No.36 〜another story〜
No.36 〜another story〜
8月11日 7:30
朝のカンファ
橘「最後に藍沢から話がある」
藍沢「昨日、田中との子供が生まれました。名前は星空の星に華やかの華で星華になりました。田中に会う時にぜひ抱いて上げてください。以上です」
橘「ということだ。だが、くれぐれも仕事放棄して抱きに行くなよ。カンファは以上だ。解散」
みんながそれぞれの持ち場に移動して行った。
13:00
ICUには今井と昨日出産を終えた田中、谷口がいた。
谷口が一番奥の患者のバイタルを確認していて、今井が田中と子供のバイタルを確認していると…
田中「今井先生、隣の人呼吸速くない?」
田中が言ったとき、田中の隣にいた『松山裕翔』の心停止を知らせるアラームが鳴り響いた。
田中「今井先生、心マ始めて。谷口さんAED持ってきて」
2人「はい!」
田中は急いでスタッフルームに電話をかける。
藍沢「翔南救命センターです」
田中「耕作?」
藍沢「亜依?」
田中「ICUの松山さんが急変して心停止した。急いで来て」
藍沢「わかった」
すぐに藍沢が走ってきた。
藍沢の指示で処置がされ、無事にすんだ。
藍沢「亜依」
田中「なに?」
藍沢「お前が気づいたんだってな」
田中「隣だからね」
藍沢「指示も出してくれたんだろ?」
田中「スタッフリーダーだもの」
藍沢「助かった。ありがとう」
田中「ううん。すぐに来てくれてありがとう」
そこに緋山が来た。
緋山「藍沢さん?」
2人「…」
緋山「ほら、一応私の担当だから」
藍沢「亜依に用事なんだろ?」
緋山「うん。でも、あんたにも関係あるわよ」
田中「なに?」
緋山「あ、検査良かったから退院していいよ」
田中「わかった」
緋山「これ、受付に出してね」
田中「ありがとう」
緋山「で、あんたどうするの?」
田中「どうするって?」
緋山「1年間」
田中「??」
緋山「はぁ〜、藍沢。この子ホントに分かってないわよ」
藍沢「1年間いや、少なくとも半年はどこにも預けられないだろ?」
田中「…あ、そっか!」
藍沢「やっと気がついたか?」
田中「うん」
藍沢「育休申請しないとな」
田中「うん…」
藍沢「どうした?」
田中「…」
緋山「さてはすぐに働くつもりだったんでしょ、あんた!」
田中「うん…」
緋山「はぁ…可愛い赤ちゃんをしっかり守りなよ」
田中「わかった」
そこに橘が来た。
藍沢「お疲れ様です」
橘「お疲れ。調子はどうだ?」
田中「凄くいいですよ」
橘「そうか」
田中「あ、抱いてあげてください。橘先生」
橘「いいのか?」
藍沢「ぜひ」
そして、橘が星華を抱く。やっぱり、黒田先生といい抱くのが上手い。
橘「可愛いな〜。星華ちゃん」
藍沢「良かったな、星華」
橘「藍沢、俺が今やってるみたいに手を準備しろ」
藍沢「え、はい」
そして、ぎこちなくも藍沢は手を準備した。
橘「ゆっくり乗せるぞ?」
藍沢「はい」
橘がゆっくりと星華を乗せる。
橘「手、離すぞ」
橘がまずお尻の下にまわしていた手をどけて、首を支えていた手もどける。
橘「上手いじゃないか、藍沢。完璧だ」
藍沢「そう、ですか?」
緋山「うん、上手い。なかなか男の人って出来ないんだよね」
藍沢「そうか」
藍沢は自分の腕に抱かれている自分の子供を見た。
不意に子供が笑った。
その姿に藍沢も不意に優しく微笑んだ。それは、今まで田中以外見たことがなかった笑みだった。
緋山「笑った」
田中「星華?」
緋山「違う、いや子供もそうだけど」
田中「??」
緋山「藍沢が」
