03. 妹 エントワ
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わたしエントワの部屋には父の執務机があり、母の執務机もある。
わたしの体が弱いからといって両親のどちらかがいつも側にいてくれる。
両親に愛されていることを態度からも実感できるし『愛している』と毎日告げてくれる。
熱を出して苦しい息の中でも、目を覚ますと父か母の心配する顔が覗き込んでいるのが当たり前のことで心配をかけて申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが綯交ないまぜになる。
「お水は飲めそう?」
「可哀想に。私が代わってやれたらいいのに」
「愛しているわ」
「早く良くなれ」
「おはよう。エントワ」
「ご飯を一緒に食べようか」
「今日はいい天気よ。少し外に行ってみましょう」
「今日は熱が出なかったな。いい夢を見るんだよ。おやすみ」
そんな言葉を両親からかけられて目覚め、眠りにつくのが当たり前のことだった。
双子の姉アビリートがいることは知っていたけれど、お互いに病気をうつしあってはいけないからと生まれたその日から別々に育てられているのだと両親が言った。
顔を会わせるのは一年に一度の誕生日の数時間だけで、その誕生日も長いテーブルの端と端に座らされるため姉の顔の判別もできないほど遠くて言葉を交わしたことはない。
そして両親はわたしの側にいてくれて姉には「誕生日おめでとう」すら言うこともなく、姉を抱きしめているところを見たこともない。
「わたしの見ていないところでお姉様にも愛していると伝えているのかな?」
「お姉様に会いたい」
両親に数えられないほど頼んだけれど、病気がうつったら大変だからと会わせてもらえなかった。
13歳の誕生日。わたしは元気だったのだけれど姉は数日前にくしゃみをしていたからとわたし一人だけの誕生日になった。
両親も使用人たちもわたしが13歳まで生きていてくれることが嬉しいと涙を流して祝ってくれた。
「お姉様は大丈夫なの?」
両親に聞くと「あの子はいつもエントワより軽い病気にしかならないから大丈夫よ」と言われて母が言うことなので間違いはないのだと納得した。
いつも姉はわたしと同時期に病気になって、先に治るらしい。
ちょっと腹立たしいと思ってしまったので姉の心配をするのはやめることにした。
誕生日だから今日だけと我儘を言って両親のベッドで両親に抱きしめられながら眠った。
最高に幸せな誕生日だと思った。
翌朝目が覚めて三人で朝食を取り「13歳になったエントワは今日は何をして過ごすの?」と聞かれたので「お姉様のお見舞いに行きたい」と答えた。
両親は「それは駄目よ。うつったら大変だからそのお願いだけは聞けないわ。我慢してね」と頬に口付けられたのでそれで満足してあげることにした。
昼食も三人で食べて「お母様とお父様はいつお姉様のお見舞いにはいつ行っているの?」と聞くと両親は顔を見合わせただけで返事はなかった。
昼食後「少し仕事をするわね」と言ってわたしの部屋で両親は机を並べて仕事をしていた。
何時間かが経った頃、部屋の外がなんだか騒がしくてどうしたのかしら? とわたしが首を傾げていると部屋の扉が慌ただしく叩かれた。
お父様が煩わしそうに「何だっ?!」と答えると執事長のガービンが慌ててわたしの部屋に入ってきて、とても驚いた。
わたしの部屋には病気がうつっては困るからと言って両親以外の人は滅多なことでは入ってこないからだった。
ガービンは無遠慮に部屋に入ってきて、父の傍に寄る。
母が怒りの顔で文句を言おうとしているのが目に入る。
お父様の耳元でガービンは何かを言った。
お父様は「冗談を言うな!」と怒っている。
「冗談ではありません!!」
と怒鳴り返すガービンに父は胸元を掴まれて部屋から連れ出されていった。
