第二十三話 北部森林防衛戦
翌朝――。
エメラルド・グリーン北部森林地帯。
まだ朝靄の残る森の入口には、数百人もの冒険者と兵士たちが集結していた。
Aランククラン。
Bランククラン。
各冒険者パーティ。
そして街を守る兵士たち。
誰もが武器を手にし、迫り来る脅威へ備えている。
スタンビート。
それは単なる魔物討伐ではない。
街の存亡を賭けた防衛戦だ。
一歩間違えれば、多くの命が失われる。
だからこそ、この場にいる誰一人として気を抜いてはいなかった。
「前衛部隊、配置完了!」
「弓兵隊、準備よし!」
「補給班も待機しています!」
各所から報告が飛び交う。
昨日の作戦会議で決まった通り、冒険者たちは谷を利用した防衛陣形を構築していた。
広い場所で戦えば、数に押し潰される。
ならば狭い場所へ誘い込み、敵の数を制限する。
その発想を提案したのは、ビルセイヤだった。
現在、彼は谷の入口付近で剣を構えている。
隣にはセシリア。
少し後方にはエミリア。
三人は同じパーティとして、最前線へ配置されていた。
一方、リリアは補給班に加わっている。
戦闘能力はない。
だからこそ、回復薬や食料の管理を任されていた。
それもまた、大切な役目である。
そして少し離れた場所――。
一人の青年が、日本刀を肩へ担いで立っていた。
ツバサだった。
黒髪の剣士。
まだビルセイヤとは深い付き合いはない。
名前を聞いたことがある程度だ。
最近、街で話題になっている若い鍛冶師兼冒険者。
その程度の認識だった。
「鍛冶師が最前線か……」
ツバサは小さく呟く。
半分は興味。
半分は疑問だった。
だが――。
この日、その考えは根底から覆されることになる。
その時だった。
森の奥から轟音が響く。
ウオオオオオオオオオオッ!!
獣とも魔物ともつかない咆哮。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
大地が震える。
そして――。
「来るぞぉぉぉ!!」
見張りの冒険者が叫んだ。
次の瞬間。
森の奥から無数の魔物が飛び出してきた。
ゴブリン。
オーク。
フォレストウルフ。
その数は数百。
いや、それ以上。
まるで濁流だった。
魔物の波が、谷へ向かって押し寄せる。
「弓兵隊!」
「放てぇぇぇぇ!!」
指揮官の号令が響いた。
無数の矢が空を覆う。
雨のように降り注ぐ矢。
先頭のゴブリンたちが倒れる。
だが、止まらない。
後続が次々と前へ出てくる。
「前衛部隊!」
「迎撃開始!!」
兵士と冒険者たちが一斉に武器を構えた。
そして激突。
戦場が一瞬で混沌へ変わる。
ビルセイヤも剣を抜いた。
自ら鍛えたロングソード。
何度も鍛え上げた相棒である。
「行くぞ!」
踏み込む。
一閃。
先頭のゴブリンが吹き飛ぶ。
二体目。
三体目。
流れるような剣筋。
無駄がない。
速い。
そして、正確だった。
「なんだ、あの剣……」
ツバサが目を見開く。
剣道。
しかも、達人級。
それだけではない。
「セシリア! 左から来る!」
「任せて!」
ビルセイヤの声と同時に、セシリアが飛び出す。
彼が崩した敵を、正確に仕留める。
さらに――。
「アイスアロー!」
エミリアの魔法が飛ぶ。
危険なオークの足を凍らせ、その動きを止める。
三人の連携は完璧だった。
まるで長年、戦場を共にしてきた仲間のように。
「強い……」
ツバサは思わず呟く。
だが、本当に驚いたのはそこではない。
互いを信頼している。
だから無駄がない。
だから強い。
その時だった。
「補給班だ!」
「突破されたぞ!」
悲鳴が上がる。
数匹のフォレストウルフが、側面から回り込んでいた。
向かう先には補給班。
リリアたちがいる。
危険だった。
しかし――。
「させるか!」
ツバサが駆ける。
日本刀が閃く。
一匹。
二匹。
三匹。
鋭い斬撃が、次々とフォレストウルフを切り伏せていく。
見事な剣技だった。
そして最後の一匹を倒した時――。
「ありがとうございました!」
リリアが深々と頭を下げる。
ツバサは少し照れながら頷いた。
「気にするな」
だが彼の視線は、再び前線へ向く。
そこではビルセイヤたちが戦い続けていた。
その背中を見ながら、ツバサの胸に新たな想いが芽生え始める。
一人では限界がある。
一つのパーティにも限界がある。
だが――。
仲間が集まり、信頼で結ばれた組織になれば。
もっと多くの人を守れる。
もっと大きな脅威に立ち向かえる。
クラン。
それこそが必要なのかもしれない。
まだ戦いは始まったばかり。
しかしこの瞬間、ツバサの中では既に決意が生まれ始めていた。
後に王国を代表する伝説のクラン。
その原点となる想いが、戦場の中で静かに芽吹いていたのである。
――続く。




