第五十一話 オーガスの鍛冶ギルド
オーガスへ到着した翌朝――。
ビルセイヤは朝日と共に目を覚ました。
宿の窓から差し込む光が、部屋を優しく照らしている。
昨夜は、蛇の紋章について考え続けていた。
盗賊たちの背後にいた黒ローブの人物。
謎の組織。
そして不気味な蛇の紋章。
気になることは山ほどある。
しかし、考えても答えは出なかった。
「今は情報不足か」
ビルセイヤは小さく息を吐く。
焦っても仕方がない。
まずは目の前のことを一つずつ片付けるしかないだろう。
◇◇◇
身支度を整え、宿の食堂へ向かう。
すると、既に仲間たちが集まっていた。
「おはようございます」
エミリアが優雅に微笑む。
「おはよう」
セシリアも軽く手を振った。
ミリアは朝食のパンを頬張り、リリアは何やら地図を眺めている。
「今日はどこへ行くんだ?」
ツバサが果実ジュースを飲みながら尋ねる。
ビルセイヤは迷うことなく答えた。
「鍛冶ギルドだな」
その瞬間。
ガタンッ!
リリアが勢いよく立ち上がった。
「行きます!」
「まだ何も説明してないぞ」
「でも鍛冶ギルドですよね?」
「そうだが」
「なら行きます!」
即答だった。
最近のリリアは、すっかり鍛冶に興味を持つようになっている。
ビルセイヤの工房で様々な武器や道具を見るうちに、鍛冶そのものが好きになったのだ。
そんな様子にセシリアが笑う。
「本当に好きになったわね」
「だって面白いんです!」
リリアは目を輝かせた。
ミスリル。
魔鉄。
玉鋼。
様々な金属が形を変え、武器や道具へ生まれ変わっていく。
その工程は、彼女にとって魔法のように見えるのだろう。
「じゃあ私も行きます」
ミリアも手を挙げる。
「勉強になるかもしれませんし」
「結局、全員で行く流れだな」
ツバサが苦笑する。
「賑やかでいいじゃない」
セシリアが楽しげに言った。
こうして一行は、朝食を終えて宿を出た。
◇◇◇
商業都市オーガスの朝は早い。
既に大通りは人で溢れていた。
商人たちの威勢の良い声。
荷馬車の往来。
露店から漂う焼き肉やパンの香り。
街全体が活気に満ちている。
「凄いですねぇ」
ミリアが周囲を見回す。
「人が多いです」
「迷子になるなよ?」
ツバサが冗談交じりに言った。
「なりませんよ!」
ミリアは胸を張る。
しかし、その直後。
人の流れに押されて、反対方向へ歩き始めた。
「そっちは逆だ」
ツバサが肩を掴んで引き戻す。
「……あ」
ミリアの顔が赤くなる。
全員が吹き出した。
そんな賑やかなやり取りをしながら歩くこと十分ほど。
目的地が見えてきた。
◇◇◇
オーガス鍛冶ギルド。
それは巨大な石造りの建物だった。
入口の上には、鉄槌を模した大きな紋章が掲げられている。
屋根の上には何本もの煙突が並び、白い煙が空へ立ち上っていた。
そして建物の中からは、絶え間なく音が響いている。
カン!
カン!
カン!
鉄を打つ音。
職人たちの魂の音だった。
「おお……」
ビルセイヤの目が輝く。
鍛冶師としての血が騒いだ。
思わず足取りが速くなる。
「完全に子供の顔ね」
セシリアが呆れたように笑う。
「でも、楽しそうで何よりです」
エミリアも微笑んだ。
◇◇◇
建物へ入ると、そこには多くの鍛冶師たちがいた。
炉の前で鉄を打つ者。
刃を研ぐ者。
防具を仕上げる者。
鉱石を運ぶ者。
武器だけではない。
農具や工具、馬具の金具、調理器具まで並んでいる。
商業都市らしく、扱う品の幅が広い。
まさに職人の聖地だった。
「凄い……」
リリアも感動したように周囲を見回す。
「エメラルド・グリーンの鍛冶師ギルドとは、また雰囲気が違いますね」
「ああ」
ビルセイヤも頷く。
「あちらは職人街の中心という感じだったが、ここは物流と結び付いている」
並んでいる素材も、種類が多い。
鋼材。
銅。
銀。
魔晶石。
そして見慣れない鉱石まである。
商業都市だからこそ、多くの素材が集まるのだろう。
ビルセイヤの興味は尽きなかった。
◇◇◇
その時だった。
「ほう?」
低く太い声が響く。
一人の老人が近付いてきた。
長い白髭。
鍛え上げられた身体。
鋭い眼光。
年齢を感じさせない存在感がある。
ただ者ではない。
「見ない顔だな」
老人はビルセイヤをじっと見つめた。
「旅の鍛冶師か?」
「そんなところです」
ビルセイヤが答える。
すると老人の口元が吊り上がった。
「面白い」
「鍛冶師なら、腕を見せてもらおうか」
突然の提案だった。
周囲の鍛冶師たちがざわつく。
「ギルド長だ……」
「また始まったぞ」
「新人を見ると、すぐ勝負したがるんだよな」
どうやら有名な話らしい。
セシリアたちは苦笑した。
だが、ビルセイヤは違った。
むしろ少し楽しそうに笑っている。
鍛冶師同士の交流。
腕比べ。
技術を見る機会。
嫌いなはずがなかった。
「いいでしょう」
即答だった。
その言葉に、老人の目が鋭く光る。
「ほう?」
「言うじゃねぇか」
ギルド長は豪快に笑った。
周囲の職人たちも興味津々で集まり始める。
商業都市オーガス。
その鍛冶ギルドで、新たな出会いが幕を開けようとしていた。
そしてこの出会いが、後にビルセイヤの名を王国中へ広める大きな転機となるのであった。
第二章 第五十一話
「オーガスの鍛冶ギルド」
――続く。