それから屋敷の中はなんだかいつもと違って落ち着きがなく浮ついていて、使用人たちがバタバタと走り回っている感じがした。
1時間程するとメイド長と、顔はわかるけれど名前は知らないメイドが一人やって来て「旦那様がお呼びです」と母に伝えた。
「エントワを一人にはできないわ!!」と母が怒っていたけれど「メイドが付いていますので大丈夫です。旦那様のところへお願いします」とメイド長が言った。
「馬鹿なことを言わないで!! エントワを一人にできないって言っているでしょう?! 話があるのならばブルーノがここに来ればいいことじゃない!!」
そう言って母は動かなかったのだけれど、ガービンに連れて行かれたお父様と同じように、メイド長に腕を引かれて母も部屋から連れ出されていった。
その日は両親共わたしの部屋に来てくれなかった。
わたしが知る限りおやすみのキスをしてもらえなかったのは初めてのことだった。
寂しくて泣いているといつの間にか朝になっていって、いつもなら両親のどちらかが座っているはずの椅子を見たけれど、両親もメイドも座っては居なかった。
その次の日も両親は来てくれなかった。
食事を持って来るために使用人が来るだけで、食事を置くとそのまま居なくなってしまう。
お母様が連れ出された時に居た使用人もいつの間にか居なくなってしまっていた。
一人で食事を食べるのも初めてで一人では上手に食べられなくて「お父様」「お母様」と二人を呼んでただメソメソと泣いていた。
こんなに長い間、両親と離れたことがなかったので両親に会いたいと泣いて廊下に出てメイドに伝えたけれど困った顔をするだけで誰も両親を呼びには行ってくれなかった。
その翌日、黒い服を着たメイドたちと同じように着心地の悪い黒い服を着せられてメイド長に手を引かれ、馬車に乗せられた。
最初は不安だったのだけれど、初めての馬車に心が弾んだ。
もっと乗っていたかったのにすぐに降ろされてしまって【教会】というところだとメイド長が言った。
わたしの背丈くらいの箱が置かれた広い部屋にいくつも長椅子が置かれた場所で、箱に取りすがって泣いているのはお母様だった。
その後ろにお父様が立っていてお父様も涙を流している。
私は二人に抱きしめてほしくて傍に行こうとするとメイド長に引き止められた。
それからは同じように黒い服を着た人たちが何人か来て、静かに座っている。
お父様もお母様も今は泣いていないみたいで静かに座っている。
何が起こっているのか解らなくてわたしはただ退屈で欠伸あくびを何度か繰り返した。
知らない年寄の人が何かを言っていて「神の子アビリートは神のお招きを受け、私たちとは会えないところへと向かわれてしまいました」と言ってたので「わたしたちの会えないところってどこ?」とメイド長に聞くと「とても遠いところです」と言ってメイド長も涙を流していた。
わたしにとってはただただ不安が半分、退屈が半分だったので、直ぐそこに居るお父様とお母様に抱きしめてもらって安心したかった。
それなのにメイド長がわたしの手を強く握っていて離してくれなかった。
両親が取り縋って泣いていた箱が馬車に乗せられ、わたしも違う馬車に乗せられた。
10分くらい馬車に乗っていると停まってしまってもっと馬車に乗っていたかったのに気が利かないなと思った。
メイド長に「もっと馬車に乗っていたいわ」と言うと「お静かに願います」と一言言われるだけだった。
わたしは馬車から降ろされお父様とお母様の横に並んで立っているように言われた。
数人の男の人に箱は抱えられ馬車から降ろされる。
そして深い穴が掘られた横に置かれた。
穴の中を覗いてみたくて穴に近寄ろうとするとまたメイド長に手を強く引っ張られた。
不満をこぼそうと思ったのだけれどメイド長の顔が怖くて何も言えなかった。
お父様とお母様が泣いて、また箱に取り縋っているのだけれどなぜ泣いているのかが解らない。
