↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

第1話 面接で話すのは「職歴」? いや、「人生」!

面接会場へ向かう電車の中で、私はスマートフォンを閉じました。

何度も読み返した求人票の画面が消えます。


代わりに窓ガラスに映ったのは、自分の顔でした。


スーツ姿。

三十代後半。


どこにでもいそうな会社員。

どこにでもいそうな母親。


そして、何度目かの転職活動中の人間です。


転職活動なんて、今どき珍しくも何ともありません。

ただ、今回の私は、少しだけ今までの転職とは見ている場所が違いました。


求人票には書かれていない、「私が思う働きやすさ」が大事なのだと!


自分でも思います。

そんな抽象的で、入社してみないとほんとのところは分からないところばかり見て、不毛じゃないか。


もっと年収を見た方がいいんじゃないか(条件提示された数字は裏切らないはずだ)


もっとキャリアアップを狙った方がいいんじゃないか(この会社で短期離職したら、頼みの綱は「どんな仕事をしてきたか」、次の転職で使えるネタだ)


もっと挑戦した方がいいんじゃないか(今日が一番若い!今頑張らなくていつ頑張るんだ。無理はできる時にしろ!)


転職サイトを見ていると、私の心の中にはそういう声が浮かんでは消えていきます。


昔から私が思っていて、そして、変えたい考え方。

鬼コーチが、私の中にいる。


「仕事は頑張るもの。」

「多少無理するのは当たり前。」

「成長は苦労の先にある。」

「自立したいなら、なおさら頑張らないといけない。」


そう信じていたからこそ、転職市場でそこそこ需要のある職歴を得ることが出来た。


任された仕事は全部やりました。

業務を効率化して、時間が空いたら自分から仕事を取りに行きました。


分からないことは勉強して、資格も取りました。


責任のある仕事も引き受けました。


キャリアアップの為の転職もしました。


評価されるのも、できることが増えるのも嬉しかったです。

ゲームでレベルアップしていくみたいな感覚に近かったかもしれません。


でも、そのレベル上げの先にあったのは、「安心」ではありませんでした。

私はずっと不安でした。


もっと稼いで、成長して、市場価値を上げて。

もし誰も頼れなくなってもいいように(貯金しておこう)

もし働けなくなってもいいように(貯金しておこう)


そういう不安を消したくて走っていた気がします(貯金しておこう)


「一人でも生きていける」


そう思いたくて頑張っていただけでした。


頑張りすぎるとどうなるか


残念ながら人間はRPGの主人公ではないので、レベル99になってもHPは無限になりません。

むしろ途中でガス欠になります。


私は見事にガス欠になりました。


その結果として心の調子を崩し、治療を受けることになりました。

今は服薬もしていますし、生活リズムもかなり意識しています。


睡眠不足が続くとよろしくないことも知っています。

無理をするとちゃんと反動が来ることも知りました。


体を壊すと、自分の取扱説明書を作らないといけなくなるんだ。

仕事をするにも、私が体調コントロールするためには一定の条件をクリアした「環境」が必要になってしまった。


授業料、高かったですなぁ。


だから今回の転職活動では、一つだけ決めていることがあります。


「自分が、自分を壊すような会社には行かない」


どれだけ条件が良くて、評価してもらえて、年収が上がっても。

「ボスがいっぱいいてレベルアップが簡単にできるよ」

というステージでも、

「ただしゲームオーバーしたら復活できないけどね」

という環境では私にはもう無理だと、今なら良い意味であきらめがつくのです。


そこで長く働けなければ意味がありません。

ポーションでも回復魔法でも何でも使って、

時にはボスさえ回避して、

ストーリーとは違う道を進むこともあっていい。

私がつまらないと思っていたのんびりほっこりゲームに鞍替えすることも厭わない。


…いや、でも少しは冒険を進めてる実感は欲しい。


そんなこんなで頭の整理がつかないまま、

電車が目的の駅に到着します。


私は立ち上がりました。


バッグの中には履歴書と職務経歴書。

そこには、これまで積み上げてきた仕事の経験が書いてあります。


でも、書いていないこともあります。

私には病気があること。

今日会う会社には、そのことを伝えていません。

いわゆるクローズ就労です。


これについては色々な考え方があると思います。

私自身も何度も考えて、後ろめたい気持ちもまだ全然ある。


病気を話さない私は、不誠実なんだろうか。

何かを隠しているんだろうか。

自分を偽っているんだろうか。


まだ答えは出ていない。

私がひとりで考えても、答えが出なさそうだから、私は今日も面接に向かいます。


職歴だけを話しに行くのではなく。

病名を説明しに行くのでもなく。


今の私が、どんな働き方を望んでいる人間なのか。

それを伝えに行くために。


この時の私は「正解の会社と出会うこと」が転職活動のゴールだと思っていました。

でも、「正解の会社」なんて、ない。


私が私らしく働けるのか、

ここなら私は自分を壊さなくても日々を過ごしていけるのか。


面接で出会う人と話す中で、私が見極めていくことになるのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。