No.14 〜another story〜
ドクターヘリ緊急救命No.14
〜another story〜
7:00a.m.
7人はそれぞれの仕事をしていた。
ドクターヘリの医療機材の準備をしていた谷口は、思い立ったように手を止めてiPhoneを耳に当てた。
「…俺だ。元気にしてるか?あ、今日は夜勤で電話に出れないか…」
再生される過去の録音メッセージ。
今は亡き兄の懐かしい声が蘇る。まるでここに、自分のそばにいるかのように…。亡くなってから何回このメッセージを聞いたことだろう。兄は自分がフライトナースになることを一番応援してくれていた。だが、昔からの心臓の持病で昨年亡くなったのだ。
だからこそ、谷口はフライトナースとして早く一人前になる為に頑張っているのだ。
「おはよう」という声で谷口は我に帰った。声の主は藤川だった。急いでiPhoneをしまいながら、「おはようございます」と返す谷口。
藤川「ごめん、電話だった?」
明るい口調で話しかけてくる藤川。その明るさが谷口にはむしろ重苦しくさえある。
谷口「いえ、大丈夫です。ちょうど終わったので」
それだけ伝えると、谷口はそそくさとその場を去る。その後ろ姿を複雑な表情で見送る藤川。
谷口がサンテスキー鉗子をバックに入れ忘れたことに、彼女も、藤川も気がつかなかった。
7人がスタッフルームにいるとICUが騒がしくなった。ICUの患者が2人急変したのだ。
藤川、緋山、今井、名取、横峯、谷口が処置にあたる。
これからオペ室に行く。というところでホットラインがなった。
7人がホットラインの方を向く。
名取「はい。翔南救命センター」
消防隊「裏山で散歩中の夫婦が落石にあい負傷。男性が全身打撲で現在、作業小屋に収容されているそうです」
緋山「私と藤川はオペだし、ICUに誰もいないわけにはいかない。名取、横峯、谷口が行って。こっちに藍沢と田中を呼んでおく。」
名取「はい」
横峯「はい」
谷口「はい」
3人はすぐに走り出した。
藤川、緋山の代わりに名取、横峯はヘリに乗っていた。同行の看護師は谷口だ。
山小屋には血塗れの男性、目暮十三がいた。かたわらでは妻のみどりがオロオロしている。十三はみどりをかばって落石の直撃を受け、胸部に大きなダメージを負ったのだ。腹腔ドレナージをしても、血圧とエピをしてもSpO2が上がらない。止血のために開胸すると、十三の負傷が予想以上に危篤であることがわかった。
名取「肺尖部に強い癒着があるな」
横峯「かようの損傷が大きい。出血が多くて修復は難しいよね」
谷口「血圧、50に下がってます」
名取「まずいな。靭帯見えるか?」
横峯「かろうじて見える」
名取「じゃあ切ってくれ。肺門部にアプローチする」
横峯「わかった」
谷口も頷く。
名取「肺門部遮断して止血する。サテンスキー」
谷口が懸命にサテンスキーを探す。
名取「どうした?谷口」
谷口「入れたはずなんですが…」
名取「サテンスキーないと遮断できないぞ」
懸命に探すがやはり無い。
谷口「ありません……すみません」
3人は懸命にサテンスキー無しでの遮断の仕方を考える。
そこに梶が入ってきた。
名取「横峯、翔南に連絡してくれ。何か方法があるかもしれない」
横峯「わかった」
連絡を受けたCSの町田は田中を呼んだ。
田中「サテンスキーが忘れたって?」
横峯「はい」
田中「血管の遮断はできないわね」
そこに藍沢も入ってきた。
田中「出血はどれくらい?」
横峯「およそ2000ぐらいです」
田中「それ以上出るとまずいわね」
藍沢「どうした?」
田中「サテンスキー忘れたって」
藍沢「田中、ハイラーツイストはどうだ」
田中「あ、そうか!」
藍沢「横峯、名取。ハイラーツイストはやった事あるか?」
横峯「ハイラーツイスト?」
横峯がチラリ横を見ると名取が首を小さく横に振った。
横峯「ありません」
藍沢「両手で肺を持って180度ねじる。それによって空気と血流を遮断する」
横峯「でも、肺尖部がかなり強く癒着してるんです」
藍沢「剥がすのに時間がかかるか?」
横峯「…はい」
名取「ゆっくりやってる時間は無い。肺がちぎれてでも一気に剥がしてハイラーツイストしよう」
藍沢「聞こえた。現場判断に任せる。だが、どっちにしろ早く運ばないと持たないぞ」
横峯「わかりました」
そして、ハイラーツイストで何とか出血を止め、翔南での緊急オペで十三は助かった。