何が起こっているのか誰も説明してくれなくてわたしがここにいる理由がわからなくて退屈で仕方なかった。
立っているのも疲れたし、また馬車に乗れるかなと近くに止まっている馬車と馬に興味を惹かれていた。
わたしがお父様やお母様より馬車に気を取られていると思ったからか、メイド長の手が離れた。
その隙を狙ってわたしはお母様に駆け寄って抱きついた。
「お母様!! 寂しかったわ!! どうしてエントワに会いに来てくれなかったの?!」
「エントワ!!」
いつも優しいお父様が強く諌めるようにわたしの名を呼んだ。
メイド長が慌ててわたしの傍に来て手首を強く握りわたしをお父様とお母様から引き剥がした。
「お父様! お母様!!」
そう叫んだけれど二人は箱に気を取られていて、わたしには返事をしてくれなかった。
メイド長に「今だけは静かにしてください」と言われたのだけれど一体いつまで静かにしていなくてはならないのかと不満いっぱいだった。
ただメイド長に睨まれて怖くて口を閉ざすしかなかった。
教会という場所で話していた知らない年寄が「最後のお別れです」と言って箱の蓋が開かれた。
そこには醜く歪んだ顔の知らない小さな女の子が入れられていてメイド長に「その子誰?」と聞いた。
周りがまたざわりとしてヒソヒソと話すたくさんの声が聞こえたけれど、何を言っているのかは解らなかった。
お父様に「黙りなさい」と小さな声だけど酷く冷たい声で言われてわたしはメイド長の言う事を聞いて黙っていれば良かったと後悔した。
箱の中には沢山の花が入れられ蓋が閉められた。
箱の下に二本のロープが通され深い深い穴の中に箱は落とされた。
母の泣き声がひときわ高くなり、父は何度も目元をハンカチで拭っている。
母が「アビリート⋯⋯」と言ったことで箱の中に居たのが姉なのかもしれないと思った。
一握りの土が深い深い穴の中に収められた箱の上にかけられ、その後は大きなスコップで土がドサドサと落とされ、土が小さな山になった。
メイド長や使用人たちがその山の上に花を置いた。
またメイド長に手を引かれ馬車に乗せられた。
「今度は馬車に長く乗っていられるかしら?」
と馬車に乗れた嬉しさで聞くとメイド長は冷めた目でわたしを見た。
その目付きで見られるのが嫌で、靴を脱いで座面に膝立ちになり窓の外を見ることにした。
メイド長に背を向けたまま「お母様たちはいつ頃帰って来るのかしら?」と聞くと「直ぐにお帰りになります」と聞いてわたしは屋敷に帰るといつものお父様とお母様が戻ってくると思って満足した。
メイド長はすぐに帰って来ると言っていたのに、その日の昼食も夕食もわたし一人だった。
「エントワお嬢様は食事の度に服を汚す」と使用人に溜息を吐かれた。
だっていつもはお母様かお父様が食べさせてくれていたんだもの。
「仕方ないじゃない!!」と言ったらまたため息を吐かれた。
すぐにわたしのところに来てくれるはずの両親が傍に来てくれなくて寂しくて両親を探しに部屋を出ると、屋敷の中はシンと静まり返っていた。
「お父様⋯⋯お母様⋯⋯」
なんだか大きな声を出してはいけない気がして小さな声で両親を呼ぶものの小さな声過ぎて当然、誰にも聞こえない。
両親の部屋の扉を開いたけれど真っ暗で人の気配がしない。
「お母様、どこ?」
不安がどんどん大きくなってきてヒックヒックとしゃくりあげ涙が溢れだす。
その泣き声が聞こえたのかたまたま通りかかったのか、まだ若いメイドがわたしに気がついてくれた。
「エントワお嬢様⋯⋯」
「お母様とお父様は? どうしてエントワに会いに来てくれないの? 一人にしないって約束していたのに。どうして?!」
「エントワお嬢様はアビリートお嬢様が亡くなられたことを理解されていますか?」
「なくなるってってなにかしら? お姉様が何かなくしたの?」
「亡くなるというのは死んだということです」
「しんだって何?」
「二度と会えないということです」
