第三十八話 洞窟の奥の少女
盗賊団との戦いは終わった。
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洞窟前には拘束された盗賊たちが並び、頭領だった怪物の亡骸が横たわっている。
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依頼は成功。
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商人たちを苦しめていた盗賊団は壊滅した。
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本来なら、ここで任務完了だ。
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しかし――。
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「まだ終わってない気がするんだ」
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洞窟の入口を見つめながら、ビルセイヤは静かに呟いた。
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その言葉にセシリアが頷く。
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「私も同じことを考えてたわ」
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「何か引っ掛かるのよね」
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Bランク冒険者として培った勘。
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それが警鐘を鳴らしていた。
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「盗賊団の規模に対して、押収した荷物が少ない」
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ツバサが腕を組む。
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「何度も商人馬車を襲ったにしては不自然だな」
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確かにそうだった。
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これほどの人数を養うには大量の食料と資金が必要になる。
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だが発見された物資は予想より少ない。
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まるで何かを隠しているようだった。
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「調べる価値はあるな」
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ビルセイヤの言葉に全員が頷く。
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こうして一行は洞窟内部の捜索を開始した。
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洞窟の中は薄暗い。
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壁には粗末な松明が掛けられていた。
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奥へ進むほど湿った空気が肌にまとわり付く。
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途中には盗まれた荷物が山積みになっていた。
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食料。
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武器。
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衣類。
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酒樽。
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金貨の入った袋。
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商人たちから奪った物だろう。
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「これだけでもかなりの被害額だな」
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ツバサが呟く。
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「全部ギルドへ提出だな」
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ビルセイヤも頷いた。
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証拠として必要になる。
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だが。
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違和感は消えない。
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まだ何かある。
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そんな予感がした。
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さらに奥へ進む。
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曲がりくねった通路。
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行き止まりの部屋。
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盗賊たちの寝床。
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そして――。
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ガシャン。
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微かな音が聞こえた。
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全員の足が止まる。
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「今の音……」
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リリアが不安そうに周囲を見回した。
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金属音だった。
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鎖か。
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それとも鉄格子か。
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ビルセイヤは剣の柄へ手を添えながら慎重に進む。
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曲がり角を抜ける。
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そして。
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そこにあったものを見て全員が息を呑んだ。
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鉄格子。
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牢屋だった。
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そしてその中に。
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一人の少女がいた。
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年齢は十六歳ほどだろうか。
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銀色の長い髪。
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痩せた身体。
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汚れた服。
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長い間まともな生活を送れていなかったことが一目で分かる。
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それでも。
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その瞳だけは美しかった。
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透き通るような青い瞳。
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まるで宝石のようだった。
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少女は突然現れた冒険者たちを見て目を見開く。
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「だ……誰?」
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震える声。
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恐怖。
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不安。
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そして僅かな期待。
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その全てが混ざっていた。
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ビルセイヤはゆっくりと剣を鞘へ納める。
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怖がらせないように。
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安心させるように。
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優しい声で告げた。
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「冒険者だ」
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「盗賊団討伐の依頼を受けて来た」
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「もう大丈夫だ」
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少女の瞳が大きく揺れる。
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信じられない。
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そんな表情だった。
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「本当に……?」
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消え入りそうな声。
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ビルセイヤは力強く頷く。
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「ああ」
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「盗賊団は壊滅した」
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「君は自由だ」
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その言葉を聞いた瞬間だった。
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少女の瞳から涙が溢れ出す。
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「うっ……」
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「うぅぅ……」
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必死に耐えていたのだろう。
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恐怖。
◇◇◇
絶望。
◇◇◇
孤独。
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全てが一気に溢れ出した。
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リリアが駆け寄る。
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「もう大丈夫です!」
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「安心してください!」
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優しく声を掛ける。
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少女は泣きながら何度も頷いた。
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ビルセイヤは牢の鍵を探す。
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近くの机の上。
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無造作に置かれていた鍵束を見つけた。
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ガチャリ。
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重い音と共に牢の扉が開く。
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少女は恐る恐る外へ出ようとした。
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だが。
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足に力が入らない。
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長期間の監禁生活。
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まともな食事も与えられていなかったのだろう。
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身体は限界だった。
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ふらりと倒れそうになる。
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その瞬間。
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ビルセイヤが咄嗟に支えた。
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「危ない」
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温かな腕。
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少女の身体が小さく震える。
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久しぶりだった。
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こんな優しさに触れたのは。
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少女は涙で潤んだ瞳を向ける。
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「ありがとう……ございます……」
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小さな声だった。
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それでも確かな感謝が込められていた。
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ビルセイヤは微笑む。
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「礼は後でいい」
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「まずは安全な場所へ帰ろう」
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少女は何度も何度も頷いた。
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こうして。
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盗賊団に囚われていた謎の少女は救出された。
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まだ名前も知らない。
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過去も分からない。
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だが。
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この出会いがビルセイヤの運命を大きく変える。
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仲間となり。
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家族となり。
◇◇◇
誰よりも彼を支える存在となる少女。
◇◇◇
未来の良妻との運命の出会いだった。
第二章 第三十八話
「洞窟の奥の少女」
――続く。




