第四十八話 クランホームの初陣
盗賊たちが一斉に襲い掛かった。
「やれぇぇぇぇぇっ!」
怒号が街道に響き渡る。
十数人の盗賊たちが、武器を振り上げながら突進してきた。
剣。
斧。
棍棒。
それぞれが殺気を纏い、商隊へ襲い掛かろうとする。
普通の商人や駆け出し冒険者なら、恐怖で足が竦んでいただろう。
だが――。
クラン【ホーム】のメンバーは違った。
◇◇◇
「ツバサ」
ビルセイヤが短く呼ぶ。
「任せろ」
ツバサが不敵に笑った。
次の瞬間――。
彼の姿がぶれた。
「なっ!?」
先頭の盗賊が目を見開く。
抜刀。
研ぎ澄まされた日本刀が、陽光を反射する。
キィン――。
澄んだ音が響いた。
盗賊の持っていた剣が、真っ二つになる。
「へ……?」
間の抜けた声が漏れた。
自分の武器が切断されたことすら理解できていない。
その瞬間。
ツバサの足払いが決まる。
ドサッ!
盗賊は派手に地面へ転がった。
「まず一人」
淡々とした声だった。
まるで訓練でもしているかのような余裕がある。
◇◇◇
続いて動いたのはセシリアだった。
「はぁっ!」
鋭い踏み込み。
しなやかな剣筋。
盗賊の攻撃を受け流し、武器だけを正確に弾き飛ばす。
ガランッ!
武器を失った盗賊は、呆然と立ち尽くした。
「まだやる?」
セシリアがにっこりと微笑む。
だが、その笑顔が妙に怖い。
盗賊は青ざめながら、ぶんぶんと首を横に振った。
「なら大人しくしていなさい」
そう言って、セシリアは次の敵へ向かう。
無駄がない。
速い。
そして、美しい。
Bランク冒険者として積み上げてきた実力は、街道の盗賊程度では到底届かない領域だった。
◇◇◇
一方。
後衛では、エミリアが魔法を完成させていた。
「ウォーター・バインド」
魔法陣が淡く輝く。
次の瞬間。
地面から水の縄が飛び出した。
それは生き物のようにうねり、盗賊たちの足へ絡み付く。
「うわっ!?」
「なんだこれ!?」
「足が動かねぇ!」
次々と転倒していく盗賊たち。
攻撃魔法ではない。
拘束魔法だった。
致命傷を与えず、無力化するための選択。
エミリアらしい、冷静で的確な支援だった。
その様子を見ていたロイド商会の商人たちは、唖然としていた。
「つ、強い……」
「なんだ、あの人たち……」
戦闘開始から、まだ数分。
それなのに盗賊側は、すでに崩壊寸前だった。
◇◇◇
そして。
最後まで動かなかった男がいる。
ビルセイヤだった。
盗賊の頭目らしき大男が、彼を睨み付ける。
「てめぇ……」
「何者だ?」
その声には、明らかな恐怖が混じっていた。
仲間たちは瞬く間に無力化された。
だというのに、目の前の男はまだ剣すら抜いていない。
「ただの冒険者だ」
ビルセイヤは静かに答えた。
「ふざけるな!」
頭目が怒鳴る。
そして、大斧を振り上げた。
全力の一撃。
盗賊団の頭目を務めるだけの膂力はある。
まともに当たれば、鎧ごと叩き割られるだろう。
しかし。
ビルセイヤは半歩だけ動いた。
本当に、それだけだった。
大斧は空を切る。
勢い余って、頭目の体勢が崩れた。
その瞬間。
ビルセイヤの右手が、頭目の手首を掴む。
合気道。
相手の力を利用する技術。
力と力でぶつからない。
流れを利用する。
ぐるり。
頭目の巨体が宙を舞った。
「なぁぁぁぁっ!?」
ドォォン!
大地へ叩き付けられる。
肺の空気が一気に吐き出された。
武器も手から離れる。
そして――。
いつの間にか抜かれていた剣が、頭目の首元へ向けられていた。
「終わりだ」
静かな声だった。
だが、逆らえる者はいない。
頭目は理解してしまった。
勝てない。
絶対に勝てない。
力量が違う。
積み重ねてきた修練の質が違う。
「ま……参った」
震える声で降参する。
それを見た残りの盗賊たちも、次々と武器を捨てた。
カラン。
カラン。
金属音が街道に響く。
◇◇◇
戦闘終了。
クラン【ホーム】初陣。
その結果は、圧勝だった。
「怪我人は?」
ビルセイヤが振り返る。
「こちらはゼロよ」
セシリアが答える。
「商人たちも無事です」
エミリアも頷いた。
ツバサは刀を鞘へ納めながら笑う。
「良い初陣だったな」
仲間たちの顔にも、自然と笑みが浮かぶ。
連携は問題ない。
クランとしても十分に機能していた。
最高の結果と言っていいだろう。
だが――。
ビルセイヤだけは、森の奥を見つめていた。
何かが引っ掛かる。
盗賊たちは弱すぎた。
あまりにも雑だった。
まるで誰かに使われている、捨て駒のような印象を受ける。
嫌な予感が胸をよぎる。
その時だった。
森の奥で、微かに枝が折れる音がした。
パキリ。
ビルセイヤの目が細くなる。
誰かがいる。
盗賊たちとは違う気配。
もっと冷たく、もっと鋭い視線。
そして――。
その予感は、決して外れてはいなかった。
クラン【ホーム】の初依頼は、まだ終わっていなかったのである。
――続く。




