第五十話 オーガス到着
盗賊襲撃事件から一日――。
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クラン【ホーム】が護衛するロイド商会の商隊は、その後大きな問題もなく街道を進んでいた。
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馬車の車輪が規則正しい音を響かせる。
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青く広がる空。
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吹き抜ける心地よい風。
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一見すれば平和な旅路だった。
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しかしビルセイヤたちは警戒を解いていない。
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盗賊たちは捕らえた。
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依頼も順調だ。
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だが、あの事件には不可解な点が多すぎた。
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黒いローブの人物。
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蛇の紋章。
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そして盗賊たちへ情報を流した何者か。
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全てが一本の線で繋がっている気がしてならない。
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それでも今は依頼が最優先だった。
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商隊を無事に目的地へ送り届ける。
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それが冒険者としての責任である。
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「見えてきたぞ!」
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先頭の馬車からロイドの声が響いた。
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全員が顔を上げる。
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その先に見えたのは巨大な城壁だった。
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高く積み上げられた石壁。
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堅牢な城門。
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行き交う無数の人々。
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商業都市オーガス。
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エメラルド・グリーンよりもさらに大きな都市である。
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「おお……」
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ツバサが感嘆の声を漏らした。
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「想像以上に大きいな」
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「さすが商業都市ですね」
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エミリアも目を輝かせる。
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セシリアは笑みを浮かべた。
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「これなら買い物も楽しそうね」
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その言葉にツバサが反応する。
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「嫌な予感しかしない」
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「何か言った?」
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セシリアがにっこり笑う。
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ツバサは即座に首を振った。
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「何も言ってません」
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周囲から笑いが漏れる。
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こういう何気ないやり取りも、クランらしくなってきた証拠だった。
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やがて商隊は城門へ到着する。
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門番たちは慣れた様子で荷物と書類を確認していた。
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ロイドが通行証を提出する。
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しばらくして門番が頷いた。
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「問題なし」
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「通行を許可する」
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城門が開かれる。
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一行はついにオーガスへ足を踏み入れた。
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街の光景は圧巻だった。
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大通りの両側には数え切れないほどの店舗が並んでいる。
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武器屋。
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防具屋。
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食料品店。
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魔道具店。
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さらには大道芸人や露店まで見える。
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人、人、人。
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まさに商業都市と呼ぶに相応しい賑わいだった。
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「すごい……」
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エミリアが思わず呟く。
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「エメラルド・グリーンより大きいですね」
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「ああ」
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ビルセイヤも頷いた。
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物資の流れが活発だ。
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商人たちの活気も凄まじい。
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この街には多くの可能性がある。
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鍛冶師としても興味を引かれる場所だった。
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やがて商隊は商業区の倉庫街へ到着する。
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商品を運び込む作業が始まった。
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その様子を確認したロイドが振り返る。
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「皆さん、本当にありがとうございました」
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深々と頭を下げた。
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「皆さんのお陰で商品を無事届けることができました」
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その顔には心からの感謝が浮かんでいる。
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「仕事だから気にするな」
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ビルセイヤが答えた。
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だがロイドは首を横に振る。
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「それでも感謝します」
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「盗賊まで撃退していただきましたから」
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そう言って差し出したのは依頼報酬だった。
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銀板五枚。
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約束通りの金額である。
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さらに。
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「こちらは私個人からのお礼です」
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別の袋を差し出した。
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中には銀貨がぎっしり詰まっている。
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「多すぎないか?」
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ビルセイヤが苦笑する。
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「命を救われた礼です」
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ロイドは笑った。
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「受け取ってください」
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その言葉にビルセイヤは素直に受け取ることにした。
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こうしてクラン【ホーム】最初の依頼は無事完了した。
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しかも大成功と言っていい結果である。
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その後、一行はオーガス冒険者ギルドへ向かった。
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依頼完了報告を行うためだ。
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オーガス支部はエメラルド・グリーン支部よりもさらに巨大だった。
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広いホール。
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大量の依頼掲示板。
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数え切れない冒険者たち。
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都市の規模がそのまま表れている。
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「依頼完了ですね」
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受付嬢が書類を確認しながら微笑む。
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「盗賊襲撃の件も確認いたしました」
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「お疲れ様でした」
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正式な依頼達成。
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クラン【ホーム】の初依頼は完全成功で幕を閉じた。
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誰一人欠けることなく。
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怪我人も出さず。
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最高の結果だった。
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その夜。
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宿屋の一室。
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仲間たちが眠りについた後も、ビルセイヤは一人起きていた。
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机の上には黒い金属板。
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蛇の紋章が刻まれた不気味な証。
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ランプの灯りに照らされ、その模様が妖しく浮かび上がる。
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「……何者なんだ」
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小さく呟く。
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依頼は終わった。
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だが問題は終わっていない。
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むしろ始まったばかりだ。
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黒ローブの人物。
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謎の組織。
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蛇の紋章。
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その全てが、これから起こる出来事の前触れのように思えた。
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そしてビルセイヤはまだ知らない。
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この商業都市オーガスで、新たな仲間との出会いと、更なる陰謀が待ち受けていることを――。
第二章 第五十話
「オーガス到着」
――続く。




