第三十三話 追跡開始
翌朝――。
まだ太陽が地平線から顔を出したばかりの早朝。
エメラルド・グリーンの街門前には、五人の冒険者が集まっていた。
ビルセイヤ。
セシリア。
エミリア。
リリア。
そしてツバサ。
盗賊団討伐依頼を受けたメンバーである。
空気は冷たい。
だが、全員の表情に迷いはなかった。
「準備はいいか?」
ビルセイヤが仲間たちを見回す。
「いつでも」
セシリアが腰の剣へ手を添えながら答える。
「問題ありません」
エミリアも静かに頷いた。
「補給品も確認済みです!」
リリアが胸を張る。
背負っている荷物には、保存食や回復薬、包帯などが詰め込まれていた。
戦闘はできない。
それでも、仲間を支えるためにできることはある。
それが今のリリアの役割だった。
「俺も問題ない」
ツバサが腰の日本刀へ軽く触れる。
ビルセイヤが研ぎ上げた愛刀。
あれから数日経った今でも、その切れ味は衰えていない。
むしろ手に馴染み、以前よりも扱いやすくなっていた。
「よし」
ビルセイヤが頷く。
「出発しよう」
こうして一行は、北街道へ向けて歩き始めた。
◇◇◇
途中、依頼主である商人と合流する。
ギルバードだった。
エメラルド・グリーンでも有力な商人の一人。
ビルセイヤが作った武器や包丁を、各地へ販売している人物でもある。
「お待ちしておりました!」
ギルバードが深々と頭を下げる。
普段は豪快な商人だが、今日の表情は真剣そのものだった。
「被害場所まで案内します」
「助かる」
ビルセイヤが頷く。
今回奪われた荷物の中には、高価な商品も含まれている。
だが、問題はそれだけではない。
商人にとって信用は命だ。
安全に商品を届けられなければ、取引先を失う。
だからこそ、盗賊団を放置するわけにはいかなかった。
数時間後――。
一行は襲撃現場へ到着した。
街道脇には、争った痕跡が色濃く残っていた。
折れた矢。
砕けた木箱。
血痕。
踏み荒らされた草。
激しい戦闘があったことを物語っている。
「ここです」
ギルバードが指差した。
ビルセイヤはしゃがみ込み、地面を観察する。
轍。
足跡。
草の倒れ方。
荷物を引きずった跡。
前世で培った観察力と、冒険者としての経験が自然と働く。
「多いな」
ツバサが眉をひそめた。
足跡の数が異常だった。
二十人どころではない。
三十人近い。
中には、重装備と思われる深い足跡まで混ざっている。
「完全に組織化されてるな」
セシリアも表情を険しくする。
ビルセイヤは周囲を見渡した。
そして、ある痕跡を見つける。
「荷車の轍だ」
街道から森の中へ続いている。
奪った荷物を運搬したのだろう。
「追跡できるか?」
ツバサが尋ねる。
「問題ない」
ビルセイヤは頷いた。
昨夜は雨が降っていない。
痕跡は十分残っている。
「行こう」
一行は森の中へ足を踏み入れた。
◇◇◇
深い森だった。
木々が空を覆い、昼間だというのに薄暗い。
鳥の鳴き声だけが、時折遠くから聞こえてくる。
全員が警戒しながら進む。
足音を抑える。
声も最小限にする。
リリアも必死に歩調を合わせていた。
戦闘要員ではない。
だが、彼女は決して足を引っ張ろうとはしなかった。
その姿を見て、ビルセイヤは小さく頷く。
強さの形は一つではない。
そう思った。
そして――。
ビルセイヤが突然立ち止まった。
「どうした?」
ツバサが小声で尋ねる。
ビルセイヤは前方を指差した。
木々の隙間。
そこから細い煙が上がっている。
焚き火だ。
さらに注意深く見る。
人影。
二人。
見張りだった。
粗末な革鎧。
腰には剣。
間違いなく盗賊団の人間である。
「見つけたな」
セシリアが剣へ手を掛ける。
だが、ビルセイヤは首を振った。
「まだだ」
「見張りを倒しても意味がない」
「狙うなら本拠地ごとだ」
全員が頷く。
確かにその通りだった。
見張りだけ倒しても、警戒されるだけ。
ならば、一網打尽にする方がいい。
一行は気配を殺しながら、さらに奥へ進んだ。
そして数十分後――。
森の最奥部。
崖の陰に隠された、巨大な洞窟が姿を現す。
周囲には盗賊たち。
荷車。
見張り台。
盗まれたと思われる商品。
完全な拠点だった。
「当たりだな」
ツバサが小さく笑う。
ビルセイヤも頷いた。
ついに見つけた。
盗賊団の本拠地を。
しかし――。
彼らはまだ知らない。
この洞窟の奥にいる、一人の少女の存在を。
ボロボロの服を纏い、希望を失いかけながらも、必死に生きようとしている少女。
その少女との出会いが、ビルセイヤたちの未来を大きく変えることになる。
そして運命の出会いは、もう目の前まで迫っていた。
――続く。




