふふふ。昨日お水を作った人は、心が汚れているから苦みしか出せなかったのよ」


「私もそう思います!」


 きゃっきゃとはしゃいでいる女子二人に、背を向けていたタイシが眉をひそめて振りかえった。


「なんだとぉ!」


「ド変態はこっち見るな!」


――バチッ!


「おい! リリアン! すぐに魔法使うのはやめてくれないか!?」


「それを言うなら、すぐに変態行為におよぶのはやめてくれないかしら?」


「なにぃ!? いつ俺が変態行為におよんだんだよ!?」


 数え上げればきりがないほど、およんでいるではないか。

 朝から不毛な言い争いをしていても疲れるだけだ、と賢明な判断をきかせたリリアンは彼の問いに答えなかった。

 

「ところでアカネちゃんは普段、どんなことしてたの?」


「えーっと、お家の手伝いをした後は、お友達とお花摘みに行ったりしてました」


 と、再びアカネと世間話を始めたのだった。

 その様子に、タイシはふぅと大きなため息をついて天を仰いだ。

 

「まったく……どいつもこいつも、世界にただ一人の勇者様に対するリスペクトが足りないんだよなぁ!」


 勇者タイシよ。リスペクトするに値する行動ができるようになってから、そのセリフを吐くがいい。

 再びリリアンとアカネから顔をそむけたタイシ。

 しばらく彼女らの女子トークを興味なさげに聞いていたが、ふと顔を曇らせてつぶやいた。

 

「ところで大丈夫なんだろうな? ソフィアとダニエルに『装備選び』を任せちまって」


 そうなのだ。実はダニエルとソフィアの二人は、アカネを上手に隠すための装備を探しに行っているのである。

 よりによって『ザ・脳筋』と『超天然』に、そのような大役を任せざるを得なかったことに、タイシは大きな不安を覚えていたのだ。


 リリアンはおしゃべりをやめて、ちらりとタイシに目を向ける。

 そして、落ち着いた口調で答えた。

 

「あんたはいつでも仲間を信じているんでしょ。大丈夫よ。ソフィアもダニエルも、立派な大人なんだから」


 はっきりと断言した彼女だったが、その瞳の奥には不安の色が混じっていたのだった――

 

………

……


 昼過ぎ――


「ただいまー!!」


 ダニエルが快活な声を上げながら、宿に戻ってきた。もちろんすぐ後ろにはソフィアの姿もある。

 

「おかえり。んで、スライムがお尻に突き刺さった勇者に相応しい装備は見つかったのかい?」


「ああ! ばっちりさ! 俺の名案が冴え渡ったからな! がはは!」


「ええ、ダニエルさんのアイデアは本当に素晴らしくて、思わず神様に感謝してしまいました」


 はい、ハズレ決定。

 タイシとリリアンの二人は、嫌な予感に言葉を失っている。

 

「オーダーメードで時間がかかるっていうから、取り敢えず昼飯で食いながら待ってようぜ!」


 ダニエルが外の屋台で買ってきたとパンを皆に配り始めた。それを受け取ったソフィアが明るい笑顔で言った。

 

「服屋さんが完成したらここまで届けてくれることになってるのよ。ふふふ、楽しみですね」


 テンションの高いダニエルとソフィア。

 そして装備を探しに行ったはずなのに『服屋』という言葉が出てきて、ますます不安の色を濃くしたタイシとリリアン。

 

 対照的な二組に挟まれたアカネは、目を白黒させるより他なかったのだった。

 

 

 そうして、しばらく経った時。

 宿の外から少年の声が聞こえてきた。

 

「ごめんくださーい! ご注文の品をお届けにまいりました!」


「おっ! きたきた!」


 ダニエルが飛びあがって、宿の外へと出て、品物を受け取りにいく。

 そして戻ってきた彼に抱えられているものを見て、タイシは唖然としてしまったのだった。

 

「まじか……」


「おう! まじ、まじ! これならアカネちゃんを上手に隠せるだろ! がはは! 我ながら名案だ!」


 なんとそれは貴族階級の女性が着るワンピースだったのだ。

 いや、正確には下半身部分だけを覆う、『巨大なスカート』。

 それだけではない。

 ダニエルは鳥かごのような骨組みを取り出した。

 

「そしてこれを使うのだ!」


「もしかして……『パニエ』!?」


 リリアン、正解である。

 それは『パニエ』と言って、スカートをふんわりと大きく見せるために、その下に着用するものだ。

 

「ふふふ、このパニエの素材は、特殊な金属にしたのよ。だから魔法や物理攻撃もはじくの。魔物に襲われても、アカネちゃんは安全ってことね」


「待て、待て! このフリフリのついた可愛らしいスカートをはきながら戦えって言うのか!?」


 顔を真っ赤にして唾を飛ばすタイシ。

 ダニエルとソフィアは目を丸くして顔を見合わせている。

 

「そんなの当たり前じゃないか。何もおかしくないだろ」


「ダニエルさんの言う通りです。美しいスカートをはきながら魔物と戦う勇者様。絵になると思いません?」


 男がフリフリのスカートをはいて戦うなんて、絵になるはずないだろ。

 その場の誰もが心の中でそうツッコミをいれたに違いない。

 

