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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第二章 鍛冶革命編

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第三十二話 北街道の盗賊団

 ――「北街道で商人馬車が襲われた」


 その報告を受けた直後。


 冒険者ギルドの会議室は、先ほどまでの空気が嘘のように張り詰めていた。


 クラン設立について語り合っていた熱は消え、代わりに漂うのは実戦前の緊張感だ。


 支部長は机の上へ一枚の地図を広げた。


「襲撃地点はここだ」


 指差した場所は、エメラルド・グリーンから北へ半日ほど進んだ街道沿い。


 王都へ向かう重要な交易路だった。

 毎日多くの商人馬車が行き交う、王国経済を支える大動脈である。


「被害状況は?」


 ビルセイヤが尋ねる。


 支部長は手元の資料へ目を落とした。


「護衛冒険者が数名負傷。幸い死者は出ていない」


「だが荷物の一部が奪われた」


 その言葉に、部屋の空気がさらに重くなる。


 死者が出ていないのは不幸中の幸いだ。

 だが、それで済む話ではない。


 北街道はエメラルド・グリーンの生命線だ。

 そこが脅かされれば、街へ届く物資も、人の流れも、金の流れも止まる。


「最近こういう事件が続いている」


 支部長が低い声で続けた。


「今回で四件目だ」


 全員が顔を見合わせる。


 一度や二度なら偶然かもしれない。

 だが四件となれば話は別だ。


「組織的だな」


 ツバサが腕を組む。


 支部長は頷いた。


「盗賊団だろう。しかも相当な規模だ」


「複数の目撃証言がある。人数は二十から三十人程度と見られている」


 二十人以上。


 もはや“盗賊”の一言で片付けられる規模ではない。

 武装した集団。下手をすれば小規模な傭兵団に匹敵する。


「拠点は?」


 セシリアが問いかける。


「まだ分かっていない」


 支部長は険しい表情で首を振った。


「森のどこかに隠れ家があるはずだが、発見できていない」


 普通の盗賊なら、ここまで長く街道を荒らし続けることはできない。

 逃走経路、物資の隠し場所、見張り、そして指揮系統。


 誰かが裏で動かしている。


 そんな予感があった。


 しばし、沈黙が流れる。


 そして――。


「受ける」


 ビルセイヤが言った。


 迷いのない声だった。


 支部長が目を細める。


「即決か」


「放っておけないだろ」


 ビルセイヤは肩をすくめた。


「商人たちが困る」


「街の人たちも不安になる」


「なら潰すしかない」


 あまりにも自然な答えだった。


 利益のためでも、名声のためでもない。

 困っている人がいるなら助ける。脅かす者がいるなら止める。


 それがビルセイヤという男だった。


「私も行くわ」


 セシリアが即答する。


「当然ですね」


 エミリアも頷いた。


「わ、私も頑張ります!」


 リリアも負けじと手を挙げる。


 支部長は思わず苦笑した。


「決まりだな」


「正式依頼として受理する」


 こうして、盗賊団討伐依頼が成立した。


◇◇◇


 ギルドを出た後、一行は屋敷へ戻り、すぐに準備へ取り掛かった。


 保存食。

 回復薬。

 予備の武器。

 野営道具。

 簡易の調理器具に、水袋、ロープ、布。


 旅慣れた彼らの準備は早い。


 工房ではビルセイヤが武器の最終点検を行っていた。


 愛用のロングソード。

 予備の短剣。

 投擲用ナイフ。


 刃こぼれはないか。

 柄に緩みはないか。

 抜き差しに違和感はないか。


 一本一本を丁寧に確認していく。


「本当に職人だな」


 工房へやってきたツバサが感心したように言う。


 ビルセイヤは当然のように答えた。


「武器を大切にしない奴は強くなれないからな」


 その言葉にツバサは静かに頷く。


 腰の日本刀へ手を置いた。

 ビルセイヤが研ぎ上げた愛刀だ。


 今では以前とは比較にならないほどの切れ味を誇っている。


「その通りだ」


 剣士として、心から共感できた。


 夕方になる頃には、全ての準備が整っていた。


 明日の早朝出発。

 盗賊団追跡作戦が始まる。


◇◇◇


 その夜。


 リリアは居間で帳簿を整理していた。


 食費。

 宿代。

 武器の材料費。

 回復薬の補充費。

 旅のために追加で買い込んだ保存食の代金。


 細かな支出を一つ一つ記録していく。


「すごいな」


 その様子を見ていたビルセイヤが呟いた。


「何がですか?」


「俺には絶対無理だ」


「こんな細かい計算」


 リリアは思わず吹き出した。


「得意分野が違うだけですよ」


「ビルセイヤさんは武器も作れますし、戦えますし」


「私はそんなことできません」


 そう言って微笑む。


 ビルセイヤも自然と笑みを浮かべた。


 頼りになる。


 本当にそう思った。


 彼女は戦えない。

 だが確実に仲間を支えている。


 金の流れを把握し、物資を管理し、生活を整える。

 誰かが戦えるのは、誰かがその土台を支えているからだ。


 クランを作るなら、こういう存在が絶対に必要になる。


「助かってるよ、リリア」


 何気ない一言だった。


 だがリリアの手がぴたりと止まる。


「え……?」


「帳簿も買い出しも、細かい管理も。俺じゃ絶対回せない」


「リリアがいてくれるから助かってる」


 まっすぐな感謝の言葉。


 リリアの頬が、じわりと赤く染まった。


「そ、そんな……」


 俯きながらも、その声はどこか嬉しそうだった。


 自分にも役割がある。

 必要としてくれる人がいる。


 その事実が、胸の奥を温かく満たしていく。


◇◇◇


 その頃――。


 北街道からさらに奥。

 深い森の中。


 人目につかない洞窟があった。


 薄暗い空間。

 酒の臭い。

 乱雑に積まれた荷物。

 無造作に転がる酒瓶と、奪われた商人の木箱。


 そこは盗賊団のアジトだった。


 その片隅で、一人の少女が膝を抱えていた。


 ボロボロの服。

 痩せた身体。

 不安に揺れる瞳。


 周囲には荒くれ者たちがいる。


「へへへ……」


「大人しくしてろよ」


 下卑た笑い声。


 少女は小さく肩を震わせた。


 けれど。


 その瞳の奥には、まだ消えていない光があった。


 諦めていない。


 生きることを。

 自由になることを。

 ここから抜け出すことを。


 そして――。


 この少女との出会いが、ビルセイヤたちの運命を大きく変えることになる。


 後に仲間となり。

 家族となり。

 ビルセイヤの人生を支える存在。


 新たな物語の幕が、静かに上がろうとしていた。


――続く。

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