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第三十七話 怪物を断つ剣

 グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


◇◇◇


 魔物化した盗賊団頭領の咆哮が洞窟前に響き渡った。


◇◇◇


 全身から溢れ出る禍々しい魔力。


◇◇◇


 異様なまでに膨れ上がった筋肉。


◇◇◇


 赤黒く染まった瞳。


◇◇◇


 皮膚の下では血管が浮き上がり、不気味に脈動している。


◇◇◇


 もはや人間ではなかった。


◇◇◇


 理性を捨て、力だけを求めた怪物。


◇◇◇


 禁忌の魔石が生み出した化け物だった。


◇◇◇


「なんて魔力……」


◇◇◇


 エミリアが息を呑む。


◇◇◇


 魔法使いである彼女だからこそ分かる。


◇◇◇


 あの力は異常だ。


◇◇◇


 普通の魔力ではない。


◇◇◇


 命そのものを燃料にして生み出された暴走した力。


◇◇◇


 まともな手段で得られるものではなかった。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 その代償によって得た力は本物だった。


◇◇◇


 ドンッ!!


◇◇◇


 地面が陥没する。


◇◇◇


 頭領が一瞬で距離を詰めた。


◇◇◇


 先ほどまでとは比べ物にならない速度。


◇◇◇


 巨大な戦斧が振り下ろされる。


◇◇◇


 ビルセイヤは即座に横へ跳んだ。


◇◇◇


 直後。


◇◇◇


 ドガァァァァァァン!!


◇◇◇


 地面が爆発したかのように砕け散る。


◇◇◇


 土砂が舞い上がり、小石が周囲へ飛び散った。


◇◇◇


 もし直撃していたら。


◇◇◇


 鎧ごと潰されていただろう。


◇◇◇


「なるほど」


◇◇◇


 ビルセイヤは静かに呟く。


◇◇◇


 強い。


◇◇◇


 間違いなく強い。


◇◇◇


 力も速度も先ほどとは別物だ。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 冷静に観察すると見えてくるものがある。


◇◇◇


 呼吸。


◇◇◇


 重心。


◇◇◇


 筋肉の動き。


◇◇◇


 戦斧の軌道。


◇◇◇


 力を得た代わりに技術が消えている。


◇◇◇


 攻撃は荒々しく単調だった。


◇◇◇


 理性を失った証拠である。


◇◇◇


「グオオオオオオオッ!!」


◇◇◇


 怪物が再び襲い掛かる。


◇◇◇


 横薙ぎ。


◇◇◇


 振り上げ。


◇◇◇


 叩き付け。


◇◇◇


 ただ力任せの連続攻撃。


◇◇◇


 だがその一撃一撃は凄まじい。


◇◇◇


 当たれば終わりだ。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 ビルセイヤは躱す。


◇◇◇


 一歩。


◇◇◇


 半歩。


◇◇◇


 身体を僅かに捻る。


◇◇◇


 必要最小限の動き。


◇◇◇


 剣道で培った間合い。


◇◇◇


 合気道で磨いた体捌き。


◇◇◇


 それら全てが自然に融合していた。


◇◇◇


「すごい……」


◇◇◇


 リリアが思わず呟く。


◇◇◇


 恐ろしい怪物を相手にしているのに。


◇◇◇


 ビルセイヤは一度も被弾していない。


◇◇◇


 まるで舞うように攻撃を捌いている。


◇◇◇


 一方。


◇◇◇


 ツバサたちは残党の掃討を続けていた。


◇◇◇


 しかし盗賊たちは既に戦意を失っている。


◇◇◇


 頭領の変貌に恐怖していた。


◇◇◇


「逃げろ!」


◇◇◇


「化け物になりやがった!」


◇◇◇


「俺たちまで殺される!」


◇◇◇


 統率は完全に崩壊していた。


◇◇◇


「終わりだな」


◇◇◇


 ツバサが静かに刀を振るう。


◇◇◇


 研ぎ上げられた日本刀が閃き、最後の抵抗を見せた盗賊を無力化した。


◇◇◇


 残る脅威は頭領のみ。


◇◇◇


 そしてその時。


◇◇◇


 ビルセイヤが動いた。


◇◇◇


 怪物の戦斧が振り下ろされる。


◇◇◇


 その瞬間。


◇◇◇


 半歩踏み込む。


◇◇◇


 懐へ入った。


◇◇◇


 長柄武器の弱点。


◇◇◇


 近距離だ。


◇◇◇


 ズバッ!


◇◇◇


 肩口を斬る。


◇◇◇


 ズバッ!


◇◇◇


 脇腹を裂く。


◇◇◇


 ズバッ!


◇◇◇


 太腿へ追撃。


◇◇◇


 連続する鋭い斬撃。


◇◇◇


「グギャアアアアアアアッ!!」


◇◇◇


 怪物が悲鳴を上げる。


◇◇◇


 鮮血が飛び散った。


◇◇◇


 だがまだ倒れない。


◇◇◇


 常人ならとっくに絶命している傷だ。


◇◇◇


 魔石による異常な生命力が支えているのだろう。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 勝負は見えていた。


◇◇◇


 力任せの怪物。


◇◇◇


 技を極めた剣士。


◇◇◇


 結果は最初から決まっていたのかもしれない。


◇◇◇


「終わりだ」


◇◇◇


 ビルセイヤが静かに告げる。


◇◇◇


 怪物が最後の力を振り絞った。


◇◇◇


 全てを賭けた突進。


◇◇◇


 全身全霊の一撃。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 ビルセイヤは恐れない。


◇◇◇


 剣を構える。


◇◇◇


 呼吸を整える。


◇◇◇


 視線を合わせる。


◇◇◇


 そして――。


◇◇◇


 一閃。


◇◇◇


 ズバァァァァァァァァァッ!!


◇◇◇


 白銀の軌跡が走った。


◇◇◇


 時間が止まったような錯覚。


◇◇◇


 静寂。


◇◇◇


 次の瞬間。


◇◇◇


 怪物の首が宙を舞う。


◇◇◇


 巨体が数歩進む。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 ドォォォォォォン!!


◇◇◇


 大地を揺らしながら崩れ落ちた。


◇◇◇


 静寂。


◇◇◇


 誰も声を出せなかった。


◇◇◇


 圧倒的な勝利だった。


◇◇◇


「勝った……」


◇◇◇


 セシリアが小さく呟く。


◇◇◇


 その言葉を合図に安堵の空気が広がった。


◇◇◇


 盗賊団壊滅。


◇◇◇


 依頼達成。


◇◇◇


 誰もがそう思った。


◇◇◇


 しかし。


◇◇◇


 ビルセイヤは剣を納めない。


◇◇◇


 視線は洞窟の奥へ向けられていた。


◇◇◇


 何かが引っ掛かる。


◇◇◇


 まだ終わっていない。


◇◇◇


 そんな予感があった。


◇◇◇


「中を調べよう」


◇◇◇


 その一言に仲間たちも頷く。


◇◇◇


 洞窟の奥。


◇◇◇


 そこで待つ運命の出会いを。


◇◇◇


 まだ誰も知らなかった。


第二章 第三十七話


「怪物を断つ剣」


――続く。

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