第十一話 鍛冶師ギルド
エメラルド・グリーンへ到着したその日――。
普通の冒険者なら、まず宿を探すだろう。
荷物を置き、身体を休め、街の情報を集める。
長旅の後なら、当然の行動だった。
だが――。
「鍛冶師ギルドへ行こう」
ビルセイヤは迷いなく言った。
即決だった。
「やっぱりそうなりますよね……」
セシリアが額に手を当てる。
「予想通りです」
エミリアも苦笑した。
長旅の疲れなど感じさせない。
むしろ王都を出発した時より元気に見える。
その目は期待で輝いていた。
まるで子供がおもちゃ屋を見つけた時のように。
「まあまあ」
ギルバートが笑う。
「鍛冶師にとっては、聖地のような場所ですからな」
「聖地ですか?」
リリアが首を傾げる。
「ええ」
ギルバートは誇らしげに頷いた。
「この街の鍛冶師ギルドは、王国でも有名なのです」
「優秀な鍛冶師が集まり、数多くの名品を生み出しております」
「王都の貴族や騎士団も、わざわざ注文を出すほどですぞ」
その説明を聞いた瞬間、ビルセイヤの目がさらに輝いた。
セシリアは思わずため息を吐く。
これはもう止まらない。
そう確信した。
そして数分後――。
一行は鍛冶師ギルドへ到着する。
「おお……」
ビルセイヤの口から、感嘆の声が漏れた。
巨大だった。
石造りの重厚な建物。
高く伸びる煙突。
建物のあちこちから立ち上る白煙。
さらに――。
カン!
カン!
カン!
絶え間なく響く金属音。
鉄を打つ音が、建物の奥から街中へ響いている。
それはまるで、生き物の鼓動のようだった。
職人たちが忙しそうに行き交っている。
鉱石を運ぶ者。
武器を研ぐ者。
鎧を修理する者。
完成した品を運び出す者。
そこには確かな熱気があった。
「凄いですね……」
リリアも感心したように呟く。
鍛冶に詳しくない彼女でさえ、圧倒されるほどだった。
「まるで一つの街みたいです」
「実際、そのくらいの規模ですぞ」
ギルバートが笑う。
「この街の経済を支える重要な場所ですからな」
一行は建物の中へ入った。
受付には、大柄な男が座っていた。
腕は丸太のように太く、日に焼けた肌に無精髭。
一目で職人だと分かる風貌だった。
「何の用だ?」
低い声が響く。
「こちらのビルセイヤ殿が、鍛冶に興味を持っておりまして」
ギルバートが説明する。
男の視線がビルセイヤへ向いた。
「鍛冶師か?」
「見習いみたいなものです」
ビルセイヤは正直に答えた。
本人としては謙遜のつもりだった。
だが――。
「見習いか」
男は鼻を鳴らす。
「ここは遊び場じゃねぇぞ」
少し険悪な空気が流れた。
その時だった。
男の視線が、ビルセイヤの腰へ向く。
腰に差している剣。
男の目が細くなった。
「その剣……」
ゆっくりと立ち上がる。
「見せてみろ」
ビルセイヤは特に警戒することなく、剣を渡した。
男は鞘から抜く。
そして――。
動きが止まった。
完全に固まっている。
「おい……」
声が震えていた。
先ほどまでの横柄な態度が消えている。
「この剣……誰が打った?」
真剣な声だった。
「私です」
ビルセイヤが答える。
沈黙。
男は剣を見つめ続ける。
重心。
鍛接。
鍛錬。
焼き入れ。
職人だからこそ分かる。
この剣は異常だった。
決して派手ではない。
だが、無駄がない。
まるで熟練職人が何十年も積み重ねた技術を、一本へ凝縮したかのような完成度だった。
「嘘だろ……」
男の手が、微かに震える。
その様子に、周囲の職人たちも集まり始めた。
「どうした?」
「何かあったのか?」
そして剣を見る。
次々と表情が変わった。
「なんだこの鍛え方……」
「美しい……」
「誰が作ったんだ?」
空気が変わる。
先ほどまでの喧騒が、嘘のように消えた。
そこにいる職人たち全員の目が、剣へ釘付けになっている。
そして――。
その剣を作った青年へ。
ビルセイヤは少し困惑していた。
そんなに珍しいだろうか。
自分では普通に作ったつもりだった。
だが、職人たちの反応は明らかに違う。
その様子を見ていたギルバートが、口元を緩める。
商人としての勘が告げていた。
面白いことになる。
間違いなく、この街で――。
ビルセイヤという名は広まる。
鍛冶師として。
そして、伝説の始まりとして――。
――続く。




