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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第四十四話 クランの名前

 クラン設立が決まった翌日――。


 ビルセイヤの屋敷の食堂には、主要メンバーが集まっていた。


 ビルセイヤ。

 セシリア。

 エミリア。

 ツバサ。

 マイ。

 イリス。

 そして、リリアとミリア。


 テーブルの上には、紅茶や果実ジュース、そしてミリアが用意した焼き菓子が並んでいる。


 甘く香ばしい匂いが食堂を満たし、空気は和やかそのものだった。


 だが、今日の議題は一つ。


 新しく設立するクランの名前である。


「それで?」


 セシリアが紅茶を口にしながら言った。


「クランを作るのは決まったけど、名前はどうするの?」


 その瞬間。


 全員が固まった。


 しばしの沈黙。


 そして――。


「あ」


 ツバサが天井を見上げた。


「考えてなかったな」


 ビルセイヤも苦笑する。


「勢いで決めたからな……」


 昨日はクランを作ることばかり考えていた。


 肝心の名前については、見事なまでに全員の頭から抜け落ちていたのである。


 セシリアが呆れたようにため息を吐く。


「先が思いやられるわね」


「まあまあ」


 エミリアがくすりと笑う。


「今から決めればいいんですから」


 その言葉に、皆も苦笑しながら頷いた。


 こうして――クラン名会議が始まった。


◇◇◇


 最初に勢いよく手を挙げたのはリリアだった。


「冒険者らしい名前がいいと思います!」


 やる気満々である。


「例えば?」


 ビルセイヤが尋ねる。


 リリアは少し考えた後、自信満々に胸を張った。


「蒼き剣、です!」


 沈黙。


 悪くない。


 悪くはないのだが――。


「却下」


 ツバサが即答した。


「早すぎません!?」


 リリアが思わず抗議する。


 その様子に、皆がどっと笑った。


「いや、別に悪くはないんだが……」


 ツバサが言葉を選ぶように頭を掻く。


「ちょっとこう……真っ直ぐすぎるというか」


「普通すぎるってことですね……?」


 リリアがしゅんと肩を落とす。


「そこまでは言ってない」


 ビルセイヤが苦笑しながらフォローすると、リリアはむっと頬を膨らませた。


 そのやり取りだけで、食堂の空気はさらに和らぐ。


◇◇◇


 続いて、恐る恐る手を挙げたのはミリアだった。


「あの……」


「希望の翼、とか……どうでしょう?」


 今度は少し幻想的な名前だった。


 エミリアが感心したように頷く。


「素敵ですね」


「綺麗な響きです」


 マイも「いいと思います」と小さく微笑んだ。


 だが。


 ツバサだけは、何とも言えない表情をしていた。


「何よ、その顔」


 セシリアが不思議そうに尋ねる。


「いや……」


 ツバサが苦笑する。


「俺の名前がツバサだからな」


「なんかこう……俺が自分の名前を押し出したみたいになるだろ」


 一瞬の静寂。


 そして――。


「あははははっ!」


 セシリアが吹き出した。


 エミリアも口元を押さえて笑いを堪えている。


 ミリアは顔を真っ赤にしていた。


「ご、ごめんなさい……!」


「いや、悪くないんだ」


 ツバサは慌てて手を振る。


「ただ少し恥ずかしいだけで」


 その言葉に、また笑いが起きる。


 ミリアもつられて小さく笑った。


 こういう時間に、少しずつ自然に笑えるようになっている。


 そのことが、ビルセイヤには何だか嬉しかった。


◇◇◇


 そんな中。


 静かに紅茶を飲んでいたマイが、ふと顔を上げた。


「私は――」


 全員の視線が集まる。


 マイは少しだけ照れたように目を伏せ、それでも穏やかな声で続けた。


「家族みたいなクランがいいと思います」


「家族?」


 ビルセイヤが聞き返す。


 マイはこくりと頷いた。


「私たちは、ただの仲間ではありません」


「一緒に食事をして、一緒に笑って、困った時は助け合う」


「だから……家族みたいだなって思うんです」


 その言葉に、誰もすぐには返事ができなかった。


 だが。


 不思議なくらい、皆の胸にすとんと落ちた。


 セシリア。

 エミリア。

 ツバサ。

 リリア。

 そしてミリア。


 誰もが、思い当たるものがあった。


 特にミリアは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じていた。


 家族。


 失ったと思っていたもの。

 もう二度と手に入らないと思っていた居場所。


 けれど今は違う。


 この屋敷にいると、確かにそう思えるのだ。


◇◇◇


 すると。


 ツバサが何かを思いついたように顔を上げた。


「ホーム」


 全員が首を傾げる。


「ホーム?」


 リリアが聞き返した。


 ツバサは頷く。


「帰る場所って意味だ」


「家族が待っている場所」


「安心できる場所」


「俺たちのクランに、ぴったりだと思う」


 静寂が流れる。


 だが、その静寂は否定ではなかった。


 皆がその言葉を心の中で反芻していた。


 帰る場所。


 安心できる場所。


 家族が待つ場所。


 それは確かに、今の自分たちを表している気がした。


「素敵だと思います」


 最初に賛成したのはリリアだった。


「私もです」


 ミリアも続く。


「温かい名前ですね」


 エミリアが微笑む。


 イリスも優しく頷いた。


「ええ。とてもこの屋敷らしい名前です」


 セシリアは肩をすくめる。


「ビルセイヤらしいじゃない」


「俺らしいのか?」


 ビルセイヤが苦笑すると、セシリアは当然だと言わんばかりに笑った。


「だってあんた、困ってる人を見ると放っておけないじゃない」


「気づいたら人が集まってきて、気づいたら面倒見てるし」


「そういうの、もう“家”みたいなものでしょ」


 その言葉に、皆が納得したように頷く。


 最後に、全員の視線がビルセイヤへ向いた。


 クランリーダーとなる男。


 ビルセイヤは仲間たちの顔を見回した。


 信頼できる仲間たち。


 家族のような存在。


 守りたいと思える、今の居場所。


 自然と笑みが浮かぶ。


「分かった」


 ビルセイヤは静かに言った。


「クラン名は――」


 そして、はっきりと宣言する。


「ホームにしよう」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間――。


 パチパチパチパチ。


 自然と拍手が起こった。


 こうして誕生した。


 クラン【ホーム】。


 帰る場所。

 仲間たちの居場所。

 家族のような絆で結ばれたクラン。


 今はまだ、小さな組織に過ぎない。


 だが将来。


 この名は王国中へ広がることになる。


 数多くの冒険者たちが憧れる、伝説のクランへと成長していくのだ。


 その第一歩が、今ここで刻まれたのである。


◇◇◇


 会議がひと段落した後。


 ミリアが焼き菓子の皿を手に、少しだけ照れたように笑った。


「……ホーム、ですか」


「なんか、すごく好きです」


 その言葉に、ビルセイヤも微笑む。


「そうか」


「はい」


 ミリアは大切そうに胸元で手を握った。


 帰る場所。


 その言葉が、こんなにも温かいなんて思わなかった。


 失ったと思っていたものが、少しずつ形になっていく。


 そんな気がした。


 そしてリリアもまた、穏やかな眼差しで仲間たちを見つめていた。


 この場所を守りたい。


 この人たちの役に立ちたい。


 そんな想いが、静かに胸の中で育っていく。


 クラン【ホーム】。


 それは単なる組織の名前ではない。


 彼らにとっての――新しい家族の名前だった。


――続く。

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