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第2話 弱みと向き合い続ける、有給のあるうちに終われ

面接通過のメールを見た瞬間、私は思わず小さくガッツポーズをした。


やった。

一次面接通過だ。


転職活動をしていると、不採用通知なんて山ほど来る。

だから通過連絡は素直に嬉しい。


昼休みのオフィスでスマホを握りしめながら、心の中の小さい私は紙吹雪を撒き散らしていた。

やったー!

選考通過!

まだ可能性ある!


ところが、喜びは長く続かなかった。

数秒後にはもう別のことを考えていた。


で、この会社、本当に大丈夫かな。


我ながら面倒くさい応募者だと思う。

普通は内定をもらえるまで「やった!」のモチベーションを保つべきで、そのテンションで選考を乗り切ることに全ベットすべきだろう。


でも私は今回、

選考に通った会社で働く、のではない。

働きたい会社で働きたいのである。


面接が終わるたびに、

「この会社、本当に長く働けるかな」

「一次面接も、二次面接も面接官の雰囲気はよかったけど…」

という品定めが始まる。


転職活動を始めた頃は、私も面接では企業が応募者を選ぶ場だという意識がはずせなかった。

もちろんそれは間違いではない。


でも、私にとっては半分しか正しくない。

面接は私が会社を選ぶ場だ。


だって私はもう、

「頑張れば何とかなる」

という考え方で大失敗しているからだ。


むしろ、私の職務経歴書にギュウギュウに詰め込まれた実績を見て

「是非わが社に!」と言ってくれる会社は、

申し訳ないが要注意なのだ。


それは紛れもない私の実績だが、

「かなり頑張って出来たこと」のオンパレードだともいえるからだ。


実は過去に、かなり大きな短期離職をしたことがある。


当時の私は、育児中だった。

子どもがいる。

だから残業は制限される。


当たり前の話だ。


でも私は、それを転職市場で言うのが嫌だった。

すごく嫌だった。


育児中なので残業ができません。


保育園のお迎えがあります。


急なお休みがあるかもしれません。


そういう言葉を口にした瞬間、「制約のある人」として見られる気がしていた。

それを理由にして、給料を低くされる可能性だってあるんじゃないか。


被害妄想もあるかもしれない。

でも当時は本気だった。

実際に転職エージェントから、「育児しながらいい会社には入れないですよ」と言われたこともある

(あいつ許さん)

そういう時代、といえばそれまでだけど、時代が私に追いつくのを待ってられるほど悠長でもなかった。

だから私は考えた。


「従来の普通」の会社で残業できないなら、

「新しい働き方」で、私でも残業できる会社を選べばいいじゃないか。


そして見つけたのが、

フレックスタイム制。

リモートワーク可能。

柔軟な働き方を売りにしている会社だった。


これだ。私は思った。


これなら育児と両立できる。


★起床→仕事→保育園に子を送る→仕事→保育園に迎えに行く→仕事→寝かしつけ→仕事(何時迄でも)★

仕事し放題。永久機関の完成じゃねーの。


安心して入社した。


ところがである。

人生はそう簡単ではなかった。


入社してしばらくすると、「週1回出社しましょう」というルールができた。

コロナ禍が落ち着いた当時、どの会社でもよくあった話だ。

私も出社したほうがコミュニケーションが円滑だと思う。


問題はそこではない。

私の業務量だった。

私はその頃、毎日かなり遅くまで働いていた。

仕事が終わらないけれど、

1日24時間あれば終わらない仕事はないよね、と、そんな状態だった。


そこへ往復数時間の出社が加わる。

すると何が起きるか。


物理的に、無理だ。

通勤時間。

保育園のお迎え。

睡眠。


全部計算すると成立しない。

完全に詰んでいた。


フレックスで、リモートワーク。

制度はすごく良かった。

でも仕事量は全然良くなかった。


私はそこで初めて気づいた。

制度だけ見ても意味がない。

本当に知りたいのは、「その会社で普通に働いたら、どんな生活になるのか」なのだと。


過去を振り返り、自分が無理を通してきたことを自覚していたからこそ、

私は面接で遠慮しなくなった。


残業時間は?

繁忙期は?

何人で回している?

急な退職が出たらどうする?

業務の属人化は?


