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異世界転移したら刀鍛冶だった。気づけば英雄になり、最後は創造神になっていた件  作者: バモス
第一章 冒険者への第一歩編

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第七話 初めての剣

 シーサスの街に、朝日が差し込む。


 まだ人通りも少ない早朝。

 冒険者ギルドの訓練場では、一人の青年が黙々と木の枝を振っていた。


 ビルセイヤである。


 異世界へ来てから、毎朝欠かさず続けている日課だった。


 ヒュン――と、風を切る音が響く。


 踏み込み。

 振り下ろし。

 体捌き。

 呼吸。

 重心移動。


 すべてが、淀みなく一つに繋がっていく。


 長年続けてきた剣道の型。

 刀鍛冶として剣を見つめ、剣士として剣を振るってきたビルセイヤにとって、それはすでに身体に刻み込まれたものだった。


「……ふぅ」


 最後の一振りを終え、ビルセイヤは大きく息を吐いた。


 額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 だが、疲労よりも心地よさの方が勝っていた。


 異世界へ来てからというもの、生きるために戦わなければならない場面が増えた。

 だからこそ、鍛錬を怠るつもりはない。


 剣は、一日休めば鈍る。


 師範代だった頃、師匠から何度も言われた言葉だ。

 その教えは、異世界に来ても変わらずビルセイヤの中に生きていた。


「相変わらず熱心ですね」


 聞き慣れた声がした。


 振り返ると、訓練場の入口にセシリアが立っていた。

 朝日に照らされた金髪が、柔らかく光を帯びている。


「おはよう」


「おはようございます」


 セシリアは中へ入ってきながら、少し苦笑する。


「毎朝やっているんですか?」


「ああ」


「よく続きますね」


「習慣みたいなものだ」


 ビルセイヤにとって、剣を振るうことは歯を磨くのと同じだった。

 やらないと落ち着かない。ただ、それだけである。


 しかしセシリアは、感心したように頷いた。


「だから強いんですね」


「そうか?」


「そうですよ」


 ゴブリンソルジャーとの戦いを思い出したのだろう。

 セシリアは真面目な顔で言った。


「努力し続けられる人は強いです。才能だけの人より、ずっと」


 その言葉に、ビルセイヤは少しだけ照れた。


「買いかぶりすぎだ」


「そんなことありません」


 セシリアはきっぱりと言い切る。


 まっすぐな目でそう言われると、さすがに悪い気はしなかった。


    ◇◇◇


 訓練を終えた二人は、ギルド食堂で朝食を取っていた。


 白パン。

 野菜のスープ。

 果実ジュース。


 簡素だが、朝の胃にはちょうどいい温かい食事だった。


「そういえば」


 パンをちぎりながら、セシリアがふと思い出したように口を開く。


「いつまで木の枝を使うんですか?」


 ビルセイヤの動きが止まった。


「……痛いところを突くな」


「だって普通は、もう武器を買いますよ」


 ぐうの音も出ない正論だった。


 異世界へ来てからというもの、ビルセイヤはずっと木の枝で戦ってきた。

 スライムも。ゴブリンも。ゴブリンソルジャーも。全部、木の枝だ。


 今思えば、なかなかにおかしい。


「確かにな」


 ビルセイヤは苦笑した。


 依頼をこなして、多少の金も貯まっている。

 借金の返済も順調だ。そろそろ正式な武器を持つべきだろう。


「今日は武器屋へ行くか」


「その方がいいと思います」


 セシリアは即答した。


「むしろ今まで木の枝でどうにかしてたのが変なんです」


「否定できないな……」


    ◇◇◇


 朝食後、二人は武器屋へ向かった。


 シーサスでも有名な武器店らしく、店内には朝から多くの冒険者が出入りしている。


 扉を開けた瞬間、鉄と油の匂いが鼻をくすぐった。


 壁には、ずらりと武器が並んでいる。


 剣。

 槍。

 斧。

 短剣。

 弓。

 解体用ナイフに、投げナイフまである。


「おぉ……」


 ビルセイヤは思わず感嘆の声を漏らした。


 刀鍛冶見習いだった血が騒ぐ。

 一本一本を手に取り、鍛造の癖や重心の置き方を確かめたくなるほどだった。


「兄ちゃん、武器を探してるのか?」


 店の奥から、店主らしき大男が声をかけてきた。