「嫌だからな! 大きなリボンつきで、ハートのマークがいっぱいあしらわれた、いかにも見た目からしてロリータ一直線なスカートなんて、絶対にはかないからな!」


 タイシは一息に「断固拒否」と告げると、ぷいっとそっぽを向いた。

 するとソフィアがか細い声をあげたのだった。


「タイシさん。ごめんなさい……。私、タイシさんのこと何も分かっていなかった……」


 ソフィアが悲しそうにうつむく。その横に立ったダニエルが、険しい表情をタイシに向けた。


「この模様はソフィアが選んだんだぜ。タイシに似合うと思って、一生懸命にな!」


「いえ、いいんです……。タイシさんの気持ちが一番大事ですから。仕方ありません。こちらは返品してまいりましょう。おそらく代金は返ってこないでしょう。でも、足りない分は私が一人で稼いで御支払いしますから、心配しないでください……」


 ソフィアは巨大なスカートとパニエを抱きながら、とぼとぼと部屋を出ていく。

 タイシはちらりと彼女の哀しげな背中を見たが、何も言わずに腕を組んだまま、その場を動かなかった。

 そんな彼にダニエルが声をかけた。

 

「タイシ……。いいのかよ? このまま彼女を行かせてしまって」

 

「どういう意味だよ?」


「お前! ソフィアのこと好きなんだろ!? だったらなんで追いかけないんだよ!?」


 誰にも言ったことのないタイシの淡い恋心を、あっさりと暴露するダニエル。

 

「ちょっと待て! なんでそれをばらす!? お前はバカか!」


「バカなのは、お前だろーが!!」


――ドゴオオオオン!!


 岩石をも破壊するダニエルの鉄拳がタイシの顔面にヒットした。

 壁際まで派手に吹き飛ばされたタイシは、きりっとダニエルを睨みつけた。

 

「痛てえな!! てめー! 何しやがる! 俺じゃなかったら死んでたぞ!」

 

「痛いのはソフィアの心だろ! あんな哀しい顔した彼女を一度も見たことない!! 違うか!?」


「くっ……。言われてみれば、その通りだが……」


「タイシのちっぽけなプライドのせいで、彼女は傷ついた! その姿を見ても、お前は何も感じないっていうのか!? それでも男か!」


 なんだか青春映画のように燃え上がっているところ申し訳ない。しかしダニエルよ。フリフリのついた巨大なスカートをはいて冒険に出るのは、どんなにプライドのない男でも拒否するはずだ。


 タイシがゆっくりと立ちあがる。ちなみにアカネが壁にぶつからないようにタイシは態勢を崩したため、彼女は無傷のままだ。

 そのタイシの隣に並んだダニエルは、バシィっと強烈な張り手を背中にかました。

 

「ぐはっ!」


 あまりのパワーに思わず二歩前に足が運ばれる。

 その先にあるのは部屋の扉。はからずもソフィアを追いかけるような格好になった訳だ。

 タイシは文句をつけようとダニエルの方を向いた。

 

 その目に飛び込んできたのはダニエルの満面の笑みだった――

 

「グッド・ラック! タイシ! パニエとスカートは『愛』も包むさ!」


 いやいや、まったく意味が分からんぞ。ダニエル。

 だがもはや何も言える雰囲気ではない。さすがの勇者と言えども、屈強な戦士の一撃をこれ以上食らったら、それこそ命の危険にさらされてしまう。

 

 そこでタイシはしぶしぶソフィアを追いかけていった。

 そして誰の目にとまることなく、彼女に追いついたのだった。

 

「ソフィア! 待ってくれ!!」


 彼女の背中に向かって大声をあげるタイシ。

 ソフィアは振り返らずに立ち止まった。

 

「俺が悪かった! ソフィアの気持ちも考えず、一方的に突き返してしまって!」


 ゆっくりと振り返るソフィア。

 その目には大粒の涙が浮かんでいる。


「謝らないでください。タイシさんが嫌がることをした私が悪かったのです。では、これを返してきます」


 ソフィアは再び背を向けようとした。

 しかしタイシはそうさせなかった。

 

「俺、はくよ! ソフィアが一生懸命考えてくれた、そのスカート。俺にはかせてくれ!!」


「えっ!?」


 タイシはつかつかとソフィアのそばまで寄ると、彼女の両肩をつかんだ。

 そして目を丸くしている彼女にニコリと微笑んだ。

 

「だからソフィア。一つ、俺のお願いを聞いてくれないかな?」


「はい、なんでしょう」


 転んでもただじゃ起きないのがタイシの信条だ。

 彼はいやらしい目つきになって、彼女の胸をじろじろと見始めた。


「揉ませてくれないか! ソフィアのおっぱ……」「それ以上、言わせる訳ないでしょ! 死んで詫びなさい。このド変態勇者が!」


――ズガアアアアン!!


「ぎゃああああ!!」


 

………

……


 こうして勇者タイシとスライムアカネの課題は、また一つ解決された。

 でも二人にはまだまだ多くの困難が待ち受けている。

 

 果たして二人はそれらを乗り越えることができるのだろうか――



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