質問がどんどん具体的になっていく。

面接官からすると、なかなかめんどくさい応募者だったと思う。


でも意外なことに、嫌な顔をされることはほとんどなかった。


むしろ、「そこは入社前に確認した方がいいですよね」とか、

「短期離職はお互い避けたいですしね」とか、

そんな反応の方が多かった。


考えてみれば当然かもしれない。

企業だって数カ月で辞められたいわけではない。

私だって数カ月で辞めたいわけではない。


だから面接は、お互いの【状況】も、条件のようにすり合わせる場所でもあるのだ。

特に30代の転職では、それぞれいろいろな事情も抱えているから、

余計に仕事をするうえで重要な情報交換となる。


ただ条件ばかり気にしている人には見えにくい、

実際にお互いに「一緒に仕事したらどんなかんじか?」をイメージできるような質問をすることで、

実務担当者同士がお互いのことを知るための会話になる。


これは結構大きかった。

本当に知りたいことを聞きやすくなったのだ。


条件ばかり見て、私のことを1ミリも知ってもらおうとしなかった(話すことを無駄とすら思っていた)過去の私の転職活動では、こんな話を面接でするなんてありえなかった。

今回の転職活動で大きく変わったことの一つである。


そして私は、面接で私と会社のすりあわせをすると同時に、

面接官同士の空気感もよく見ていた。


誰かが話した時、他の人はどう反応するか。

話を遮る人はいないか。

質問しやすそうか。

笑顔は自然か。

仲が良さそうか。

もっと言うと、心理的に安全そうか。


チーム1の若手社員であるという方が面接官だった時には、

「あなたが働きやすいなら、私も安心できます。

 先輩たちとのコミュニケーションはどのようにとっていらっしゃいますか?」

と質問させて頂いた。

(彼は彼で、年上の私が、年下の先輩とどのように関わるタイプか見たかった様子)


そして何より大切なのは、「残業時間」である。

私は新卒で入社した会社が朝も夜も、休日もないような過酷な残業のある会社であったことから、

「台風の前日は会社近くのホテルで待機(自腹)」とか、

「彼氏(後の夫)との平日デートはドタキャン上等すぎるので、最初からデートの約束をしない」とか、

実に「残業に最適化することに抵抗のない社会人」になってしまっていた。


だから、最初から「残業5時間以下」と求人票に明記されている会社に応募するようにした。

(それが無理でも20時間以下を死守)


だって、残業があったら「どうやって残業できるようにしようか」と思ってしまうから…。

体に障るから…。

最初から「業務量の天井」があり、「残業しようにも出来ない」環境を選ぶこともマストであった。


ある会社で残業について聞いた際には、面接官が笑いながら言った。

「うちはね、こんなに早く帰る会社もどうなんだってくらいさっさと帰りますよ」


私は思わず、えっ、最高じゃん!!と叫んでいた(心の中で)

でもその横で、もう一人の小さい私が腕を組んでいる。

待て。

本当か?

その慎重さは、昔の失敗から生まれたものだった。


くどいようだが、私の方からも「いかに残業が出来ないか」について、

「これ面接だよね、受かる気ある?」ってくらい詳細に面接官に説明する。


暗に、「残業がないって嘘じゃないですよね。嘘だった場合、お互い不幸になりますよ」と、これでもかと確認する。


超超超ー疲れる。

もう、有給休暇とってさ、なんでこんな疲れることしてるの。バカじゃないの。

って、何回もめげそうになった。


だって、面接官に「いかに残業が出来ない人間なのか」って話すことなんて、

これまでの私が一番したくないことだったからだ。


自分の弱みと向き合い続けなければいけない作業。

しんどい。

こんなことなら、「刺されても炙られても、とにかくがんばる」方が100倍ましだ。


そうやって、以前の私は、

私自身が成長できる会社を探していた。


どんなにしんどくても、今の私は、

私らしく働き続けられる会社を探している。


もちろん成長したい気持ちは今もある。


新しい仕事も覚えたい。

できることも増やしたい。

でも。


無理をしないと続けられない会社なら、きっとまた同じことになる。

私はそれを知っている。

だから弱みと向き合い続け、探しているのだ。


楽な会社ではない。

ぬるい会社でもない。


私が私のまま働き続けられる会社を。


私は会社を探しているようで、

自分に合う生き方を探している。


それを自覚しながらする転職活動は死ぬほどしんどい。

だって、私の人生にぴったりフィットする会社なんて、本当にあるのか?

私の弱みを認めて、そのうえで私がやりたい仕事をやらせてくれる会社なんて、

一生出会えないんじゃないか。


転職活動のために有給休暇もたくさん使ってて、

もしかするとだんだん「欠勤(無給)」で転職活動する日もくるかもしれない。


それでも、私は今回の転職を長期戦だとおもって向き合い続けると覚悟していた。


何度も言うが、転職活動が終わってみればぴったりフィットする会社なんてなかった。

だけど、向き合い続けたからこそ、「自分の人生を豊かにするために働く会社を探してる」ってことを、

自分に徹底的にすりこむことができたのが、転職活動の時間になる。

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