No.35 〜another story〜
No.35 〜another story〜
8月10日 7:30
藍沢「おはよう」
田中「おはよう」
亜依は今日が予定日だ。
だから俺はヘリ担でもコールでもない。
朝食を終えて、仕事に行こうとした時…
田中がトイレからお腹を押さえて出てきた。
田中「藍沢先生!破水した!」
自分が破水したと言うことに相当焦っているのだろう。普段、2人の時は耕作と呼ぶのに、藍沢先生と呼んでいる。
藍沢「準備は出来てるか?」
田中「私のロッカーにバックは入れてある」
藍沢「救命のロッカーか?」
田中「うん」
藍沢「じゃあ、翔南に行こう。歩けるか?」
田中「多分」
藍沢「いや、待て。ソファーで横になってろ。荷物を車に乗せてくる」
そして、藍沢が戻ってきた。
すると、藍沢が田中を横抱きにして、車まで運び、田中を車に乗せた。後部座席は45°倒れていて妊婦にはとても良い角度だった。
藍沢「どうした?」
田中「ありがとう」
藍沢「ん?」
田中「席の角度」
藍沢「あぁ」
田中「緋山先生居るかな?」
藍沢「今日は朝からいるはずだ」
田中「そっか」
藍沢「ストレッチャー持ってくるか?」
田中「ううん。大丈夫、歩けると思う」
藍沢「いや、俺が抱える」
田中「恥ずかしいよ」
藍沢「いいだろ?」
田中「わかった」
藍沢「それより、緋山に電話したか?」
田中「してない」
藍沢「しとけ」
田中「わかった」
緋山に電話をすると、もう病院にいるとのことだった。
あと、ストレッチャーで迎えにいくって。
田中「もう、病院にいるって」
藍沢「そうか。良かったな」
田中「あと、ストレッチャーでギリギリまで迎えにいくって」
藍沢「あぁ、通用口のことだろ。そこまで俺が連れてってやる」
田中「ありがとう」
そして、翔南の駐車場に着いた。
通用口で緋山が待っているのが見える。
藍沢が降りると、後部座席を開け田中を横抱きにして抱えると、ドアを閉めて車に鍵をかけて、通用口に向かって歩き出した。
緋山「藍沢、田中。おはよう」
田中「おはよう」
藍沢「あぁ。朝からすまない」
緋山「いいよ。それより、そこまでストレッチャー持ってきてる」
藍沢「助かる」
藍沢は田中をストレッチャーに乗せると緋山とストレッチャーを押して初療室に運んだ。
当直だった橘と三井が驚いて初療室に入ってきた。
橘「どうした?」
三井「なに?」
藍沢「おはようございます」
田中「おはようございます」
橘「おはよう」
三井「おはよう」
緋山が子宮口の大きさを確認しているのを見て2人とも察したらしい。
三井「破水した?」
田中「はい」
橘「そうか。楽しみだな」
藍沢「えぇ」
緋山「大丈夫。順調よ」
田中「良かった」
橘「産科でもいいが、どうする?そこもベットは空いてるぞ」
橘が指さしたのはICUだった。
田中「いいんですか?」
橘「そこにいれば担当医は三井か緋山だろうし、藍沢もすぐに行けるだろ?」
田中「じゃあ、そこで」
ということで上司の一言でICUにいることになりました。
しかも藍沢先生は今日1日、ICU担当を言い渡されている。
藍沢「気分は?」
田中「大丈夫」
藍沢「そうか」
田中「心配?」
藍沢「俺はお前の辛さがわからないからな」
田中「そうね」
藍沢「俺が体験出来ない想像を超える痛みをお前が体験していると思うと心配になる」
田中「大丈夫。私とあなたの子供だもん」
藍沢「そうだな。無理せずに頼ってくれ」
田中「ありがとう」
そして、その日の夕方17:30
田中「耕作……藍沢先生」
その声に1番最初に気がついたのは藍沢だった。
藍沢「大丈夫か?亜依」
