第四十九話 黒幕の足跡
盗賊たちとの戦闘が終わった後――。
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街道には安堵の空気が流れていた。
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ロイド商会の商人たちは胸を撫で下ろし、護衛たちも緊張を解いている。
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「助かりました……!」
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ロイドが何度も頭を下げた。
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「本当にありがとうございます」
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「皆さんがいなければ、今頃どうなっていたことか……」
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その声には心からの感謝が込められていた。
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実際、盗賊たちは十数人。
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普通の商隊ならひとたまりもなかっただろう。
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だが。
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ビルセイヤの表情は晴れなかった。
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仲間たちが無事だったことは喜ばしい。
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しかし胸の奥に残る違和感が消えない。
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盗賊たちは弱すぎた。
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そして動きが妙に不自然だった。
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まるで誰かの指示で動いているような――。
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「ビルセイヤ?」
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セシリアが心配そうに声を掛ける。
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「どうしたの?」
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ビルセイヤは視線を盗賊たちへ向けた。
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「少し気になることがある」
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そう言うと、縄で縛られた盗賊の頭目の前へ歩いていく。
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頭目は悔しそうな顔で睨み返した。
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だが先ほどの戦いで完全に心は折れている。
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「質問がある」
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ビルセイヤは静かに言った。
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「なぜこの商隊を襲った?」
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「金が欲しかっただけだ」
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頭目は即答する。
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だが。
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ビルセイヤは首を横に振った。
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「嘘だな」
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その一言で頭目の肩が僅かに震えた。
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「お前たちは商隊の出発時間を知っていた」
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「待ち伏せ場所も完璧だった」
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「偶然にしては出来過ぎている」
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冷静な分析だった。
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セシリアたちも納得する。
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確かに盗賊たちの動きは妙だった。
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まるで商隊の情報を事前に入手していたかのようだったのだ。
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「誰から情報を貰った?」
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頭目は口を閉ざす。
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しかし額には汗が滲んでいた。
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沈黙が答えだった。
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「言わないなら冒険者ギルドへ引き渡す」
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「盗賊だけならまだしも、裏に組織がいるなら話は別だ」
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ビルセイヤの声は静かだった。
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だが有無を言わせぬ迫力がある。
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やがて頭目は観念したように大きなため息を吐いた。
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「……依頼人がいた」
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その瞬間。
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空気が変わった。
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ツバサが腕を組む。
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「やっぱりな」
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「誰だ?」
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ビルセイヤが問い掛ける。
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頭目は首を横に振った。
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「顔は知らねぇ」
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「黒いローブを着てた」
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「俺たちに金を払って商隊を襲えって言ったんだ」
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それだけだった。
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だが十分だった。
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今回の襲撃は偶然ではない。
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誰かが意図的に仕組んだものだった。
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ロイドの顔が青ざめる。
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「わ、私を狙ったのでしょうか……?」
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震える声だった。
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ビルセイヤは少し考える。
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「可能性はある」
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「だが積荷が目的だった可能性も高い」
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商隊が運んでいる商品は高価なものばかりだ。
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狙う理由は十分ある。
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しかし。
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どうにも腑に落ちない。
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そんな時だった。
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「ビルセイヤさん」
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エミリアが声を上げた。
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彼女は盗賊たちの荷物を調べていた。
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「これを見てください」
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差し出されたのは一枚の金属板だった。
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掌サイズの黒い金属。
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そして中央には奇妙な紋章が刻まれている。
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蛇。
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蛇が円を描くように絡み合った不気味な紋章だった。
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「これは……」
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ビルセイヤが眉をひそめる。
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見覚えはない。
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セシリアも首を傾げた。
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だが。
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盗賊の頭目だけは違った。
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顔色が一瞬で変わる。
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「そ、それは……!」
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思わず叫ぶ。
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全員の視線が集まった。
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「知っているのか?」
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ビルセイヤが問う。
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頭目は青ざめながら頷いた。
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「依頼人が持っていた紋章だ……」
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その言葉に空気が凍り付く。
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偶然ではない。
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盗賊たちは確実にその人物と繋がっていた。
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そしてその人物は今もどこかで動いている。
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ビルセイヤは黒い金属板を見つめた。
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蛇の紋章。
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不気味な意匠。
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まるで獲物を締め上げる大蛇のようだった。
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「面倒なことになりそうだな」
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ツバサが苦笑する。
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だがビルセイヤは静かに頷いた。
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「放置はできない」
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「だが今は依頼が優先だ」
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「まずは商隊を目的地まで届ける」
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それが冒険者としての責任だった。
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全員が頷く。
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こうして商隊は再び動き始めた。
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だが誰も気付いていない。
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森のさらに奥。
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一本の大樹の上から、一人の人物が彼らを見下ろしていたことに。
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黒いローブ。
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顔は見えない。
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「盗賊どもは失敗したか」
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低い声が漏れる。
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そしてフードの奥で口元が歪んだ。
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「だが面白い」
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「想像以上だ」
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その視線は真っ直ぐビルセイヤへ向けられていた。
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「ならば次は――」
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黒ローブの人物は静かに姿を消す。
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まるで最初から存在しなかったかのように。
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クラン【ホーム】の初依頼。
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その裏で動き始めた陰謀は、まだ始まったばかりだった。
第二章 第四十九話
「黒幕の足跡」
――続く。




