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第四十七話 街道に潜む影

 クラン【ホーム】結成後、初となる依頼。


◇◇◇


 ロイド商会の商隊護衛は順調に進んでいた。


◇◇◇


 エメラルド・グリーンを出発して半日。


◇◇◇


 街道は整備されており、馬車の進みも悪くない。


◇◇◇


 空は澄み渡る青空。


◇◇◇


 春の風が草原を揺らし、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。


◇◇◇


 一見すれば平和そのものだった。


◇◇◇


 だが――。


◇◇◇


 ビルセイヤだけは違和感を覚えていた。


◇◇◇


 商隊の最後尾を歩きながら周囲を観察する。


◇◇◇


 森。


◇◇◇


 草原。


◇◇◇


 風の流れ。


◇◇◇


 木々の揺れ。


◇◇◇


 どれも自然に見える。


◇◇◇


 しかし長年剣を握ってきた勘が告げていた。


◇◇◇


 何かがいる。


◇◇◇


 誰かが見ている。


◇◇◇


「どうしたの?」


◇◇◇


 隣を歩いていたセシリアが声を掛ける。


◇◇◇


 ビルセイヤは視線を森へ向けたまま答えた。


◇◇◇


「少し気になる」


◇◇◇


「気になる?」


◇◇◇


「ああ」


◇◇◇


 短く頷く。


◇◇◇


「視線を感じる」


◇◇◇


 その瞬間、セシリアの表情が変わった。


◇◇◇


 冗談を言う男ではない。


◇◇◇


 だからこそ重い。


◇◇◇


 彼女も周囲を見回す。


◇◇◇


 だが異常は見つからない。


◇◇◇


「魔物かしら?」


◇◇◇


「分からない」


◇◇◇


「だが警戒しておいた方がいい」


◇◇◇


 セシリアは静かに頷いた。


◇◇◇


 そして自然な動作で前方を歩くツバサへ合図を送る。


◇◇◇


 ツバサもすぐに理解した。


◇◇◇


 手を軽く上げて応える。


◇◇◇


 クラン結成から日は浅い。


◇◇◇


 だがスタンビートや盗賊討伐を共に経験してきた仲間たちだ。


◇◇◇


 言葉は必要なかった。


◇◇◇


 自然と隊列が変わる。


◇◇◇


 セシリアが前衛。


◇◇◇


 ツバサが前方警戒。


◇◇◇


 エミリアが後衛支援。


◇◇◇


 ビルセイヤが全体監視。


◇◇◇


 戦闘態勢への移行は実に滑らかだった。


◇◇◇


 一方その頃。


◇◇◇


 街道脇の森の奥では十数人の男たちが身を潜めていた。


◇◇◇


 革鎧。


◇◇◇


 粗末な剣。


◇◇◇


 汚れた顔。


◇◇◇


 そして獲物を狙う獣のような目。


◇◇◇


 盗賊だった。


◇◇◇


「まだか?」


◇◇◇


 若い盗賊が小声で尋ねる。


◇◇◇


「焦るな」


◇◇◇


 リーダー格の男が笑った。


◇◇◇


「馬車は五台」


◇◇◇


「積荷も多い」


◇◇◇


「今日の稼ぎは大当たりだ」


◇◇◇


 下卑た笑い声が漏れる。


◇◇◇


 彼らは知らなかった。


◇◇◇


 目の前の護衛が普通の冒険者ではないことを。


◇◇◇


 最近エメラルド・グリーン周辺で名を上げているクラン。


◇◇◇


 そして盗賊団を壊滅させた張本人たちであることを。


◇◇◇


 やがて商隊が森に挟まれた狭い区間へ差し掛かる。


◇◇◇


 待ち伏せには最適な場所だった。


◇◇◇


 リーダー格の男がニヤリと笑う。


◇◇◇


「今だ!」


◇◇◇


 次の瞬間。


◇◇◇


 十数人の盗賊たちが一斉に飛び出した。


◇◇◇


「止まれぇぇぇ!!」


◇◇◇


「荷物を置いて行け!!」


◇◇◇


「命が惜しければ大人しくしろ!」


◇◇◇


 怒号が響く。


◇◇◇


 突然の襲撃に商人たちが悲鳴を上げた。


◇◇◇


 馬たちも怯えて暴れそうになる。


◇◇◇


 だが――。


◇◇◇


 護衛たちは慌てなかった。


◇◇◇


 ビルセイヤは小さく息を吐く。


◇◇◇


「やっぱりな」


◇◇◇


 予感は当たっていた。


◇◇◇


 ツバサが静かに腰の日本刀へ手を添える。


◇◇◇


 セシリアは剣を抜き放つ。


◇◇◇


 エミリアは既に魔法の詠唱を開始していた。


◇◇◇


 その様子を見た盗賊たちは違和感を覚える。


◇◇◇


 おかしい。


◇◇◇


 普通なら恐怖するはずだ。


◇◇◇


 慌てるはずだ。


◇◇◇


 だが目の前の冒険者たちは冷静だった。


◇◇◇


 いや。


◇◇◇


 冷静すぎた。


◇◇◇


 まるで襲撃を待っていたかのように。


◇◇◇


 盗賊の一人が思わず足を止める。


◇◇◇


 嫌な予感がした。


◇◇◇


 しかしもう遅い。


◇◇◇


 ビルセイヤが一歩前へ出た。


◇◇◇


 その姿に不思議な威圧感が宿る。


◇◇◇


「商隊護衛中だ」


◇◇◇


 静かな声。


◇◇◇


 それなのに全員の耳へはっきり届く。


◇◇◇


「今すぐ武器を捨てて投降しろ」


◇◇◇


「そうすれば命までは取らない」


◇◇◇


 一瞬の静寂。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


「はははははっ!!」


◇◇◇


 盗賊たちが大笑いした。


◇◇◇


「何を言ってやがる!」


◇◇◇


「たった数人で俺たちを脅す気か!?」


◇◇◇


「やっちまえ!」


◇◇◇


 盗賊たちが一斉に武器を構える。


◇◇◇


 だがビルセイヤたちの表情は変わらない。


◇◇◇


 むしろ僅かに哀れむような視線すらあった。


◇◇◇


 警告はした。


◇◇◇


 選ぶ機会も与えた。


◇◇◇


 それでも襲うというのなら――。


◇◇◇


 ツバサの日本刀が静かに鞘から抜かれる。


◇◇◇


 セシリアが低く腰を落とす。


◇◇◇


 エミリアの魔法陣が淡く輝き始めた。


◇◇◇


 そしてビルセイヤもまた剣の柄を握る。


◇◇◇


 クラン【ホーム】。


◇◇◇


 初めての共同戦闘。


◇◇◇


 その幕が今、静かに上がろうとしていた。


第二章 第四十七話


「街道に潜む影」


――続く。

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