第三十六話 盗賊王との決戦
ドォォォォォン!!
◇◇◇
巨大な戦斧が地面へ叩き付けられた。
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衝撃で大地が揺れる。
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土砂が舞い上がり、周囲にいた盗賊たちまでもが慌てて距離を取った。
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洞窟前の広場。
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そこには二人の男が向かい合っていた。
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一人はビルセイヤ。
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もう一人は盗賊団を率いる頭領。
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身長は二メートル近い。
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鍛え上げられた筋肉。
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全身に刻まれた古傷。
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そして肩に担いだ巨大な戦斧。
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ただ立っているだけで周囲を圧迫するような威圧感があった。
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「若造」
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頭領が低い声で言う。
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「今なら見逃してやる」
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「仲間を連れて帰れ」
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意外な言葉だった。
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だが、その目には余裕がある。
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自分が負けるとは微塵も思っていないのだろう。
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長年積み上げてきた力への絶対的な自信。
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それが見て取れた。
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しかし――。
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ビルセイヤは肩をすくめる。
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「断る」
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即答だった。
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迷いはない。
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盗賊団を放置すれば、また誰かが被害に遭う。
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商人が襲われる。
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旅人が命を落とす。
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そんな未来を見過ごせるほど冷たくはなかった。
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「そうか」
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頭領が笑う。
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獣のような笑みだった。
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「なら死ね」
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次の瞬間。
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巨体が動く。
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速い。
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その体格からは想像もできない速度だった。
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巨大な戦斧が横薙ぎに振るわれる。
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ブォンッ!
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空気が唸る。
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ビルセイヤは即座に後方へ跳んだ。
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直後。
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ドガァァァァン!!
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背後の大木が真っ二つになる。
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周囲から息を呑む音が聞こえた。
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「嘘でしょ……」
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セシリアが思わず呟く。
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あの一撃を受ければ鎧ごと粉砕される。
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それほどの威力だった。
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だが。
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ビルセイヤは冷静に観察していた。
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力は確かに凄まじい。
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おそらく今まで戦った相手の中でも上位に入るだろう。
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しかし――。
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剣士としての経験が告げる。
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当たらなければ意味がない。
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「舐めるなぁぁぁぁぁっ!!」
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頭領が咆哮する。
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戦斧を振り回しながら突進。
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縦斬り。
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横薙ぎ。
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振り上げ。
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連続攻撃が襲い掛かる。
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だがビルセイヤは全てを躱した。
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半歩。
◇◇◇
一歩。
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最小限の動き。
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剣道で培った間合い。
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合気道で磨いた体捌き。
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まるで未来が見えているかのようだった。
◇◇◇
「何故だ!」
◇◇◇
「何故当たらん!!」
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頭領の声に苛立ちが混じる。
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その瞬間だった。
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ビルセイヤが踏み込む。
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一閃。
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ズバッ!
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鋭い斬撃が頭領の肩口を切り裂いた。
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鮮血が舞う。
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「ぐっ!?」
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頭領の目が見開かれる。
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初めて傷を負ったのだ。
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それを見た盗賊たちがざわめく。
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「お頭が傷を!?」
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「そんな馬鹿な!」
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彼らにとって頭領は絶対だった。
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誰にも負けない存在。
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その神話が崩れ始めていた。
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一方。
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ツバサたちも戦い続けていた。
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日本刀が閃く。
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スパンッ!
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盗賊の武器ごと断ち切る。
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セシリアも圧倒している。
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エミリアの魔法支援も的確だった。
◇◇◇
戦況は完全に冒険者側へ傾いている。
◇◇◇
「終わりだ」
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ビルセイヤが静かに告げた。
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頭領の息は荒い。
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傷も増えている。
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誰の目にも勝敗は明らかだった。
◇◇◇
だが。
◇◇◇
頭領は笑った。
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不気味に。
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狂気を孕んだ笑みだった。
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「まだ終わらねぇよ……」
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嫌な予感が走る。
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頭領は懐へ手を入れた。
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取り出したのは赤黒い魔石。
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禍々しい魔力を放っている。
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「まさか……!」
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エミリアの顔色が変わった。
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普通の魔石ではない。
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禁忌の力が込められた呪具だ。
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「これを使う時が来たか」
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頭領が嗤う。
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周囲の盗賊たちまでもが驚いていた。
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どうやら切り札らしい。
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そして――。
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バキッ!
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魔石が握り潰された。
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赤黒い光が溢れ出す。
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魔力が暴走する。
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筋肉が膨れ上がる。
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血管が浮き出る。
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瞳が赤く染まった。
◇◇◇
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
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人のものとは思えない咆哮。
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周囲の空気が震える。
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セシリアが剣を握り直した。
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ツバサも表情を引き締める。
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「魔物化……」
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エミリアが呟く。
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禁忌の術。
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理性と引き換えに力を得る代償。
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使った者は二度と元には戻れない。
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そして変貌した頭領は、巨大な戦斧を握り締めながらビルセイヤを睨み付けた。
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「殺ス……」
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低く響く声。
◇◇◇
その姿はもはや人間ではない。
◇◇◇
怪物だった。
◇◇◇
だが。
◇◇◇
ビルセイヤは静かに剣を構える。
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恐怖はない。
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守るべき仲間がいる。
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助けを待つ人がいる。
◇◇◇
だから負けるわけにはいかない。
◇◇◇
決戦の時は訪れた。
第二章 第三十六話
「盗賊王との決戦」
――続く。




