第四十七話 街道に潜む影
クラン【ホーム】結成後、初となる依頼。
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ロイド商会の商隊護衛は順調に進んでいた。
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エメラルド・グリーンを出発して半日。
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街道は整備されており、馬車の進みも悪くない。
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空は澄み渡る青空。
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春の風が草原を揺らし、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
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一見すれば平和そのものだった。
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だが――。
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ビルセイヤだけは違和感を覚えていた。
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商隊の最後尾を歩きながら周囲を観察する。
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森。
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草原。
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風の流れ。
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木々の揺れ。
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どれも自然に見える。
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しかし長年剣を握ってきた勘が告げていた。
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何かがいる。
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誰かが見ている。
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「どうしたの?」
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隣を歩いていたセシリアが声を掛ける。
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ビルセイヤは視線を森へ向けたまま答えた。
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「少し気になる」
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「気になる?」
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「ああ」
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短く頷く。
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「視線を感じる」
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その瞬間、セシリアの表情が変わった。
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冗談を言う男ではない。
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だからこそ重い。
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彼女も周囲を見回す。
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だが異常は見つからない。
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「魔物かしら?」
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「分からない」
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「だが警戒しておいた方がいい」
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セシリアは静かに頷いた。
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そして自然な動作で前方を歩くツバサへ合図を送る。
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ツバサもすぐに理解した。
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手を軽く上げて応える。
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クラン結成から日は浅い。
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だがスタンビートや盗賊討伐を共に経験してきた仲間たちだ。
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言葉は必要なかった。
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自然と隊列が変わる。
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セシリアが前衛。
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ツバサが前方警戒。
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エミリアが後衛支援。
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ビルセイヤが全体監視。
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戦闘態勢への移行は実に滑らかだった。
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一方その頃。
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街道脇の森の奥では十数人の男たちが身を潜めていた。
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革鎧。
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粗末な剣。
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汚れた顔。
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そして獲物を狙う獣のような目。
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盗賊だった。
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「まだか?」
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若い盗賊が小声で尋ねる。
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「焦るな」
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リーダー格の男が笑った。
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「馬車は五台」
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「積荷も多い」
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「今日の稼ぎは大当たりだ」
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下卑た笑い声が漏れる。
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彼らは知らなかった。
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目の前の護衛が普通の冒険者ではないことを。
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最近エメラルド・グリーン周辺で名を上げているクラン。
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そして盗賊団を壊滅させた張本人たちであることを。
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やがて商隊が森に挟まれた狭い区間へ差し掛かる。
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待ち伏せには最適な場所だった。
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リーダー格の男がニヤリと笑う。
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「今だ!」
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次の瞬間。
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十数人の盗賊たちが一斉に飛び出した。
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「止まれぇぇぇ!!」
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「荷物を置いて行け!!」
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「命が惜しければ大人しくしろ!」
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怒号が響く。
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突然の襲撃に商人たちが悲鳴を上げた。
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馬たちも怯えて暴れそうになる。
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だが――。
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護衛たちは慌てなかった。
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ビルセイヤは小さく息を吐く。
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「やっぱりな」
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予感は当たっていた。
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ツバサが静かに腰の日本刀へ手を添える。
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セシリアは剣を抜き放つ。
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エミリアは既に魔法の詠唱を開始していた。
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その様子を見た盗賊たちは違和感を覚える。
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おかしい。
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普通なら恐怖するはずだ。
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慌てるはずだ。
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だが目の前の冒険者たちは冷静だった。
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いや。
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冷静すぎた。
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まるで襲撃を待っていたかのように。
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盗賊の一人が思わず足を止める。
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嫌な予感がした。
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しかしもう遅い。
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ビルセイヤが一歩前へ出た。
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その姿に不思議な威圧感が宿る。
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「商隊護衛中だ」
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静かな声。
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それなのに全員の耳へはっきり届く。
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「今すぐ武器を捨てて投降しろ」
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「そうすれば命までは取らない」
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一瞬の静寂。
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そして。
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「はははははっ!!」
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盗賊たちが大笑いした。
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「何を言ってやがる!」
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「たった数人で俺たちを脅す気か!?」
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「やっちまえ!」
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盗賊たちが一斉に武器を構える。
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だがビルセイヤたちの表情は変わらない。
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むしろ僅かに哀れむような視線すらあった。
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警告はした。
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選ぶ機会も与えた。
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それでも襲うというのなら――。
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ツバサの日本刀が静かに鞘から抜かれる。
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セシリアが低く腰を落とす。
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エミリアの魔法陣が淡く輝き始めた。
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そしてビルセイヤもまた剣の柄を握る。
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クラン【ホーム】。
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初めての共同戦闘。
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その幕が今、静かに上がろうとしていた。
第二章 第四十七話
「街道に潜む影」
――続く。