「土を掘り返せばいいんじゃないの? お姉様はあの箱の中にいるのでしょう?」
二度と掘り返すことはできないのです。それが死ぬということです」
「そう⋯⋯。よくわからないけどお姉様にはもう会えないってことね?」
「そうでございます」
「別に会えなくてもいいわ。
今までも会えなかったし。
お母様かお父様に早くエントワの部屋に来てって伝えて。
⋯⋯ううん。エントワが伝えるからお母様のところに連れて行って」
「それは⋯⋯」
「お父様もお母様もエントワのお願いはエントワがお姉様に会う以外は何でも聞いてくださるもの。だから早くお母様のところに連れて行って!!」
「⋯⋯おやめになったほうが良いと思いますが、エントワお嬢様がそう言われるのでしたらお連れいたしましょう」
若いメイドについて行くと階段を降りて一階の奥の部屋へと連れて行かれた。
扉を開ける前からお母様の泣き声が聞こえてエントワは何が起こっているのかと不安になった。
若いメイドが扉をノックしたけれど応いらえはないまま若いメイドは扉を開いた。
エントワはお母様の姿を見つけて「お母様!!」と嬉しくて抱きついた。
お父様もその場にいたので唇を尖らせて二人に「お部屋で待っているのにどうしてエントワに会いに来てくださらないの?!」と口をとがらせて文句を言った。
「エントワを一人にしたりしないって約束したのに!! お父様もお母様も酷いわ!! こんな薄暗い部屋に居ないでエントワの部屋に行きましょう!!
その方が明るくて楽しいわよ?」
「エントワ⋯⋯」
お父様が化け物を見るかのような目でわたしを見る。
お母様が「アビリートが死んでしまったのよ?!」
「別にいいじゃない?
お姉様は元々いないも同然だったでしょう?
エントワが生きているだけでお母様もお父様も幸せって言ってたじゃない。
だからお姉様が死んだってどうでもいいことでしょう?
お姉様に会えなくたって今までも会わなかったんだからどうでもいいじゃない。
お父様とお母様の可愛いエントワは今日は元気よ!」
「エントワっ!!」
お父様の大きな怒鳴り声にわたしは飛び上がった。
その日から、今までと違う日々を過ごすことになった。
お姉様が死んでからというものお父様もお母様も抱きしめてキスしてくれなくなった。
わたしの部屋にあった二人の執務机が片付けられた。
お父様もお母様もわたしの部屋に来てくれない。会いに行っても部屋に入ることを拒否されてしまう。
不思議なことに姉がいなくなってからわたしは熱を出さなくなった。
季節の変わり目の風邪すらひかなくなった。
いつもお父様かお母様が居たわたしの部屋にはメイドしか立ち入らなくなった。
私の14歳の誕生日は誰も祝ってくれなかった。
プレゼントもなかったし、ケーキもなかった。
お父様とお母様に会うことすらなかった。
15歳の誕生日も14歳の誕生日と同じで誰も祝ってくれなかったし、プレゼントもケーキもなかったし、やはり両親に会うこともなかった。
15歳の誕生日の夜にメイド長に「どうしてお父様とお母様は私の誕生日を祝ってくれなくなったの?」と聞いたら「アビリートお嬢様が亡くなられた日だからです」と言われた。
15歳から学園に行くことになったけれど、入学式に付いて来てくれたのはガービンとメイド長の二人だった。
この時初めてガービンがメイド長をマリカと呼んだことでメイド長の名を知った。
入学式のすぐ後からクラスで話をする相手ができた。
「お姉様を亡くなされて寂しいでしょう?」
「どうして? アビリートお姉様が居なくなったことは別に寂しくないけど?」
そう答えてから誰も話しかけてくれなくなった。
両親はかまってくれなくなってしまったし、屋敷に早く帰っても寂しいだけだからと図書館で本を読んで時間を潰していた。
一冊、二冊と本を読んで何十冊かの本を読んだ時、人の死というものを理解した。
両親に禁止されて姉と会えなかったことと死んで二度と会えないことの違いが解った。