田中「耕作…陣痛の間隔が狭くなってきたの…」
藍沢「緋山か三井先生呼んでくる」
田中が頷いた。
丁度そこに名取が通りかかった。
藍沢「名取!」
名取「はい」
藍沢「緋山か三井先生呼んできてくれ。田中の陣痛が始まった」
名取「はい!」
名取が医局に行ってICUに戻ってきた。どちらかと言ったが2人とも連れてきた。
緋山「田中?」
三井「田中!」
三井「始まったか〜、痛いよね。大丈夫、田中なら乗り越えられるよ」
緋山「子宮口もしっかり開き始めてる。ゆっくり息吸って〜」
田中「胎児心拍は?」
三井「問題ない」
それから3時間… 20:30
『おぎゃー、おぎゃー!』
初療室に赤ちゃんの泣き声が響いた。
緋山「元気な女の子よ」
産んだ本人の田中も隣にいた藍沢もすごく喜んだ。
結局、緋山が取り上げてくれた。
だが、三井先生も物凄くサポートしてくれた。
そして、藍沢先生はずっと隣に居てくれた。
藍沢「お疲れ、亜依」
田中「ありがとう」
緋山が田中にタオルに包んだ赤ちゃんを渡してくれた。
満面の笑みを浮かべる田中を藍沢がスマホではあるが撮影する。
すると、田中が俺に子供を向けてきた。
田中「抱っこしてあげて」
藍沢「あぁ」
そして、藍沢が子供を大切そうに抱き抱える。
顔は不思議な顔をしていて。今まで見たことがなかった。
田中は思わずそんな父親と子供の初めての対面を写真に納めた。
三井「藍沢、ここに子供寝かせて」
藍沢「はい」
三井に言われて子供を身長体重計に乗せた。
藍沢がゆっくりと足を伸ばさせようとする。
藍沢「足を伸ばすんだ。ちゃんと伸ばさないと生まれた時の身長が縮むぞ」
言葉が通じるわけないのに耕作は子供にいつもフェロー達を指導する時と同じような口調で話しかけた。違うのは相手が子供だから少しだけ声のトーンが高い事だ。
だが、次の瞬間。産まれたばかりの子供が足を伸ばし、丸めていた背中も伸ばした。
緋山「ウソ」
田中「いい子だね」
藍沢「ちょっと、じっとしてろよ?」
この子は言葉がわかるのか?と思うほど藍沢の言葉に誠実だ。
三井「測り終わった?」
緋山「体重が3200g、61cmです」
三井「わかった。可愛いね。藍沢と田中の子供」
藍沢「もういいぞ。楽な格好で。よくやった」
藍沢が言うと赤ちゃんは丸まった。
三井「凄い。言葉わかるんじゃない?この子」
田中「そうかも知れませんね。フフッ。可愛い」
三井「さあ、部屋はどうする?」
橘「産科行くか?」
田中がどうしよう?と見つめてくる。
藍沢「子供は産科か?」
緋山「ん?そこでもいいよ」
そこに黒田が来た。
黒田「おっ、産まれたか?」
田中「はい。黒田先生、抱っこしてあげてください」
黒田「いいのか?」
藍沢「お願いします」
赤ちゃんが丸まった。
黒田がゆっくりと抱き上げる。
流石は黒田だ。凄く上手。
黒田「いい子だな。落ち着いてる」
田中「ありがとうございます」
黒田「部屋はどうするんだ?」
田中「それが…」
黒田「そこに戻るか?」
田中「いいんですか?」
黒田「ベットは空いてる。どうしてもICUのベットの数が足りなくなったらお前は救命の医師なんだから仮眠室を占拠してればいい」
田中「フフッ」
黒田「三井、緋山。子供はそこだと不味いか?」
三井「大丈夫です」
黒田「決まりだな」
藍沢「良かったな」
田中「うん」
そして、ICUの個室に田中と子供が移った。
田中「名前、どうする?」
藍沢「そうだな。せいかは?」
田中「どんな字?」
藍沢「星空の星に華やかの華で星華」
田中「いいと思う」
藍沢「じゃあ、そうしよう」
田中「星華。よろしくね」
藍沢「生まれてきてくれてありがとう。星華」




