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夏の日常(後編)

 私のお腹が、「ぐぅぅ……」と派手に鳴った。


「お腹すいた……」


 今帰ったところで、お父さんとお母さんがご飯を作ってくれているはずもないし、冬もまだ帰ってきていない。つまり、このまま帰ったら、お腹ペコペコのまま寝るしかない……。


 そこまで考えて、私は帰る計画をあっさり白紙に戻した。駅の近くで、何か食べて帰ろう。


 真っ先に頭に浮かんだのは、駅の地下街にある、小さなラーメン屋さんだった。おじいちゃんとおばあちゃんの二人でやっているお店で、値段もお手頃。そして何より、味が最高なのだ。


 よし、今日の夕ご飯はあそこに決定!


 そうと決まれば話は早い。私はウキウキしながら、制服のポケットから財布を取り出した。


 ん? なんだろう、この、やけに軽い手触り……。

 きっと気のせいだよね、うん。


 ……って、えぇぇぇぇぇ!?


 一円も入ってないんですけど!?

 見間違いだよね、あはははは!


「そ、そんな……小銭の一枚すらない……?」


 そこでようやく思い出した。昨日の放課後、春鈴と食べた、生クリームたっぷりのクレープ。

 ……あれで、全部使い切ったんだった。


 世界の終わりって、きっとこういう瞬間のことを言うんだと思う。

 鳴りやまないお腹の虫をBGMに、私は肩を落として、とぼとぼと駅のホームへ引き返した。


「はぁ……家に帰りたくないなぁ……」


 深々とため息をつきながら、そうつぶやいた、ちょうどそのとき――


「おやっ? そこの女子高生さん? 今、家に帰りたくないって聞こえたけど?」




 夏、十五歳、高校一年生。

 生まれて初めて、知らない男の人に声をかけられました。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。

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