藍沢「なぁ、やっぱり子供って可愛いな。自分の子供は特に」
藍沢が心からの笑みで橘、田中、緋山に言った。
橘「だよな。それより、お前も父親か」
藍沢「自分なりに頑張ります」
橘「わかんなかったら聞けよ」
藍沢「はい」
橘「まぁ、俺も黒田先生も一応先輩パパだからな。父親同士の繋がりも大切にしないとな」
田中「フフッ。私も三井先生にたくさん質問しよ〜。もちろん、緋山先生にもね」
緋山「うん」
そこに三井がやってきた。
三井「橘!」
橘「三井?」
三井「優輔が貴方に聞きたいことがあるんだって」
橘「俺に?」
三井「うん。だから優輔のところに行ってあげて?」
橘「わかった。わざわざありがとな」
三井「えっ?うん…」
橘「藍沢」
藍沢「はい」
橘「何かあったらコールするから、子供のところにいてやれ」
藍沢「はい…」
そして、それだけ言うと橘は優輔のところに行ってしまった。
緋山「じゃあ、私もラウンド行ってくるわ」
そう言って緋山も部屋を出ていった。
三井「フフッ。女の子は可愛いわね」
藍沢「抱っこしてあげてください」
そう言う藍沢の表情は凄く優しかった。
三井「いいの?」
田中「ぜひ」
三井がそっと抱き上げる。
流石は先輩ママさん。とても上手だ。
三井「フフッ。かーわいい!」
三井もニコニコで星華を抱いている。
三井「あ、そうだ。2人に話があったの。藍沢、星華ちゃん抱っこできる?」
藍沢「できますよ」
三井から器用に我が子を受け取ると、上手に藍沢が星華のことを抱っこした
三井「上手い。良いじゃない、パパさん?」
藍沢「ありがとうございます」
三井「で、これなんだけど…貴方達に見せようと思って」
田中「翔華大学附属向日葵保育園?」
三井「うん。3月に院内にできる」
藍沢「院内にですか?」
三井「そう。脳外と救命の間に」
藍沢「えっ?」
三井「あそこなら子供に何かあってもすぐに対応出来て安心して預けられるからだって」
田中「そうなんですね!」
三井「そう。翔南の職員の子供用に作られる保育園だから職員の子供が優先されるしね」
田中「ありがとうございます」
藍沢「わざわざありがとうございます」
三井「気にしないで。復帰を待ってるわ。スタッフリーダー?」
田中「えっ、はい…」
三井「藍沢もよくやってるのよ?でもね、やっぱりあのチームには貴方が必要なの。焦らずゆっくりでいいから戻っておいで」
田中「はい!」
三井「じゃあ、私は戻るわね。藍沢、なんかあったらコールするから」
藍沢「はい」
三井「じゃあ」
そう言って三井は部屋を出ていってしまった。
藍沢「亜依…」
田中「なに?」
藍沢「…」
藍沢は田中の肩口に顔を埋めた。
田中「??耕作?」
藍沢「俺はやっぱり現場で処置がしたい…」
田中「??うん…」
藍沢「お前の指示で動きたい」
田中「3月まで待てる?」
藍沢「…待つ」
田中「あと7ヶ月だね」
藍沢「俺はフライトドクターのお前が好きだ」
田中「ありがとう」
藍沢「でも、奥さんとしてのお前も好きだ」
田中「フフッ……ありがとう」
藍沢「今は奥さんの亜依をたくさん見れる」
田中「そうね…」
藍沢「…大好きだ」
田中「私もだよ」
藍沢「愛してる」
田中「私も」
そこに呼び出し音が鳴った。
2人の甘い時間は終わりだ。
藍沢「行ってくる」
田中「気をつけてきてね、行ってらっしゃい」
藍沢「あぁ」
藍沢が走って行ってしまった。
その後ろ姿を亜依は誇らしげに見つめていた。
『だって、私の夫の藍沢耕作は凄くカッコいいんだもん!』
そんな亜依の心の声は誰にも届かないけどね。




