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第十話 エメラルド・グリーンへ

 盗賊団のアジトを発見してから翌日――。


◇◇◇


 回収作業は順調に進んでいた。


◇◇◇


 アジトの中から発見された盗品は予想を遥かに超える量だった。


◇◇◇


 商会の刻印が入った木箱。


 冒険者の装備品。


 旅人の荷物。


 貴金属や日用品。


◇◇◇


 盗賊団は長い間、この街道で悪事を重ねていたのだろう。


◇◇◇


 積み上げられた盗品の山が、それを物語っていた。


◇◇◇


「これは大事件ですぞ……」


◇◇◇


 ギルバードが回収品の目録を確認しながら額を押さえる。


◇◇◇


「被害総額がどれほどになるのか想像もできませんな」


◇◇◇


 商人として複雑な心境なのだろう。


◇◇◇


 だが次の瞬間には真剣な表情で頷いた。


◇◇◇


「しかし良かった」


◇◇◇


「これで持ち主へ返せる品も多いはずです」


◇◇◇


 盗品が戻ってくれば救われる人がいる。


◇◇◇


 それだけでも今回の盗賊討伐には大きな意味があった。


◇◇◇


 盗賊たちは最寄りの町の衛兵へ引き渡されることになり、一行は再び旅を再開する。


◇◇◇


 そして今度は一人増えていた。


◇◇◇


 リリアである。


◇◇◇


 盗賊団のアジトで保護された少女。


◇◇◇


 まだ本調子ではないが、昨日よりも顔色は良くなっていた。


◇◇◇


「体調はどうだ?」


◇◇◇


 ビルセイヤが歩きながら尋ねる。


◇◇◇


「はい、大丈夫です」


◇◇◇


 リリアは小さく微笑んだ。


◇◇◇


「皆さんのおかげで元気になりました」


◇◇◇


「無理はするなよ」


◇◇◇


「ありがとうございます」


◇◇◇


 短いやり取り。


◇◇◇


 だがリリアの表情はどこか嬉しそうだった。


◇◇◇


 そんな二人を見ていたセシリアが微笑む。


◇◇◇


 ビルセイヤは無自覚だが面倒見が良い。


◇◇◇


 困っている人を見ると放っておけない。


◇◇◇


 だからこそ人が集まるのだろう。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 旅立ちから数日。


◇◇◇


 ついに目的地が見えてきた。


◇◇◇


「見えましたぞ!」


◇◇◇


 ギルバードが大声を上げる。


◇◇◇


 全員の視線が前方へ向いた。


◇◇◇


 そこには巨大な城壁がそびえ立っていた。


◇◇◇


 高く堅牢な石造りの壁。


◇◇◇


 その向こうには無数の建物が並び、さらに高い時計塔のような建築物が空へ伸びている。


◇◇◇


「凄い……」


◇◇◇


 リリアが思わず呟く。


◇◇◇


 セシリアも感心したように頷いた。


◇◇◇


「王都ほどではありませんが……」


◇◇◇


「十分大きな街ですね」


◇◇◇


「当然ですぞ!」


◇◇◇


 ギルバードが胸を張る。


◇◇◇


「ここは伯爵領エメラルド・グリーン!」


◇◇◇


「王国第二の都市!」


◇◇◇


「商人の街!」


◇◇◇


「職人の街!」


◇◇◇


「そして我が故郷ですぞ!」


◇◇◇


 完全に地元愛が溢れていた。


◇◇◇


 その様子に一同は思わず笑う。


◇◇◇


 やがて門へ到着した。


◇◇◇


 多くの人々が行き交っている。


◇◇◇


 商人。


 冒険者。


 職人。


 旅人。


◇◇◇


 荷馬車の列も長い。


◇◇◇


 王都に負けないほどの活気だった。


◇◇◇


「身分証の提示をお願いします」


◇◇◇


 門番が声を掛けてくる。


◇◇◇


 ビルセイヤたちは冒険者ギルドカードを提示した。


◇◇◇


 問題なく通過できる。


◇◇◇


 冒険者ギルドカード保持者は街の入場料が免除されるのだ。


◇◇◇


 そして。


◇◇◇


 リリアの番になった。


◇◇◇


 彼女は少し不安そうな顔をする。


◇◇◇


 当然だった。


◇◇◇


 身分証を持っていない。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


「彼女は盗賊団の被害者です」


◇◇◇


 ビルセイヤが事情を説明した。


◇◇◇


 盗賊討伐の件も伝える。


◇◇◇


 門番は目を見開いた。


◇◇◇


「盗賊団を捕まえたのですか?」


◇◇◇


「はい」


◇◇◇


「それは助かります」


◇◇◇


 どうやら街でも問題になっていたらしい。


◇◇◇


「後ほど衛兵詰所で確認だけお願いします」


◇◇◇


「分かりました」


◇◇◇


 無事に通行許可が下りる。


◇◇◇


 リリアは安堵の息を吐いた。


◇◇◇


「ありがとうございます……」


◇◇◇


「気にするな」


◇◇◇


 ビルセイヤは笑う。


◇◇◇


 そして一行はついにエメラルド・グリーンへ足を踏み入れた。


◇◇◇


 石畳の大通り。


◇◇◇


 立ち並ぶ商店。


◇◇◇


 活気に満ちた呼び込みの声。


◇◇◇


 焼き立てパンの香り。


 香辛料の香り。


 鉄を打つ音。


◇◇◇


 街全体が生きているようだった。


◇◇◇


「ようこそ!」


◇◇◇


 ギルバードが両手を広げる。


◇◇◇


「エメラルド・グリーンへ!」


◇◇◇


 その瞬間だった。


◇◇◇


 ビルセイヤの視線が一点に固定される。


◇◇◇


 街の中心部。


◇◇◇


 巨大な煙突から白煙を上げる建物。


◇◇◇


 遠くからでも聞こえる金属を打つ音。


◇◇◇


 そして看板には大きく刻まれていた。


◇◇◇


 ――鍛冶師ギルド。


◇◇◇


「おお……」


◇◇◇


 思わず声が漏れる。


◇◇◇


 その目は完全に輝いていた。


◇◇◇


 憧れの宝物を見つけた少年のように。


◇◇◇


「やっぱり」


◇◇◇


 セシリアが額を押さえる。


◇◇◇


「予想通りですね」


◇◇◇


 エミリアも苦笑した。


◇◇◇


 長旅の疲れ。


 宿探し。


 食事。


◇◇◇


 普通なら先にやることはたくさんある。


◇◇◇


 だが。


◇◇◇


 ビルセイヤの頭の中には今。


◇◇◇


 鍛冶しか存在していなかった。


◇◇◇


 こうして。


◇◇◇


 商人と職人の街エメラルド・グリーンでの新たな物語が幕を開ける。


◇◇◇


 そしてビルセイヤはまだ知らない。


◇◇◇


 この街での出会いが、自身の鍛冶師としての人生を大きく変えていくことを――。


第二章 第十話


「エメラルド・グリーンへ」


――続く。

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