 筋骨隆々の身体。

 太い腕には、鍛冶職人特有の火傷跡がいくつも残っている。

 どうやらこの男も、ただの商人ではなく鍛冶をかじっているらしい。


「ああ」


「初心者か?」


「冒険者になってまだ数日だ」


「なるほどな」


 店主は顎に手を当てると、壁に掛かっていた一本の剣を持ってきた。


「なら、まずはこれだ」


 差し出されたのは、鉄のロングソードだった。


 冒険者の定番武器。

 扱いやすさと耐久性のバランスが良く、初心者にも勧めやすい一本なのだろう。


    ◇◇◇


 ビルセイヤは剣を受け取った。


 まずは重さを確かめる。

 次に重心。

 手の内への収まり。

 軽く振って軌道を確認する。


「どうだ?」


 店主が尋ねる。


 ビルセイヤは正直な感想を口にした。


「良い剣だ」


 品質は十分。

 鉄の精錬も悪くない。

 鍛造の癖も少なく、実用武器としてはかなり優秀な部類だろう。


 だが――。


「ただ?」


「少し慣れない」


 日本刀とは構造が違う。

 両刃の直剣。

 重心も、刃筋の通し方も、振り抜いた時の感覚も違う。


 剣道の感覚とまったく噛み合わないわけではない。

 だが、微妙なズレがあった。


 店主は、面白そうに笑った。


「兄ちゃん、珍しいな」


「そうか?」


「普通の冒険者見習いは、そんなところまで見ない」


 ビルセイヤは曖昧に笑ってごまかした。


 わざわざ自分が刀鍛冶見習いだったことを説明する必要もない。


    ◇◇◇


 その後も、ビルセイヤは店内を見て回った。


 銅の剣。

 鉄の槍。

 鉄の斧。

 解体用ナイフ。

 投げナイフ。


 武器を見るだけでも、その街の文化や技術水準が分かる。

 刀鍛冶としての視点で見れば、この武器屋はなかなか興味深かった。


 そんな中。


 棚の隅に、一本だけ静かに置かれている剣が目に入った。


「これは?」


 ビルセイヤが手を伸ばすと、店主が少し困ったような顔をする。


「ああ、それか。売れ残りだよ」


 刀身には小さな傷がある。

 新品ではないらしい。


 だが――不思議と目を引いた。


 装飾は少ない。

 派手さもない。

 それでも、どこか芯の通った雰囲気がある。


 ビルセイヤは剣を持ち上げた。


 手に馴染む。


 重さもいい。

 握りも悪くない。

 何より、振った時の感覚がしっくりきた。


「品質は悪くないな」


「だろ? でも見た目が地味でな。人気がないんだよ」


 ビルセイヤは何度か軽く振ってから、迷わず言った。


「これにする」


「本当にいいのか?」


「ああ。これがいい」


 理由は、うまく言葉にできなかった。


 だが、この剣を選ぶべきだと直感したのだ。


    ◇◇◇


 店を出る頃には、ビルセイヤの腰には一本の剣が下がっていた。


 異世界で初めて手に入れた武器。

 初めての相棒。


 木の枝とは違う。

 ちゃんとした剣だ。


 腰に重みがあるだけで、不思議と気持ちが引き締まる。


「ようやく冒険者らしくなりましたね」


 隣でセシリアが笑った。


「そうだな」


 ビルセイヤも自然と笑みを浮かべる。


 もっと強くなろう。

 もっと多くの人を助けられるようになろう。


 そんなことを考えていた、その時だった。


「セシリアさん!」


 冒険者ギルドの職員が、こちらへ駆けてくる。


 息を切らしながら叫んだ。


「緊急依頼です!」


「どうしたんですか?」


 セシリアの表情が、一瞬で引き締まる。


 職員は周囲を見回し、緊張した声で告げた。


「シーサス東の森付近で、オークの群れが確認されました!」


 その言葉に、周囲の冒険者たちがざわつく。


 オーク。


 ゴブリンとは比較にならない強敵。

 駆け出し冒険者が単独で遭遇すれば、命を落としてもおかしくない魔物だ。


「討伐隊を編成します! 動ける冒険者は至急ギルドへ!」


 職員の叫びを聞きながら、ビルセイヤは腰の剣へ手を置いた。


 初めて手に入れた武器。

 そして、初めて挑む本格的な強敵。


 胸の奥が、静かに熱を帯びる。


 まだ彼は知らない。


 このオーク討伐で、後に人生を大きく変えるエルフの少女――エミリアと出会うことになることを。


---


第一章 第七話


初めての剣


――続く。

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