第三十四話 盗賊団のアジト
森の最奥部――。
ビルセイヤたちは、鬱蒼と茂る木々の陰から盗賊団の拠点を観察していた。
崖の陰に巧妙に隠された巨大な洞窟。
周囲には粗末ながらも見張り台が設置され、武装した男たちが巡回している。
焚き火の煙。
乱雑に積み上げられた木箱。
数台の荷車。
そして腰に剣や斧を提げた荒くれ者たち。
間違いなかった。
ここが盗賊団の本拠地である。
「思っていた以上に規模が大きいな」
ツバサが小声で呟いた。
目視できるだけでも二十人以上。
洞窟内部にもまだいるだろう。
総数は三十人を超えるかもしれない。
「完全に組織化されてるわね」
セシリアが眉をひそめる。
ただの盗賊の寄せ集めではない。
見張りを立て、巡回を回し、荷車まで管理している。
統率が取れている証拠だった。
まともに正面から突っ込めば乱戦になる。
数の暴力は侮れない。
「どうする?」
エミリアが静かに尋ねた。
自然と全員の視線がビルセイヤへ向く。
本人にその自覚はない。
だが、いつの間にか皆が彼を中心に動くようになっていた。
ビルセイヤはしばらく敵陣を見つめた。
見張りの配置。
巡回の経路。
洞窟の入口。
荷車の位置。
そして退路。
それらを一つずつ頭の中で整理していく。
正面突破は危険。
だが、時間をかけすぎても見張りに不審を抱かれる。
ならば――。
「見張りから潰そう」
出した結論は堅実だった。
「騒ぎになる前に少しでも数を減らす」
「こちらには奇襲の優位がある。使わない手はない」
無理に突撃する必要はない。
有利な状況を作ってから戦えばいい。
「俺とツバサで見張りを処理する」
「セシリアは援護」
「エミリアは魔法待機」
「リリアは後方で待機だ」
「はい!」
リリアが力強く頷いた。
戦闘はできない。
だが、自分の役割は理解している。
仲間たちが安心して戦えるよう支えること。
それもまた、大切な仕事だった。
◇◇◇
作戦開始。
ビルセイヤとツバサが静かに動く。
草を踏む音すら立てない。
気配を消しながら、見張り台へ近付いていく。
盗賊たちは気付かない。
油断しているのだろう。
まさかここまで追跡されるとは思っていない。
見張り台の下。
ビルセイヤが目で合図を送る。
ツバサが小さく頷いた。
三。
二。
一。
同時に飛び出す。
ズバッ!
ビルセイヤの剣が閃いた。
一人目の盗賊が何もできずに倒れる。
ほぼ同時。
ツバサの日本刀も抜き放たれた。
スパンッ――
鋭く、美しい斬撃。
まるで空気を裂くような一太刀で、もう一人の盗賊が崩れ落ちる。
ビルセイヤが思わず笑った。
「いい斬れ味だな」
「誰のおかげだと思ってる」
ツバサも口元を緩める。
愛刀は絶好調だった。
だが――。
奇襲は永遠には続かない。
少し離れた場所にいた盗賊の一人が、こちらへ振り返った。
「おい、何やって――」
言葉が止まる。
仲間たちが倒れている。
見知らぬ侵入者が、武器を構えて立っている。
状況を理解した瞬間だった。
「敵襲だぁぁぁぁぁっ!!」
叫び声が森に響く。
「ちっ……!」
ビルセイヤが舌打ちする。
洞窟内部が一気に騒がしくなった。
足音。
怒号。
武器を掴む音。
次々と盗賊たちが飛び出してくる。
剣を抜く者。
斧を担ぐ者。
弓を構える者。
数は多い。
三十人近い敵が、一斉にこちらへ殺気を向けていた。
「やっぱりこうなるか」
ツバサが苦笑しながら刀を構える。
ビルセイヤも剣を抜いた。
普通なら恐怖する数だ。
だが、誰一人として怯んでいない。
セシリアが前へ出る。
エミリアが杖を構える。
後方ではリリアが回復薬の準備を始めていた。
「行くぞ」
ビルセイヤが低く言う。
「おう!」
ツバサが応える。
次の瞬間――。
盗賊団討伐戦が始まった。
◇◇◇
一方その頃――。
洞窟のさらに奥。
薄暗い牢の中で、一人の少女が顔を上げた。
外から聞こえる怒号。
剣戟の音。
悲鳴。
何かが起きている。
少女は震える手で胸元を押さえた。
心臓が激しく鼓動している。
もしかしたら。
もしかしたら――。
誰かが助けに来てくれたのかもしれない。
絶望の中で消えかけていた希望。
その小さな灯火が、再び胸の中に灯る。
そして少女は、まだ知らない。
これから出会う青年が、自分の運命を大きく変えることを。
ビルセイヤとの出会いが、人生の転機になることを。
牢の外では、剣戟の音がさらに激しくなっていく。
運命の扉は、すぐそこまで迫っていた。
――続く。




