第四十六話 初めてのクラン依頼
クラン【ホーム】が正式に発足してから数日後――。
ビルセイヤたちは朝早くから冒険者ギルドを訪れていた。
目的は、クランとして最初の依頼を受けるためである。
まだ発足したばかりの小さなクラン。
だが、だからこそ重要だった。
最初の依頼は、これからのクランの方向性を決める大切な一歩になる。
◇◇◇
朝のギルドは、いつも通り賑わっていた。
依頼掲示板の前には多くの冒険者たちが集まっている。
討伐依頼を探す者。
護衛依頼を吟味する者。
高額報酬の依頼を巡って言い争う者までいる。
そんな活気ある空間の中、ビルセイヤたちは掲示板の前に立った。
「さて」
ビルセイヤが腕を組む。
「クラン【ホーム】最初の依頼だ。できれば記念になるものがいいな」
「だったら派手なのがいい!」
ツバサが即座に言った。
「ドラゴン討伐とかどうだ?」
周囲の冒険者たちが思わず振り返る。
朝から何を言い出すのか、この男は。
「却下です」
エミリアが即答した。
「まだクランを作ったばかりですよ? いきなりドラゴンはありません」
セシリアも苦笑する。
「まずは連携確認が先でしょ」
その意見にはビルセイヤも賛成だった。
強い敵を倒すことだけが依頼ではない。
今は、仲間同士の連携を深める方が重要だ。
しばらく依頼書を見比べた結果、一枚の依頼が目に留まった。
【商隊護衛依頼】
エメラルド・グリーンからオーガスまでの護衛任務。
報酬は銀板五枚。
途中の街道ではゴブリンやウルフの目撃情報もあるという。
危険すぎず、簡単すぎない。
まさに初依頼としては理想的だった。
「これにしよう」
ビルセイヤが依頼書を手に取る。
全員が頷いた。
異論はない。
◇◇◇
受付で手続きを済ませると、依頼主との顔合わせが行われた。
現れたのは四十代半ばほどの男性だった。
恰幅が良く、商人らしい立派な服装をしている。
「私はロイド商会のロイドと申します」
丁寧に頭を下げる。
「今回の護衛、どうぞよろしくお願いします」
ビルセイヤも一歩前へ出た。
「クラン【ホーム】のビルセイヤです」
「必ず目的地まで護衛します」
その言葉に、ロイドは安心したように笑った。
「皆さんなら安心です。盗賊団討伐の話は聞いておりますので」
どうやら既に噂になっているらしい。
ビルセイヤたちは顔を見合わせて苦笑した。
こうして依頼受注は完了。
翌朝、出発することが決まった。
◇◇◇
その日の夕方。
屋敷では出発準備が進められていた。
リリアは食堂のテーブルで帳簿を広げている。
「携帯食料、確認……予備資金、確認……回復薬の在庫も確認……」
会計担当として真剣そのものだ。
以前なら想像もできなかったほど頼もしくなっている。
一方その頃。
厨房ではミリアが忙しく動いていた。
「よし! 完成です!」
机の上には大量のサンドイッチが並んでいる。
ハム入り。
卵入り。
野菜たっぷり。
さらに焼き菓子まで用意されていた。
「凄いな……」
ビルセイヤが感心する。
「皆さんが途中で困らないようにと思って」
ミリアは少し照れながら答えた。
その様子を見てセシリアが笑う。
「すっかり【ホーム】のお母さんね」
「お、お母さん!?」
ミリアの顔が真っ赤になる。
慌てる姿が可愛らしい。
食堂に笑い声が響いた。
そんな穏やかな空気の中、ビルセイヤは改めて全員へ視線を向ける。
「明日の配置を確認しておこう」
自然と場が引き締まる。
「俺とツバサが前後を見ながら全体の警戒を受け持つ。セシリアは中央で近接対応、エミリアは後方から索敵と支援だ」
「了解」
セシリアが頷く。
「何かあったらすぐ撃てるようにしておきます」
エミリアも静かに応じた。
「リリアとミリアは屋敷で留守を頼む」
その言葉に、リリアは背筋を伸ばす。
「はい。帰ってきた時に困らないよう、資金管理も備品補充も終わらせておきます」
「私も、お部屋の準備と食事の支度をして待っています!」
ミリアも元気よく答えた。
前線で戦う者。
屋敷を守る者。
役割は違っても、全員がクラン【ホーム】の一員だった。
◇◇◇
翌朝。
空は雲一つない快晴だった。
街門前には五台の馬車が並んでいる。
荷台には商品が積み込まれていた。
布。
食料。
日用品。
なかなか大規模な商隊である。
「出発!」
ロイドの号令が響く。
馬車がゆっくりと動き始めた。
クラン【ホーム】最初の依頼。
仲間たちの表情には期待と高揚感が浮かんでいる。
ツバサは前方警戒。
セシリアは中央。
エミリアは後方支援。
ビルセイヤは全体を見渡しながら最後尾を歩く。
風が心地良かった。
順調な旅になる。
誰もがそう思っていた。
だが――。
◇◇◇
街道脇の森の奥。
茂みの中から複数の視線が商隊を見つめていた。
獣ではない。
人間だ。
そして、その腰には武器が下がっている。
「……来たか」
誰かが低く呟いた。
不穏な気配。
まだビルセイヤたちは気付いていない。
クラン【ホーム】最初の依頼は、予想以上に波乱の幕開けとなろうとしていた。
――続く。