けれど、姉が死んだのだからお父様もお母様も今まで以上にわたしを可愛がるべきなのにという思いだけはより一層強くなった。
そして両親は年の離れた弟を産んだ。
その翌年、もう一人弟を産んだ。
二人目の弟が生まれるとわたしの婚約が決まった。
わたしの体が弱かったことで子供が産めるか解らないという理由で15歳も年上で、その人の子供との年のほうが近い相手との婚約だった。
わたしは父に15歳も年上の人との結婚なんて嫌だと泣いて喚いて暴れたが父は「五月蝿い。決まったことだ」と言ってそれ以降会ってくれなくなった。
わたしは一日三食自室で一人で食べるようにと父から指示されてしまった。
時折聞こえる弟たちと両親の声はもうわたしが関われる場所ではないのだなと思った。
そして初めて姉の気持ちを知ることになった。
そして、両親はまた姉の時と同じ間違いをしているのだと思った。
卒業式にも両親は来てくれない。
屋敷に帰っても「おかえり」とか「卒業おめでとう」と迎えてくれることもなかく使用人たちが普段と何も変わらない様子で「お帰りなさいませ」と出迎えてくれただけだった。
卒業二日後に15歳も年上の男のところに嫁ぐ時も見送りすらしてくれなかったし、相手が再婚だからと結婚式もなく、ウエディングドレスを着ることすら叶わなかった。
わたしは嫁いで直ぐに妊娠したけれど15歳年上の夫に「揉め事になる子を身籠られては困る」と言われてどれほど抵抗しても中絶させられてしまった。
そして二度と妊娠しないようにと腹を切り割かれて子宮を取り出された。
治癒魔法をかけられて痛みと傷は無くなったけれど子宮が戻ることは二度とないのだと聞かされた。
わたしはこんな男と結婚させた両親を呪った。
15歳年上の夫を呪い、前妻の子供たちを呪った。
そして姉さえ死ななければわたしは幸せだったのにと姉をも呪った。
陰鬱なわたしを15歳も年上の夫は疎ましく思い寝室に呼ぶことも声をかけることもしなくなった。
子宮を奪われて一年足らずに離縁状に署名させられ15歳も年上の夫の家から放り出された。
「子宮を返してっ!!」
と門の前で泣き喚いたけれど門番に小突き回されて、その痛みに耐えられず立ち去るしかなかった。
両親と弟二人がいる家に戻ると一ヶ月も経たずに今度は27歳も年上の男のところに追いやられた。
27歳も年上の男は妻にもしてくれなかった。
ただ27歳も年上の男はエントワがお金を使うことに文句を言わなかった。
わたしは色んな人に「人を殺してほしい場合はどうすればいいの?」と聞いて回った。
27歳も年上の男の屋敷に出入りしている商人に「殺したい人が居るの。殺してくれる人は居ないかしら?」と金貨10枚を握らせた。
「どなたを殺したいのです?」
「15歳も年上の元夫とその子供たち全員よ。そして両親も殺してほしいの」
商人は27歳も年上の男にそのことを伝えた。
そして27歳も年上の男は若い体は惜しいと思いながらも王宮警邏隊にわたしが人を殺すための人間を探していると伝えた。
わたしはその日のうちに捕まり誰かを恨んだり憎んだりしなくなるまで修道院へと閉じ込められることになった。
その後、わたしは生涯大病を患うこともなく頑健で、両親と15歳も年上の元夫とその子供たちを憎み続けて98歳まで修道院で生き永らえた。
両親たちが死んだ時は当然大喜びして、弟たちが先に死んだと聞かされた時は両親が死んだと聞かされたときとは違う喜びに全身が震えた。
私の死の間際、怨嗟の言葉を吐き続けていた。
15歳も年上の元夫も、その子供たちも死んでいたけれど、それでも憎み続けた。
わたしの世話をしてくれた修道女に看取られたけれど、その修道女は「エントワ様は人を恨むのをやめれば安らかに逝けたのに、人を恨むことをやめられないまま息を引き取られました」と重い息を吐きながら修道院長に伝え、その修道女は半年ほど心を患った。




